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時間外労働について手帳の記載は証拠となるか?

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 経営・労務管理ビジネス用語の
   あれっ! これ、どうだった?!

  第52回  時間外労働について手帳の記載は
                   証拠となるか?
             
<第67号>      平成23年6月27日(月)
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発行人のプロフィル⇒ http://www.ho-wiki06.com
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こんにちは! 
メルマガ初訪問の皆さま、ありがとうございます。

1週間のご無沙汰でした。
亥年のアラ還、小野寺です。

今や世界的な作家となった村上春樹さんが、過日、
スペインの「カタルーニャ国際賞」授賞式で記念のスピーチを
しました。

現在の日本の現状を憂えるとともに、日本人が世界に発信すべき
責務と復興へのあるべき姿を感動的に語っています。

一部の抜粋になりますが、編集後記で紹介させていただきます。
同じ日本人として真剣に考えるべき内容と思うからです。

さて本論ですが、ある日の労働相談で、退職した労働者から
在職中に毎日のように残業したが、残業代をまったく支払って
くれなかった。

その事業所にはタイムカードがなく出勤簿に押印しただけで
あったため、自分の手帳に毎日の出社時刻と退社時刻を
記入していたとのことで、

これを基に残業代を請求できないかということでした。

今回は、この点について考えてみます。

★☆[今日のちょっといい話]★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

●今回は、村上春樹さんのスピーチから引用します。
福島原発の事故で、未だに周辺に放射能をまき散らし、土壌が
汚染され、10万人に及ぶ人々が立ち退きを余儀なくされた
方々への同苦からの言葉です。

「我々は原爆体験によって植え付けられた、核に対する
アレルギーを妥協することなく持ち続けるべきだった。
核を使わないエネルギーの開発を、日本の戦後の歩みの、
中心命題に据えるべきだったのです。

それは広島と長崎で亡くなった多くの犠牲者に対する、我々の
集合的責任の取り方となったはずです。
日本にはそのような骨太の倫理と規範が、そして社会的
メッセージが必要だった。

それは我々日本人が世界に真に貢献できる、大きな機会と
なったはずです。」と。

広島にある原爆死没者慰霊碑には、次のような言葉が
刻まれています。
『安らかに眠って下さい。過ちは繰り返しませんから』と。

今回の福島原発事故の体験を未来の使者に誤りなく伝え
同じ過ちを繰り返さないようにしたいものです。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

◆◆ 労働時間の適正な把握義務 ◆◆

○ 労基法には、使用者による労働時間の把握義務についての
規定は特にありませんが、

同法では労働時間休日、深夜業等について規定を設けて
いることから、使用者労働時間を適正に把握するなど、
労働時間を適切に管理する義務を有していると言えます。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置として
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に

関する基準」(平13.4.6基発第339号)において
次のように示されています。

(1)始業・終業時刻の確認及び記録。
使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者
労働日ごとの始業・終業時刻を確認・記録し、

これを基に何時間働いたかを把握・確定する必要が
あります。

(2)始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法。
使用者が始業・終業時刻を確認し記録する方法として、
原則として次のいずれかの方法によることとしています。

