相談の広場
いつも楽しく読ませて頂いています。
実は、素朴な疑問がでてきまして、三六協定で締結した時間外労働時間を越えて時間外労働を行ってしまった場合、何か企業に対しての罰則等があるのでしょうか。
一応エスケープ条項を三六協定の中に、盛り込んでいます。
すみませんが、教えてください。
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はじめまして、ゆうりん様。カワムラ社労士事務所の川村と申します。
早速、「エスケープ条項付き36協定で締結した延長時間の限度すら超えて、働かせてしまったら?」ということで考えていきたいと思います。
(1)法的には「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」の対象となります
●36協定(または特別条項付き36協定)で定めた延長時間の限度を超えて働かせた場合は、労基法第36条違反ではなく、第32条(労働時間)または第35条(休日)の違反となり、第119条(罰則)により「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」の処罰の対象となります。
もし労働基準監督署の臨検監督があれば、「是正勧告書(労基法違反が明らかである場合に出される)」の対象となり、即時の是正を求められることは確実です。
「是正勧告は・・・行政指導上の措置なので・・・強制力はなく・・・従わないことが必ずしも不法行為となるわけではない(残業代金等請求控訴事件、東京高裁、平14・6・26)」ですが、強制力がないからと是正勧告に応じなければ法違反として送検されることもあります。(注:あくまで法違反としての送検であって、是正勧告に応じなかったことを理由としての送検ではありません。)
実際の処罰に関しては、ケースバイケースで労働基準監督署の判断となりますので(たまたまの定期監督なのか、従業員からの申告を受けての申告監督なのかでも、違ってきます)、指導に従い即時是正すれば処分されないとは言い切れません。違反が「悪質なもの」であれば、書類送検されることも(協定違反の時間外労働を命じたことで、過労による重大な労災事故を引き起こした場合など)あります。
●36協定(または特別条項付き36協定)で定めた延長時間の限度を超えて働かせる命令はできませんし、命令する根拠もありません。「もう既に超えて働かせてしまった!」のであれば、超えた時間に対して割増賃金を支払うのは当然として、再発防止に向け、今すぐに労使で協議をはじめる必要があります。(本来このような事態にならないようにと、「臨時的に」延長時間の限度を広げているのが特別条項なのですが、「臨時的に」ではなく「常態化」しているのなら問題です。)
●特別条項で定めた延長時間の範囲内であっても、「特別条項の適用が不適切」であれば、もし労基署の臨検があれば、「指導票(放置すると労基法違反になる場合に出される)」の対象となり、改善を指導されることもあり得ます。
特別条項は平成15年改正(平成16年4月施行)により、厳格化されました。この改正で「3ヵ月以内の一定期間について、労働時間を特別に延長できる回数を協定すること」、「限度時間を超えて時間外労働を行わせなければならない特別の事情をできるだけ具体的に定めること」とされ、
この「特別の事情」は、
①事由は一時的または突発的であること(決算業務、ボーナス商戦に伴う業務の繁忙、など)、
②回数は全体として1年の半分を超えないこと(3ヵ月単位なら2回、1月単位なら6回、など)、
と限定されました。
「業務の都合上必要なとき」や「使用者が必要と認めるとき」などの定めは長時間労働の常態化を招くものとして、認められません。
従前は、特別条項には延長時間の回数や対象期間での制限は無く、この特別条項があれば時間外労働は「青天井」だったことから、いわゆる「エスケープ条項」と呼ばれるようになりましたが、平成15年改正で厳格な運用が必要になりました。(ただ、延長時間の限度は示されず、労使の協議に委ねられていますが。)
(2)本当に「特別条項付き36協定」で協定した延長時間の限度を超えてしまったのか?
特別条項を適用する余地はもう残っていないのか?
