• HOME
  • コラムの泉

コラムの泉

このエントリーをはてなブックマークに追加

専門家が発信する最新トピックスをご紹介(投稿ガイドはこちら

職種限定採用社員と職種変更の有効性

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ビジネスに直結する実践的判例・法律・知的財産情報
弁護士法人クラフトマン 第162号 2015-12-01

-------------------------------------------------------
法律相談ご案内
http://www.ishioroshi.com/btob/soudan_firstb.html

顧問弁護士契約顧問料)についての詳細
http://www.ishioroshi.com/btob/komon_feeb.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
前書き
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 いよいよ冬が来たという季節の中ですが、皆様ご活躍のことと存
じます。本稿を執筆しております弁護士の石下(いしおろし)です。

 法律家の世界で外部から理解しにくいと思われているものの一つ
に、「正解は一つではない」というものがあります。その端的な象
徴は司法試験の論文試験ですが、この試験では、多くの場合、結論
(例えば犯罪が成立か否か、どんな犯罪が成立するか)は、常識か
ら外れていなければどんなものでも構わないのです。問題は、その
結論に達するために、最低限の知識と法的思考力を使って説得的な
論理を展開できているか否かです。

 しかし、世の中も同じで、答えがない中で自分なりの最善の解を
探して取り組むのが仕事の醍醐味ともいえるのではないかと思いま
す。そういう意味では、法律家の世界も他の実務者の世界も変わら
ないのではないかと思うところです。

 では、本論にまいります。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1 今回の判例  職種限定採用社員と職種変更の有効性
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


福岡高裁平成27年1月5日判決

 A氏と鉄道やバス事業を営むB社とは、職種をバス運転士とする
職種限定合意を含む労働契約を締結していました。

 しかし、A氏には、バス運転士以外の職種としての勤務を命ずる
辞令が発せられ、その後A氏が退職したため、A氏は、上記職種変
更は無効であると主張して、賃金差額・退職金差額および慰謝料
の支払いを求めました。

 なお、本件では、A氏は職種変更に同意したか、その同意の効力
が問題となりました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2 裁判所の判断
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 裁判所は、以下のとおり判断し、請求を認めませんでした。

● 一般に職種は労働者の重大な関心事であり、職種の変更が、通
常は給与等の他の契約条件の変更をも伴うものであることに照らす
と、労働者職種変更にかかる同意は、労働者の任意(自由意思)
によることを要する。

● 使用者の働き掛けにより不本意ながら同意した場合には、労働
者が当該職種に留まることが客観的に困難な状況であったのかなど
職種変更に同意する合理性の有無や、さらには職種変更後の状況等
を総合考慮すべきである。

● A氏に係る苦情、A氏による事故やトラブル、事故後の所内教
育中の状況によれば、A氏には、バス運転士として適格性に欠ける
ところがあったといわざるを得ず、B社において、運転士として乗
務させることができないと判断したことには相当の理由があり、A
氏が運転土として乗務を継続することは客観的に困難であった。

● また、職種変更に至る経緯にも照らすと、A氏による職種変更
の同意は任意によるものであった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
3 解説
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


(1)職種限定契約職種変更における制限
 労働者採用する際に、労働契約などによって、会社と労働者
間で、職種を限定する合意がなされることがあります。

 こうした合意は、特に、特定の経験や技能がある社員を「即戦力」
として採用するような場合に見られると思いますが、今回の事例の
ように、当該労働者を別の職種へ変更するには、労働者の承諾が必
要となるという点、留意が必要です。

 つまり、通常は会社は労働者に対する配転命令権を持っていて、
職場や職種、部署について一方的に配置転換する権利がありますが
職種限定契約の場合、こうした権利が制限される、という点です。

 この点、実務上、ある労働契約において、労働者が専門的な資格
を有する場合や、特殊技能を有する場合で、長年同じ職種にある労
働者について配置転換をした場合など、職種限定の合意があったか
否かが問題となるケースも少なくありません。それで、労働契約
などの書面を作成し、そこにおいて職種限定の有無や、職種・勤務
地・部署などの変更の可能性を明示しておくことは紛争防止上重要
と思います。


(2)合理性・同意を得るプロセスなども重要
 また、職種の変更について労働者の同意を得る場合、「とにかく
形だけでも同意を取ればよい」と、性急に同意を得ようとするなら
ば、後にそれが弱点として突かれてしまう場合もあるという点も認
識しておく必要もあります。

 今回の事例のとおり、一般に裁判所は、労働者に不利益な効果を
伴うような内容の同意については、同意の真意性や任意性を慎重に
判断しようとします。そしてその判断材料として、職種変更という
会社の判断が客観的に見て合理的であることが挙げられます。それ
で、会社としては、裁判所が「これじゃあしょうがないね」と思っ
てくれるよう、本人の能力や実績などに照らした客観的合理性を裏
付る、もろもろの事実を記録化する・証拠化するなどの措置が重要
となってきます。

 また、裁判所は「同意を得るプロセス」も重視します。それで、
性急に片付けようとして同意を強要したりするよりも、本人への丁
寧な説明を尽くすこと、本人が希望するのであれば労働組合代理
人弁護士などの同席も認める方向で考えること等、丁寧なプロセス
を経ることやこれらを記録することが、意外とモノを言うというこ
とも留意するとよいかと思います。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
4 弊所ウェブサイト紹介~労働法 ポイント解説
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企
業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。

例えば本稿のテーマに関連した労働法については

   http://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/roumu/index/

において解説しています。必要に応じてぜひご活用ください。

なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイト
において解説に加えることを希望される項目がありましたら、メー
ルでご一報くだされば幸いです。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本稿の無断複製、転載はご遠慮ください。

ただし、本稿の内容を社内研修用資料等に使用したいといったお申
出については、弊所を出典として明示するなどの条件で、原則とし
て無償でお受けしています。この場合、遠慮なく下記のアドレス宛、
メールでお申出ください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【編集発行】
弁護士法人クラフトマン
代表弁護士・弁理士 石下雅樹

新宿事務所
〒160-0022 東京都新宿区新宿4-2-16
パシフィックマークス新宿サウスゲート 9階
弁護士法人クラフトマン新宿特許法律事務所
TEL 03-6388-9679 FAX 03-6388-9766

横浜事務所
〒221-0835 横浜市神奈川区鶴屋町3-32-14 新港ビル4階
クラフトマン法律事務所
TEL 045-276-1394(代表) 045-620-0794 FAX 045-276-1470

mailto:info@ishioroshi.com

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
弊所取扱分野紹介(契約書作成・契約書チェック・英文契約
http://www.ishioroshi.com/btob/jisseki_keiyakub.html
(弁護士費用オンライン自動見積もあります)

弊所取扱分野紹介(英文契約書翻訳・英語法律文書和訳)
http://www.ishioroshi.com/btob/jisseki_honyakub.htm

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本稿に対するご意見、ご感想は mailto:info@ishioroshi.comまで
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■バックナンバー
  http://www.ishioroshi.com/biz/topic/

絞り込み検索!

現在22,386コラム

カテゴリ

労務管理

税務経理

企業法務

その他

≪表示順≫

※ハイライトされているキーワードをクリックすると、絞込みが解除されます。
※リセットを押すと、すべての絞り込みが解除されます。

スポンサーリンク

経営ノウハウの泉より最新記事

スポンサーリンク

労働実務事例集

労働新聞社 監修提供

法解釈から実務処理までのQ&Aを分類収録

注目のコラム

注目の相談スレッド

スポンサーリンク

PAGE TOP