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石下雅樹法律・
特許事務所 第87号 2012-10-02
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1 今回の判例 仕事上のミスを理由とする
使用者の
損害賠償請求
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
京都地裁 平成23年10月31日判決
今回は、システム設計開発会社であるX社と、同社の社員Y氏との
訴訟です。本件では、幾つかの争点がありますが、一点だけを取り
上げます。
Y氏が、取引先A社を担当するX社内のチーム責任者兼担当窓口に
なった頃から、納品業務に不具合がある等A社からのクレームが入
るようになりました。結果、A社からの受注は減り、売上が減少し
ました。
X社は、Y氏の業務内容に問題(X社の定めたルール違反、プログ
ラム作業のノルマ未達成等)があったとして、Y氏に対し、代わり
のスタッフの人件費や売上減少分等の
損害賠償を請求しました。
本件では、
労働者Y氏が
労働契約上の義務違反(
債務不
履行)につ
き
損害賠償責任を負うかどうか、言い換えれば、
使用者の
損害賠償
請求が認められるかどうかが問題となりました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2 裁判所の判断
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
裁判所は、以下のとおり判断し、X社の請求を認めませんでした。
(1) 売上減少やノルマの未達成につき、Y氏のミスが原因であ
ることは認められるが、故意または重過失があったとまでは認め
られない。
(2)
労働者が仕事上ある程度のミスをしてしまうことは当然あ
り得ることで、このミスの結果として売上減少等が生じることの
リスクは想定の範囲内として、
使用者が負うべきである(危険責
任)。
(3) X社の請求する損害額(約2000万円)は、Y氏に支給
された給料総額と比べるとあまりにも高額であり、
労働者個人に
負担させることは相当ではない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
3 解説
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(1)
労働者に対する
損害賠償請求の制限
労働契約においては、対等関係にある企業間の場合とは異なり、
使用者の
労働者に対する
損害賠償請求(労働義務違反、
不法行為の
場合両方)につき、権利行使が制限されることがあります。
例えば、
労働基準法では
違約金や賠償額の予定が禁止されており
(16条)、賠償金を
労働者の同意なしに
賃金から
天引きすることも
禁止されています(24条、17条)。
加えて、本件と同様に、多くの裁判例では、信義則を根拠として、
使用者の
労働者に対する賠償請求に関して制限を加えています。以
下に裁判例での判断のポイントを整理します。
■ 賠償請求が認められない場合
労務提供過程で生じる通常のミス(軽過失)による損害だっ
た場合には、賠償請求自体が認められないことが多いといえま
す。
■ 賠償請求が制限される場合
使用者(会社)に生じた損害が
労働者の故意や重過失がある
場合であっても、以下の事情を考慮してケースバイケースに賠
償額が制限されることが多いといえます。請求額の半分または
25%程度に減額されるケースが多く見られます。
A
労働者のミスの程度・動機等
B
労働者の状況(地位・職務内容・
労働条件・
勤務態度)
C
使用者の管理体制(適切な指示や訓練がされていたか、保
険加入等の有無)
■ 賠償請求が制限されない場合
横領や背任などの悪質な不正行為、社会通念上相当な範囲を
超える引き抜きといった場合には、多くのケースで賠償額の制
限が考慮されていません。
(2) 実務上の留意点
近年、
使用者が、仕事上のミスで損害を発生させた
労働者に対し、
懲戒処分や
解雇に代えて金銭賠償を求めるケースが増えているよう
です。
しかし、明確な違法行為がなされた場合は別として、
労働者のミ
スによるものであっても、賠償請求が認められない場合や認定額が
大幅に制限される場合が少なくなく、無闇に
使用者側がコストをか
けて
損害賠償請求を起こしても、結果的にはコストや労力に見合わ
ない成果で終わってしまう場合も十分に想定されるところです。
判例の考え方に示されているとおり、会社としては、
従業員を雇
用する際には、他人を使用して利益を得ることの裏返しとして、業
務の通常の過程で生じうる過失によって
使用者が受ける損害につい
てのリスクは負担しなければならない、という点は十分留意すべき
点ではないかと考えられます。
そこで、そもそもミスが発生しにくい労働環境を作り出すこと、
一人の人のミスが会社の重大な損害を生み出しにくい業務体制や方
法の構築など、リスクを想定して対策を講じておくことは大切であ
るといえます。
また、こうした常日頃からの会社としての努力があれば、万一、
看過できない重過失などで会社に損害を与えた社員に
損害賠償請求
をする場合であっても、会社側の
過失相殺を理由とした賠償額の大
幅な減額という結果につながる可能性を減殺することができるかも
