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オークション出品カタログと著作権

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ビジネスに直結する実践的判例・法律・知的財産情報

石下雅樹法律・特許事務所 第42号 2010-02-03
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事務所概要
http://www.ishioroshi.com/btob/lawyer_officeb.html

顧問弁護士契約顧問料)についての詳細
http://www.ishioroshi.com/btob/komon_feeb.html
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1 今回の判例  オークション出品カタログと著作権
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H21.11.26 東京地裁判決

 美術オークション会社であるA社が、オークションに出品する美術品の画像を、カタロ
グ等に掲載しました。これに対し、その美術品の作家が、著作権の侵害を理由に提訴した
のが今回の事案です。

 争点は多数ありますが、ここでは、「展示に伴う複製(著作権法47条)として適法か
」という論点に絞ります。

 ここでA社は、カタログとパンフレットは、オークション等で著作物(美術品)を展示
するに当たって観覧者にその著作物を紹介するために作成されたものであって著作権法4
7条の「小冊子」に該当するので、これに美術品の画像を掲載したことは適法な行為であ
ると主張しました。

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2 裁判所の判断
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裁判所は、以下のように判断しました。

● 著作権法47条の「小冊子」は「観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をす
ることを目的とする」ものであるとされていることからすれば、観覧する者であるか否か
にかかわらず多数人に配布するものは、「小冊子」に当たらない。

● A社のカタログは、このカタログが綴じ込まれたフリーペーパーは、6万部が発行さ
れ、美術館、画廊、コンサートホール、劇場等の場所に備え置かれ無料で配布されていた
ものであり、その綴じ込みカタログは、オークションに参加し美術品を観覧する者である
か否かにかかわらず、自由に受け取ることができた。

● それで、A社のカタログは、著作権法47条の「小冊子」に当たるものとはいえない

        
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3 解説
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(1)美術品の著作物の展示と小冊子への複製

 美術作品などにおいては、販売・転売されることによって著作権者と所有者が異なるこ
とはよくあることです。そして著作権者ではない所有者にも、その美術作品(原作品)を
公に展示する権利があります(著作権法45条1項)。

 しかし、美術作品の所有者は、このような展示する権利はありますが、美術作品を複製
することはできません。しかしそれを徹底すると、美術作品を紹介する図録、解説するパ
ンフレットなども作れないこととなり、大変不便です。

 それで、著作権法47条は、美術の著作物等を「公に展示する者は、観覧者のためにこ
れらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載する
ことができる。」と定めました。

 したがって、ここでいう「小冊子」とは、この展覧会などの観覧者に美術作品の解説ま
たは紹介を目的とするものに限られます。それで、それ自体が実質的にみて観賞用と評価
されるような豪華本や画集はこの「小冊子」には含まれないことになります。

 また、今回の事例のA社が作成・頒布したカタログは、観覧する者であるか否かにかか
わらず多数人に配布するものであったため、現行法のもとでは、ここでいう「小冊子」に
は当たらないと判断されました。


(2)オークションにおける複製画像の取扱いと著作権法改正

 ただし、近年の社会状況の変化とともに、著作権法47条だけでは不都合な事態が生じ
るようになりました。

 最近では、インターネットオークションなど対面で行われない取引が広く普及していま
す。その際、取引される美術作品について、所有者が商品紹介用の画像をネット上に掲載
することは、著作権法47条の「小冊子」には入りません。そして、他にこれを根拠づけ
る規定もないため、美術作品の著作権を侵害する可能性があると指摘されていました。し
かしこの行為を違法とすることは、明らかに現在の取引の実情に合っていません。

 そのため、平成21年6月19日の著作権法改正により新たな47条の2が挿入されま
した。ここでは、美術品の所有者らがこの美術品を譲渡する際に、その譲渡の申し出を行
う目的のために、作品の複製・ネットワーク掲載等ができるようになりました。

