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『民主党による税制改正』 その12 自動車関係諸税の整理等

 札幌市豊平区の 税理士 溝江諭(みぞえさとし)です。

 民主党のマニフェストではごく僅かしか触れられていない税制。そこで、より詳しく記載されている民主党の「政策集 INDEX 2009」から税制改正についての政策を見ていきましょう。


 『民主党による税制改正』その12 自動車関係諸税の整理等です。


 これまでお伝えした内容は以下のとおりです。

1回目・・・「納税者の視点に立った税制へ」という題で、「税制改正過程の抜本改革」「税・社会保障共通番号の導入」「納税者権利憲章の制定と更正期間の見直し」「国税不服審判のあり方の見直し」
2回目・・・「所得税改革の推進」という題で、「所得控除の整理、税額控除、手当等への切り替え」「給与所得控除の見直し」
3回目・・・「年金課税の見直し」と「住宅ローン減税等」
4回目・・・「給付付き税額控除制度の導入」、「金融所得課税改革の推進」
5回目・・・「消費税改革の推進」
6回目・・・「法人税改革の推進」
7回目・・・「中小企業支援税制」
8回目・・・「相続税等改革の推進」
9回目・・・「国際連帯税の検討」
10回目・・・「個別間接税改革の推進 」
11回目・・・「酒税・たばこ税」


3 自動車関連諸税の整理、道路特定財源の一般財源化、地球温暖化対策税

「わが国の自動車関係諸税は、あまりに複雑で、一部が二重課税となっている等、自動車ユーザーに過重な負担を強いており、抜本的な整理が必要です。整理にあたっては、間接税の基本的な考え方に基づいて二重課税の排除等を行います。同時に、自動車の資産性や温暖化ガスの排出、交通事故、騒音などの社会的なコストに着目し、負担を求めることとします。
 以上のような考え方から、自動車関係諸税について以下のように整理します。
 自動車取得税は消費税との二重課税回避の観点から廃止します。自動車重量税および自動車税は、保有税(地方税)に一本化し、その税収を自動車から生じる社会的負担に広く対応する地方の一般財源とします。ガソリン等の燃料課税は、一般財源の「地球温暖化対策税(仮称)」として一本化します。
 なお、上記の改革を実現する第一歩として、暫定税率は地方分を含めてすべて廃止します。国直轄事業に対する地方自治体の負担金制度を廃止して、暫定税率廃止後においても、地方における道路整備事業は従来水準を維持できるようにします。」

 民主党の主張は以下のとおりです。 

1 自動車関係諸税の暫定税率は地方分を含めすべて廃止する。
2 自動車関係諸税は、あまりに複雑で、かつ、ユーザーに過重な負担を強いている面があるので整理する。
3 自動車取得税は消費税との二重課税回避の観点から廃止する。
4 自動車重量税および自動車税は、保有税(地方税)に一本化し、その税収を自動車から生じる社会的負担に広く対応する地方の一般財源とする。
5 ガソリン等の燃料課税は、一般財源の「地球温暖化対策税(仮称)」として一本化する。

 自動車関係諸税には、国税である揮発油税や自動車重量税等、地方税である自動車取得税や軽油引取税等があります(注1)。もともとこれらの暫定税率は昭和49年のオイルショックの際に、ガソリン等の消費を抑制するために定められたものですが、実際はその抑制効果が上がらず、追加で目的とされた「道路建設の促進」の方が主目的になってしまったという経緯があります。

 自動車関係諸税のうち、暫定税率による上乗せ分は平成21年度税収のうち、国税で1兆7千億円、地方税で8千億円、合計で約2兆5千億円となっており、全税収84兆6千億円の約3%を占めています。

 このうち自動車取得税と軽油引取税の暫定税率は2008年3月31日をもって一旦失効しましたが、その後衆議院で再議決され、2008年5月1日から再び暫定税率が復活しましたし、自動車重量税については再議決により暫定税率が失効することなく延長され、暫定税率による増税が続いているのが現状です。

 民主党はまずこの暫定税率の廃止を謳っています。もともと民主党がこれを政策として掲げていた理由は次の点にありました(注2)。

1 暫定と言いながら、35年間にも及ぶ恒久財源となっている。
2 道路を作るための道路特定財源とされている。
3 それが政官財の癒着を生む要因となっている。
4 これを一般財源化し、国民の生活に必要な予算にまわすべきだ。

 しかし、21年度からすでに一般財源化された(注3)ため、暫定税率の廃止を求める理由は1だけとなりました。確かに35年にも渡る長期間、延長を繰り返しておきながら、これを暫定と言うのはおかしいですね。ここは民主党が主張するように、一度廃止の上、自動車関係諸税を再構築するのが良いでしょう。なお、せっかく一般財源化したのですから、その実効性を高めるための努力が民主党には求められています。