ある機械部品メーカーの事例を転載します
・突発的な納期集中に備え、1ヶ月単位で協定しているため延長回数は年6回(6ヶ月間)、
・36協定(特別条項付き)で、月45時間(70時間)、年360時間(840時間)、と協定しています。
①45時間以内の月を年6回、45時間を超える月は年6回となります。
特別条項の上限は月70時間ですので、45時間との差である25時間を5時間ずつ5日に振り分けたとします。この場合の特別条項の適用は5回ではなく、まだ1回だけです。
②特別条項の適用は事業所単位ではなく、個人単位です。
納期の集中のため、6ヶ月の間にもう既に6回、特別条項を適用してしまったとします。この場合でも特別条項をまだ適用できる場合があります。たとえばA社員には6回フルに適用したが、B社員には3回しか適用していない場合です。この場合B社員にはあと3回適用して、働いてもらうことができます。
この1人1人の従業員をコントロールすることが、特別条項を適用するうえで難しいところです。このコントロールができないのなら、割り切って事業所・部門単位で適用するしかありません。
●特別条項は「両刃の剣」です。当方では、きちんと管理する自信がなければ導入はお勧めしていません。いい加減な時間管理では、最悪の場合、過重労働死、損害賠償の悪夢が待っています。
(本当は一番時間管理を徹底すべき従業員は特別条項の適用対象者ではなく、上記の事例ではパーツ設計や部品開発に携わる従業員です。なぜならこの業務は限度基準の適用除外とできるので、ここだけの話、月96時間・年980時間といった協定届けを出すことも可能(適法です)だからです。)
参考に過重労働と過労死に関する厚生労働省の判断基準を転載します。
【業務と発症の関連性が強い】
・月100時間を超える時間外労働
・発症2~6カ月間に月あたり80時間を超える時間外
【業務との関連性が強まる】
・発症1~6カ月間の月あたり45時間を超える時間外
【業務との関連性が薄い】
・発症1~6カ月間の月あたり45時間以内の時間外
人事担当、管理職はもちろん、一般社員も、この基準時間は覚えておく必要があります。
長くなりましたが、以上よろしくお願い致します。
カワムラ社労士事務所川村様
申し訳ありませんが、特別条項の適用除外について教えてください。
弊社は自動車用部品の製造を行っている中小企業です。
年6回、650時間の特別条項を協定し、労基署へ届け出ていますが、今期、新型車の立ち上げと新規受注が重なり、設計と生産技術の2部門が上期末時点で使い切ってしまう状況となり、下期の対応に困っております。
今回、川村さまの解説を拝見し、対象の2部門が限度基準の適用除外に該当する可能性はあるか?、また労基署への届出は特別条項付き36協定以外に必要か、法的根拠などをアドバイスいただきたくお願い申し上げます。
対象の2部門の業務内容ですが、設計はCADで自動車部品の仕様や組立図面の作成を、生産技術は自動車部品製造に使用する組立機・製造ライン・荷姿の設計と設備等の発注、新型車立ち上げ時の設備調整を行っております。
勝手言って申し訳ありませんが、よろしくお願い申し上げます。
> 申し訳ありませんが、特別条項の適用除外について教えてください。
>
> 弊社は自動車用部品の製造を行っている中小企業です。
> 年6回、650時間の特別条項を協定し、労基署へ届け出ていますが、今期、新型車の立ち上げと新規受注が重なり、設計と生産技術の2部門が上期末時点で使い切ってしまう状況となり、下期の対応に困っております。
> 今回、川村さまの解説を拝見し、対象の2部門が限度基準の適用除外に該当する可能性はあるか?、また労基署への届出は特別条項付き36協定以外に必要か、法的根拠などをアドバイスいただきたくお願い申し上げます。
>
> 対象の2部門の業務内容ですが、設計はCADで自動車部品の仕様や組立図面の作成を、生産技術は自動車部品製造に使用する組立機・製造ライン・荷姿の設計と設備等の発注、新型車立ち上げ時の設備調整を行っております。
Junさん
特別条項の適用除外される事業または業務として
1)工作物の建設等の事業
2)自動車の運転の業務
3)新技術、新商品等の研究開発の業務
4)厚生労働省労働基準局長が指定する事業又は業務(但し、1年間の限度時間は適用)
とあり、うち3)は
イ) 自然科学、人文・社会科学の分野の基礎的又は応用的な学問上、技術上の問題を解明するための試験、研究、調査
ロ) 材料、製品、生産・製造工程等の開発又は技術的改善のための設計、制作、試験、検査
ハ) システム、コンピュータ利用技術当の開発又は技術的改善のための企画、設計 ※「システム」:製品の生産、商品の販売、サービスの提供等のために、人的能力、技術、設備、情報等を有機的に関連づけて総合的に体系化すること
ニ) マーケティング・リサーチ、デザインの考案並びに広告計画におけるコンセプトワーク及びクリエイティブワーク
ホ) その他イ)からニ)に相当する業務
といった業務を想定しています。御社の2部門はロ)またはハ)に当たると思料されますが、いったん締結した協定は有効期限までは続行します。使い切ったのであれば、法定労働時間、または36協定にさだめた法定休日労働(ただし法定休日を曜日特定してあること)の範囲内にて、業務に従事していただくほかありません。
次の締結時に、上の2業務を区分けして、特別条項対象外としかつ月45時間といった限度時間にかかわりなく、必要とする時間数を締結するとよろしいでしょう。
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