しれません。
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本マガジンの無断複製、転載はご遠慮ください。
ただし、本マガジンの内容を社内研修用資料等に使用したいといっ
たお申出については、弊所を出典として明示するなどの条件で、原
則として無償でお受けしています。この場合、遠慮なく下記のアド
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今回は、システム設計開発会社であるX社と、同社の社員Y氏との
訴訟です。本件では、幾つかの争点がありますが、一点だけを取り
上げます。
Y氏が、取引先A社を担当するX社内のチーム責任者兼担当窓口に
なった頃から、納品業務に不具合がある等A社からのクレームが入
るようになりました。結果、A社からの受注は減り、売上が減少し
ました。
X社は、Y氏の業務内容に問題(X社の定めたルール違反、プログ
ラム作業のノルマ未達成等)があったとして、Y氏に対し、代わり
のスタッフの人件費や売上減少分等の損害賠償を請求しました。
本件では、労働者Y氏が労働契約上の義務違反(債務不履行)につ
き損害賠償責任を負うかどうか、言い換えれば、使用者の損害賠償
請求が認められるかどうかが問題となりました。
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2 裁判所の判断
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裁判所は、以下のとおり判断し、X社の請求を認めませんでした。
(1) 売上減少やノルマの未達成につき、Y氏のミスが原因であ
ることは認められるが、故意または重過失があったとまでは認め
られない。
(2) 労働者が仕事上ある程度のミスをしてしまうことは当然あ
り得ることで、このミスの結果として売上減少等が生じることの
リスクは想定の範囲内として、使用者が負うべきである(危険責
任)。
(3) X社の請求する損害額(約2000万円)は、Y氏に支給
された給料総額と比べるとあまりにも高額であり、労働者個人に
負担させることは相当ではない。
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3 解説
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(1) 労働者に対する損害賠償請求の制限
労働契約においては、対等関係にある企業間の場合とは異なり、
使用者の労働者に対する損害賠償請求(労働義務違反、不法行為の
場合両方)につき、権利行使が制限されることがあります。
例えば、労働基準法では違約金や賠償額の予定が禁止されており
(16条)、賠償金を労働者の同意なしに賃金から天引きすることも
禁止されています(24条、17条)。
加えて、本件と同様に、多くの裁判例では、信義則を根拠として、
使用者の労働者に対する賠償請求に関して制限を加えています。以
下に裁判例での判断のポイントを整理します。
■ 賠償請求が認められない場合
労務提供過程で生じる通常のミス(軽過失)による損害だっ
た場合には、賠償請求自体が認められないことが多いといえま
す。
■ 賠償請求が制限される場合
使用者(会社)に生じた損害が労働者の故意や重過失がある
場合であっても、以下の事情を考慮してケースバイケースに賠
償額が制限されることが多いといえます。請求額の半分または
25%程度に減額されるケースが多く見られます。
A 労働者のミスの程度・動機等
B 労働者の状況(地位・職務内容・労働条件・勤務態度)
C 使用者の管理体制(適切な指示や訓練がされていたか、保
険加入等の有無)
■ 賠償請求が制限されない場合
横領や背任などの悪質な不正行為、社会通念上相当な範囲を
超える引き抜きといった場合には、多くのケースで賠償額の制
限が考慮されていません。
(2) 実務上の留意点
近年、使用者が、仕事上のミスで損害を発生させた労働者に対し、
懲戒処分や解雇に代えて金銭賠償を求めるケースが増えているよう
です。
しかし、明確な違法行為がなされた場合は別として、労働者のミ
スによるものであっても、賠償請求が認められない場合や認定額が
大幅に制限される場合が少なくなく、無闇に使用者側がコストをか
けて損害賠償請求を起こしても、結果的にはコストや労力に見合わ
ない成果で終わってしまう場合も十分に想定されるところです。
判例の考え方に示されているとおり、会社としては、従業員を雇
用する際には、他人を使用して利益を得ることの裏返しとして、業
務の通常の過程で生じうる過失によって使用者が受ける損害につい
てのリスクは負担しなければならない、という点は十分留意すべき
点ではないかと考えられます。
そこで、そもそもミスが発生しにくい労働環境を作り出すこと、
一人の人のミスが会社の重大な損害を生み出しにくい業務体制や方
法の構築など、リスクを想定して対策を講じておくことは大切であ
るといえます。
また、こうした常日頃からの会社としての努力があれば、万一、
看過できない重過失などで会社に損害を与えた社員に損害賠償請求
をする場合であっても、会社側の過失相殺を理由とした賠償額の大
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