イ.使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること。

「自ら現認する」とは、使用者自ら、あるいは労働時間管理を
行う者が、直接、始業時刻や就業時刻を確認することです。

なお、確認した始業・終業時刻については、労働者にも
確認することが望ましいとしています。

ロ.タイムカード、ICカード等の客観的な記録を
基礎として確認し、記録すること。

このほかの客観的な記録として、IDカード、パソコン入力等も
含まれるとしています。

(3)自己申告制により始業・終業時刻の確認・記録を
行う場合。

自己申告による労働時間の把握については、
曖昧な労働時間管理となりがちであることから、

上記(1)(2)の措置がとれず、やむを得ず、自己申告制により
労働時間管理を行う場合は、以下の措置を行うこととしています。

イ.自己申告制を導入する前に、対象労働者に十分な説明を
行うこと。

ロ.自己申告により把握した労働時間が、実際の労働時間
合致しているか否かについて、
必要に応じて実態調査を実施すること。

ハ.労働者労働時間の適正な申告を阻害する目的で、
時間外労働時間数の上限を設定しないこと。

○ 以上の労働時間の適正な把握については、
時間外労働時間数の正確な把握はもとより、長時間労働による

脳・心臓疾患の防止と、労働安全衛生法第66条の8に
規定する健康管理上の対応にも重要な指標ともなることから
このような措置の基準が示されたものです。

◆◆ 労働時間の手帳記載は証拠となるか ◆◆

○ 質問にあった労働者(元従業員)が、日々の出社時刻と
退社時刻を自分の手帳に記載しており、

これを基に残業代を請求してきた場合、使用者はこれを
認めるべきなのか、あるいは将来、裁判になった場合に、

会社が関知していないこの手帳の日々記載の労働時間を根拠に
時間外労働が認定されることが可能でしょうか。

○ 本件の会社の場合、元従業員が在籍していた当時は
タイムカード等はなく、出勤簿に押印するだけであり

先に述べた労働時間把握措置基準のいずれも
実施していなかったとのことです。

この場合、残業代請求に関する訴訟等においては、
時間外労働時間の立証責任は、残業代を請求する労働者
側にあることから、

結局は、労働者の提出する手帳等の証拠力ないし証明力が
どうであるかとの問題となります。

◆◆ 同種の裁判例から考える ◆◆

(1)「フォーシーズンズプレス事件」(平20.5.27東京地裁判決)
○ この裁判では、労働者が提出した手帳や仕事リスト表について
次のように判示しています。

「十分に、これら手帳やリスト表の記載に信を置けるとまでは
言い切れない」としながらも、

「もともと従業員勤務時間を管理すべき責任は使用者にあり、
使用者がタイムカードによってこれを果たしていれば、
このような問題は生じなかった・・・

使用者が果たすべき義務を果たさなかったために、このような
問題が生じたのであるから、

その責任をすべて従業員に帰する結果とするのは相当でない」
として、労働者請求の時間外手当額の6割が認容されました。

(2)「日本コンベンションサービス事件」(平12.6.30
大阪高裁判決)

○ 上記と同じく、労働者提出の手帳のメモ等の効力について
次のように判示しています。

「原告らが記載した手帳のメモや、その勤務状況についての
本人もしくは他の原告らの供述、あるいは報告書の記載等は
必ずしも正確とはいえない。

また、客観性にも欠ける面があるので、これらをタイムカードの
記載と同列に扱い、これから右労働時間の証明が
なされているものと扱うことはできない」としているが、反面

「関西支社で時間外労働が常態化していたことは、
第一審被告の内部資料や証人の証言などから明らかである。

・・・時間外労働がなされたことが確実であるのに
タイムカードがなく、

その正確な時間を把握できないという理由のみから、
全面的に割増賃金を否定するのは不公平である。」として

労働者が主張した時間外労働時間の2分の1について
認める判決となりました。

(3)「オフィステン事件」(平19.11.29大阪地裁判決)