 ただし、複製され掲載された作品がそれ自体鑑賞の目的になってしまうと著作権者の権
利を害します。それで、例えば、美術作品をデジタル画像にしてインターネットに掲載す
る場合は、サイズが32400ピクセル以下(複製防止措置がなされていれば9万ピクセ
ル以下)とされています(著作権法施行令7条の2、著作権法施行規則4条の2)。つま
りいわゆるサムネイルといわれる程度の大きさというわけです。

 この著作権法47条の2は、本年1月より施行されています。


(3)時代の変化と法改正

 多くの法律は時代の変化にあわせて改正がなされてきました。しかし多くの場合、時代
の変化が先行し、しばらく時間が経過した後に法改正がなされ、立法的な解決がなされる
ということが見られます。著作権法は特に多くの改正がされてきた法律ですし、昨年6月
に成立した資金決済法もそういえるでしょう。

 それで、問題はこの立法的な解決がなされるまでの「グレー」な期間、どのように対応
するかについては、頭の痛い問題ではないかと思います。コンプライアンスを重視する必
要もあり、他方で正式な法改正まで待っていては事業機会を逸することになりかねない、
その間をどのように両立させていくか、という問題です。

 このような場合には、他の場合よりもさらに、事前のリサーチによるリスクの把握とで
きる限りのリスク回避が必要になってきます。少なくとも、現行法とその現行の解釈に抵
触する行為が含まれないようなスキームを作ること、仮にリスクがあるとして、刑事責任
まで及ぶ可能性か、行政上の処分がありえるか、せいぜい民事上の損害賠償責任にとどま
るのか、負わなければならない損害賠償等の民事責任の程度はどうか、そのリスクが公に
なったときのレピュテーションの毀損によるダメージの程度、株主からの責任追及の可能
性等々が考えるべき要素となると思われます。

 これらの要素の検討においては、単なる法律の条文の解釈だけでなく、判例や学説も踏
まえた解釈の限界点のようなところを見ていく必要も生じますし、一見関係ないと思って
見過ごしている法律が実は関係するなど、広くかつ専門的見地から検討する必要がある場
合も多いかと思います。

 したがって、これらの問題については、担当者が独自に調査・検討することはもちろん
必要ですが、弁護士等の法律の専門家への相談・場合によっては意見書等の書面の取得を
検討することは、有益又は必要でしょう。

       
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4 お知らせ 40号達成無料相談企画のお知らせ
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 先般、本マガジンは、読者の皆様のご支援のお陰で、40号まで発行することができまし
た。厚く御礼申し上げます。

 弊所では、ご愛顧の感謝を込めて、以下の要領で、本マガジンの読者様限定の無料法律
相談を実施します。どうぞこの機会をご利用ください。

対 象:法人又は個人事業者の事業に関するご相談
  (個人の事業に関係しないご相談は対象外です)
対象者:先着4社様
方 法:弊事務所による面談
時 間:平日10:15~17:15のうちの1時間
申込方法:info@ishioroshi.com宛に、以下の事項を明記の上電子メールにて
(1)氏名または会社名
(2)業種
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(4)連絡先担当者(会社の場合)
(5)E-mailアドレス
(6)おおよそのご相談内容
(7)ご面談希望日時(必ず3個以上を挙げてください)
(8)弊所からの連絡方法の希望
メール ・ 電話 ・ いずれでも
(いただいた情報は、ご相談の予約とこれに関連したご連絡、また相談の実施以外の目的
には使用しません)

相談分野:顧問弁護士
     リーガルリサーチ・法律調査
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     不正競争防止法
     著作権
     独占禁止法
(ただし、以上の相談分野に当てはまるご相談でも、内容によってはお取り扱いできない
場合があります)

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5 前号のお詫びと訂正
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 前号の「No.43 2010-01-20 管理監督者に対する深夜割増賃金の支払義務」(1月20日
発行)について、発行号数に誤りがありました。正しくは、「No.41 2010-01-20 管理監
督者に対する深夜割増賃金の支払義務」でした。

 お詫びして訂正します。


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