 すでに、「『民主党による税制改正』 その10 個別間接税改革の推進」で述べたように、間接税は、①担税者である国民の「税に対する関心度」を低下させる要因となっていること、②国民の生活費をアップさせるという問題点を持っているため、私は、間接税制度はできるだけ少ない方が望ましいと思っています。

 この点からも、自動車取得税は廃止すべきですし、自動車重量税および自動車税を保有税(地方税)として一本化することにも賛成です。ただ、車歴13年超のガソリン車などの自動車税の10%重課については、これを保有税に引き継ぐことはやめるべきでしょう。車歴が長いと言うことは、貴重な資源から作られた車を大切に使用していることの証ともいえ、褒められることはあっても、罰を与えるべき性質のものではないからです。
 
 さて、民主党がこれらの政策を実現すると、暫定税率の廃止で2兆5千億円、自動車取得税の廃止で1千7百億円、合計約2兆7千億円の税収がなくなることを意味します。この財源の手当てをどうするのか?これが次の問題になります。

 これに対し、民主党の政策には直接的な対策が記載されていません。しかし、ガソリン等の燃料課税については、『一般財源の「地球温暖化対策税(仮称)」として一本化』するとしていますので、恐らくはこの中で上記の不足財源も手当てする積もりなのでしょう。

 平成 21年 9月22日、国連気候変動首脳会合において、鳩山首相は次のように演説しました。

 「IPCCにおける議論を踏まえ、先進国は、率先して排出削減に努める必要があると考えています。わが国も長期の削減目標を定めることに積極的にコミッ卜していくべきであると考えています。また、中期目標についても温暖化を止めるために科学が要請する水準に基づくものとして、1990年比で言えば 2020年までに 25%削減をめざします。
 これは、我々が選挙時のマニフェストに掲げた政権公約であり、政治の意思として、国内排出量取引制度や、再生可能エネルギーの固定価格買取制度の導入、地球温暖化対策税の検討をはじめとして、あらゆる政策を総動員して実現をめざしていく決意です。
 しかしながら、もちろん、我が国のみが高い削減目標を掲げても、気候変動を止めることはできません。世界のすべての主要国による、公平かつ実効性のある国際枠組みの構築が不可欠です。すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が、我が国の国際社会への約束の「前提」となります。(以下略) 」

 世界を驚かせる結果となった日本の新首相による「温室効果ガス 25%削減宣言」です。

 前首相の麻生太郎氏は2009年6月に、2020年の温室効果ガス削減目標を、「真水」分で1990年比8%削減と発表していましたので、世界はその差に驚いたわけです。鳩山首相が宣言した25%削減が2020年までに実現できるかどうかについては、国内でもいろいろな意見が出ているようですが、それはともかく、一国の総理が国連と言う公開の場において宣言したことですから、2020年になって、「達成出来なかった。ごめんね。」とはいかないでしょう。そのためわが国では、政府、地方自治体、経済界、企業、国民がそれぞれの立場で、その実現のために努力することが求められます。

 民主党はその実現のためのひとつの手段として間接税を使おうとしています。それが、ガソリン等の燃料に対する「地球温暖化対策税(仮称)」です。

 具体的な課税物件や課税標準、税率についてはこれから詰めることになるのでしょうが、税制調査会における資料(注4)によると、現状における我が国の環境関連税制の税収はGDP比1.7%と主要先進国の中ではアメリカ0.9%、カナダ1.2%に続き低水準となっており、北欧諸国の約半分の水準でしかありません。おそらく民主党は、自動車関係諸税を整理の上、「地球温暖化対策税(仮称)」をGDP比0.6%前後に設定することにより3兆円ほどの税収増を計ろうとするのではないでしょうか。もちろん、最終的にはこれは国民の負担となります。

 間接税は国民の生活費のアップにつながるため、できるだけ低税率に抑えることが望ましいのですが、政治面、経済面で日本が世界においてリーダーシップを発揮しつつ、国益を守るためには、この程度の負担増(3兆円-2.7兆円=0.3兆円)は積極的に担うべき負担と言えるのではないでしょうか。


4 徴税の適正化

 「毎年、1兆円弱の新規滞納が生じている現状にかんがみ、徴税の適正化を図ります。また個人・法人合計で1000億円近くも加算税が生じている状況を是正するため、罰則の強化や重加算税割合の引き上げを行います。
 消費税の還付額が年間3兆円にも達していますが、その中に相当額の不正な還付が存在します。これを防止するため、還付に係わる調査機能を強化します。企業活動の国際化に伴い、「移転価格税制」が課題となっています。企業活動の円滑化を図るため、速やかに関係各国と調整を行う体制を整えると同時に、一部に見られる租税条約の乱用等不適切な事案の摘発を強化します。」