○ 次の事案は、出社時刻と退社時刻を労働者が自ら記入した
出退勤表により一定期間分をまとめ書きしたものについて
以下のように判示しました。

「他の証拠と矛盾する記載があることから、その記載を
そのまま採用することができない。・・・

しかし、全くでたらめということはできず、
一応、原告の記憶に基づき記載されているもので、
時間外労働算定の資料とすることは可能」であるとして、

出退勤表の記載から求められる時間外労働のうち、
約3分の2程度の時間外労働が認められたものです。

○「労働事件審理ノート(改定版)」の中に、
東京地裁の裁判官が描いた論考に次のようにあります。

「個人的な日記や手帳のような資料であっても、
一応の立証ができていると評価することも可能であり、

使用者の側が、有効かつ適切な反証ができない場合には、
その資料によって割増賃金の額を認容するのが
適切な事例も存する。」としています。

◆◆ 本件の場合の認容の可能性 ◆◆

○ 以上からすると、本件の時間外労働時間の根拠資料が
従業員の手帳の記載だけでは、直ちにその証拠力が
認められることにはならないと思います。

また、会社が手帳の記載の信用性を争うのであれば、
当該手帳のどの部分が、どのような理由で信用できないのかを
具体的に証明(反証)する必要があります。

ただし、その反証にある程度成功したとしても、
従業員時間外労働したことが間違いないと認められれば、

裁判例にもある通り、一定の時間外労働が認められる
可能性が高いと思われます。

◆◆ タイムカード打刻時刻通りが時間外労働となるか ◆◆

○ ちなみに、労働時間の適正な把握のために
タイムカードを用いて始業・終業時刻を打刻した場合、

その打刻した時間を全て時間外労働とすることは
できるのでしょうか。

○ 本来、労働時間とは使用者の明示もしくは黙示の
指揮命令下において労働する時間のことであり、時間外労働
同様に解されています。

従って、使用者の指揮命令下において就業時間外に労働した
場合に、時間外労働に対する割増賃金を支払うものと
されています。

そこで、タイムカードを労働者に打刻させている場合に、
はたしてその打刻時刻通りに、実際に労働者時間外労働
行っていたと認められるか、

換言すれば、使用者による明示又は黙示の時間外労働
指示があり、労働者使用者の指揮命令下において、

命じられた通りに時間外労働を行ったか否かが
争われることがあります。

○ タイムカードの有する意義について判例では、
「一般に使用者従業員にタイムカードを打刻させるのは、
出退勤をこれによって確認することにあると考えられるから、

その打刻時間が所定の労働時間の始業もしくは就業時刻よりも
早かったり遅かったとしても、

それが直ちに管理者の指揮命令の下にあったと事実上の
推定をすることはできない。」(「三好屋事件」昭63.6.27
東京地裁判決)と判示されており、

また、別な判例でも「被告におけるタイムカードも従業員
遅刻・欠勤を知る趣旨で設置されているものであり、

従業員労働時間算定するために設置されたものでないと
認められる。従って、同カードに打刻・記載された時刻をもって

直ちに原告らの就労の始期・終期と認めることはできない」
(「北洋電機事件」平元.4.20大阪地裁判決)と示され、

これらは、いずれもタイムカードでは直ちに労働時間
算定することができないとしています。

つまり、タイムカードによる打刻は、労働時間を記録する
ものではなく、勤怠管理上の記録のためと解されています。

○ 実際に就業時間外に会社に残っている場合、
仕事をしている場合だけでなく、社内同好会の集いで
残っている場合、

さらに直接、業務とは関係のない個人的にスキルアップのための
自己研鑽で残っている場合、

また、悪しき例としては、ダラダラ残業による時間外手当
稼ぎもないとは言い切れません。

そのため、タイムカードを労働時間管理の方法とした場合でも
漫然と在社している時間は時間外労働とは認めず、

必要な時間外労働だけを認めるためには、
時間外労働時間の管理とその認定方法を明らかにしておく
必要があります。

例えば、事前に直属の上司を通じて管理者に書面で申請し、
事後に時間外労働の結果報告に対して承認する等の
方式をとることが考えられます。

このように、タイムカードの打刻時間が
無条件に時間外労働となるのではない旨も含めて、

就業規則等にも明確な規定を置いて、
着実に実行することが求められます。(了)

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■■ 編集後記 ■■
きょうも最後までお読みいただきありがとうございます。

冒頭にも申し上げましたが、スペインでの授賞式における
村上春樹さんの受賞記念スピーチからご紹介します。
全文掲載とはなりませんが、かなり長文になりますので
ご了承ください。

●ここで僕が語りたいのは、建物や道路と違って、簡単には
修復できないものごとについてです。それはたとえば倫理であり、
たとえば規範です。・・・具体的に言えば、福島の
原子力発電所のことです。・・・なぜこのような悲惨な事態が
もたらされたのか、その原因はほぼ明らかです。・・・

我々はそのような事情を調査し、もし過ちがあったなら、
明らかにしなくてはなりません。その過ちのために、少なくとも
10万を超える数の人々が、土地を捨て、生活を変えることを
余儀なくされたのです。我々は腹を立てなくてはならない。
当然のことです。

●ご存じのように、我々日本人は歴史上唯一、核爆弾を投下された
経験を持つ国民です。1945年8月、広島と長崎という二つの都市に
米軍の爆撃機によって原子爆弾が投下され、合わせて20万を超す
人命が失われました。死者のほとんどが非武装の一般市民でした。

僕がここで言いたいのは・・・生き残った人の多くがその後、
放射線被曝の症状に苦しみながら、時間をかけて亡くなっていったと
いうことです。核爆弾がどれほど破壊的なものであり、放射能が
この世界に、人間の身に、どれほど深い傷跡を残すものかを、
我々はそれらの人々の犠牲の上に学んだのです。

●そして原爆投下から66年が経過した今、福島第一発電所は、
3か月にわたって放射能を撒き散らし、周辺の土壌や海や空気を
汚染し続けています。それをいつどのようにして止められるのか、
まだ誰にもわかっていません。

これは我々日本人が歴史上体験する、2度目の大きな核の被害ですが
今回は誰かに爆弾を落とされたわけではありません。
我々日本人自身がそのお膳立てをし、自らの手で過ちを犯し、
我々自身の国土を損ない、我々自身の生活を破壊しているのです。」

そして村上さんは、その原因は電力会社の「効率」の良い経営手法と
脅威的に発展した「技術力」への過信等の崩壊であり、我々が
電力会社と政府を非難することは当然だが、同時に、我々は
自らを告発すべきとし、我々は被害者であると同時に加害者で
あることを厳しく見つめ直すべきとしたうえで、

結論として、我々日本人は核に対する「ノー」を叫び続ける
べきであったとしています。

大変に、長文になってしまい申し訳ありません。
ただ、村上さんの叫びを我が身に置き換えて考えてみることも
意義のあることかと考え、紹介したものです。

では、また次号でお会いしましょう。
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