 民主党の「政策集 INDEX 2009」の「税制」の最後に書かれているのがこの文章です。課税庁はこれまでも徴税の強化を常時行ってきましたが、それをさらに強化しょうとするものです。それも国内課税の分野だけではなく、国際課税の分野においても徴収強化を行おうとしています。
 
 今から10年前の1999年、私は「個人課税の再検討」という本の中(注5)で、「徴収管理コストの削減のための提案」を行いました。

 「現在、企業は税や社会保険労働保険のために多大の事務負担を余儀なくされている。

 行政改革を本格的に行おうとするのであれば、これらの役所機能を整理統合し、手続きの簡素化をぜひ図ってもらいたい。例えば、被用者保険である健康保険厚生年金保険雇用保険被保険者や給与の支払対象者については、すべて基礎年金番号で一元的に管理するようにし、これらの手続きも一本化するなど、類似の手続きを整理統合し、これらの手続きをすべて市町村で済むようにするという具合にである。

 これは、ただ単に窓口を一本化するだけではなく、その機能も一本化すべきである。例えば、適用や徴収、調査も一本化し、市町村はできる限りの税と社会保険料の徴収も一本化して行い、徴収した税は、都道府県や国へ一定基準で交付し、社会保険料は、各管轄官庁にその保険料率に基づいて交付する。これらに対する調査も重複する内容のものが多いので、すべて市町村で行うようにする。

 このようにすることにより、社会保険事務所や職業安定所や労働基準監督署は、給付事務だけを行えばよく、これらの役所や税務署、都道府県事務所の大幅なスリム化を図ることができ、徴収管理コストも大幅に削減できるはずである。

 (略)

 以上のようにするためには、国民一人ひとりに基礎年金番号を持たせ、企業はこの番号と被扶養者数、給与支給額、各社会保険料の総額、所得税額と住民税額をOCRシートに記入し、税と社会保険料の納付時に一緒に提出することとする。市町村では基礎年金番号により各人ごとに名寄せし、1年間の給与総額と社会保険料を各人へ通知し、その清算手続きを必要とする者だけが、この通知書を所属企業に提出して税と社会保険料年末調整を受けるか、又は、自分で税と社会保険料確定申告をする。

 このようにすることにより、所得の捕捉率も上がり、社会保険料も所得に連動したものとなり、垂直的公平を今以上に保つことができ、企業にとっても社会保険年末調整に要する事務負担を大幅に軽減できることとなる。

 今後、ぜひ検討してもらいたいものである。」

 当時は、地方分権のことも頭の片隅に置きながらこれを書いたため、市町村を一本化の窓口として想定していますが、必ずしもこれにとらわれる必要はありません。しかし、その他の点については、今でも以上と同様の考えであることに変わりはありません。

 民主党は社会保険料国税の徴収については、社会保険庁と国税庁を一体化した歳入庁を作るとのことです。少しだけ、私の考えに近づいたと言えますが、行政の効率化をさらに進め、企業の事務負担の大幅な軽減を図るためにも、その他の点においても、ぜひ、私が提案した方向へ踏み出してもらいたいものです。その上で、善良な納税者に対する調査はどんどん省略し、その分、悪質な納税者に対する調査や査察を今以上に重点的に行う体制を確立して欲しいと思います。

 なお、国際課税の分野については、租税条約をより多くの国と締結し、わが国の徴税権を確保するためにも、優秀な人員の確保育成により多くの力を注いでもらいたいものです。
 

 皆さんはどう考えますか?
 

 See you next !


 次回は、『民主党による税制改正』の最終章として、「その13 社会保険の改正」を取り上げます。


 その他の『ちょっとためになる情報』は、次のサイトの「お知らせ」と「ブログ」でどうぞ!!
 http://www.ksc-kaikei.com/


(注1)自動車関係諸税(税制調査会)
http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/pdf/21zen4kai4-2.pdf

(注2)暫定税率の廃止(民主党)
http://www.dpj.or.jp/news/?num=12573

(注3)一般財源化の衆院議員での可決2009/4/22(Japan Press Network)
http://www.47news.jp/CN/200904/CN2009042201000117.html

(注4)各国の環境関連税制の税収比較(政府税制調査会)
http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/pdf/21zen4kai4-3.pdf

(注5)「個人課税の再検討」(北海道税理士会編、税務研究会出版局)
第2編第5章「社会保障政策と租税制度」P186からP188


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    札幌市豊平区  税理士 溝江 諭 KSC会計事務所  
          http://www.ksc-kaikei.com/
 
    札幌学院大学  客員教授 溝江 諭 税務会計論担当 
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