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★★★ 新・
行政書士試験 一発合格! Vol. ’06-25 ★★
【レジュメ編】 行政法(その6〔1〕)
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■■■ 不利益処分
■■■ 行政指導
■■■ 届出
■■■ 意見公募手続等
■■■ 地方公共団体の措置
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■■■ 不利益処分
■■ 総則的規定
■ 処分の基準
第十二条 行政庁は、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければなら
ない。
2 行政庁は、処分基準を定めるに当たっては、不利益処分の性質に照らしてできる限り
具体的なものとしなければならない。
・処分基準:不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその
法令の定めに従って判断するために必要とされる基準(2条8号)
(1)効果裁量の基準(不利益処分をなしうることを前提として、それをするか否か、
する場合にいかなる不利益処分を選択するか)だけではなく、要件裁量の基準
(不利益処分をする要件を充足しているか)も対象としている。
(2)行政庁が処分基準を定め、かつ、これを公にしておくことは、審査基準の場合と
異なり、訓示規定にとどめられている。
〔審査基準〕
・行政庁は、審査基準を定めるものとする(5条1項)。
・行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、適当な方法により審査基準を公にし
ておかなければならない(5条3項)。
★ 審査基準、処分基準や行政指導方針は、行政立法のうちの行政規則に分類される。
■ 不利益処分をしようとする場合の手続
第十三条 行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、次の各号の区分に従い、こ
の章の定めるところにより、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、当該各
号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。
一 次のいずれかに該当するとき 聴聞
イ 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき
ロ イに規定するもののほか、名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処
分をしようとするとき
ハ 名あて人が
法人である場合におけるその
役員の
解任を命ずる不利益処分、名あて
人の業務に従事する者の
解任を命ずる不利益処分又は名あて人の会員である者の除名を
命ずる不利益処分をしようとするとき
ニ イからハまでに掲げる場合以外の場合であって行政庁が相当と認めるとき
二 前号イからニまでのいずれにも該当しないとき 弁明の機会の付与
・取消し:職権による取消しのほか、撤回(=行政行為の撤回)も含まれる。
・取消処分(上記一イの場合)には、停止処分(例:営業停止、運転
免許停止)は含ま
れない(→ 取消処分=聴聞、停止処分=弁明の機会の付与という区分)。
・聴聞を経た停止処分はできるが、弁明の機会の付与だけでは、取消処分はできない。
・
行政手続法は、不利益処分を使用とする場合の手続を行政審判手続、聴聞手続、弁明
の機会の付与手続の3段階に区分し、行政審判手続については
個別法の定めるところ
に委ね、聴聞手続及び弁明の機会の付与手続について、その内容を定め、かつ、適用
の基準を示している。
【1】聴聞:口頭審査主義
【2】弁明の機会の付与:原則として書面審理主義
●● 最高裁判例「工作物等使用禁止命令取消等」(民集第46巻5号437頁)
【理由】憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものである
が、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべ
てが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。
しかしながら、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行
政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目
的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御
の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性
質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性
等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与
えることを必要とするものではないと解するのが相当である。
★ 不利益処分を行う場合、その旨の通知と意見陳述の機会の保障は、憲法上の要請で
ある。
→ 憲法31条説(上記最高裁判例は、憲法31条説によることを明確にした。)
■ 聴聞又は弁明の機会の付与の例外
第十三条(不利益処分をしようとする場合の手続)
2 次の各号のいずれかに該当するときは、前項の規定は、適用しない。
一 公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため、前項に規定する意見陳述のため
の手続を執ることができないとき。
二 法令上必要とされる資格がなかったこと又は失われるに至ったことが判明した場合
に必ずすることとされている不利益処分であって、その資格の不存在又は喪失の事実が
裁判所の判決書又は決定書、一定の職に就いたことを証する当該任命権者の書類その他
の客観的な資料により直接証明されたものをしようとするとき。
三 施設若しくは設備の設置、維持若しくは管理又は物の製造、販売その他の取扱いに
ついて遵守すべき事項が法令において技術的な基準をもって明確にされている場合にお
いて、専ら当該基準が充足されていないことを理由として当該基準に従うべきことを命
ずる不利益処分であってその不充足の事実が計測、実験その他客観的な認定方法によっ
て確認されたものをしようとするとき。
四 納付すべき金銭の額を確定し、一定の額の金銭の納付を命じ、又は金銭の給付決定
の取消しその他の金銭の給付を制限する不利益処分をしようとするとき。
五 当該不利益処分の性質上、それによって課される義務の内容が著しく軽微なもので
あるため名あて人となるべき者の意見をあらかじめ聴くことを要しないものとして政令
で定める処分をしようとするとき。
(1)3号:遵守事項が明確であり、不遵守の事実も明確なことから、事前に名あて人
の意見を聴く実益に乏しい。
(2)4号:金銭にかかる処分は、事後的に清算すれば足りることが少なくないこと、
大量に行われるものが多いこと、また、金銭の給付に関しては、事前手続の期間
中に支給した分を事後に返還させることが困難なこと等が考慮された。
(3)5号:何が「著しく軽微」かについては判断が分かれうるので、政令で定めるこ
とにより明確化をはかっている。
〔
行政手続法施行令2条〕
法第十三条第二項第五号の政令で定める処分は、次に掲げる処分とする。
一 法令の規定により行政庁が交付する書類であって交付を受けた者の資格又は地位を
証明するもの(以下この号において「証明書類」という。)について、法令の規定に従
い、既に交付した証明書類の記載事項の訂正(追加を含む。以下この号において同
じ。)をするためにその提出を命ずる処分及び訂正に代えて新たな証明書類の交付をす
る場合に既に交付した証明書類の返納を命ずる処分
二 届出をする場合に提出することが義務付けられている書類について、法令の規定に
従い、当該書類が法令に定められた要件に適合することとなるようにその訂正を命ずる
処分
■ 理由の提示
第十四条 行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該
不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべ
き差し迫った必要がある場合は、この限りでない。
2 行政庁は、前項ただし書の場合においては、当該名あて人の所在が判明しなくなっ
たときその他処分後において理由を示すことが困難な事情があるときを除き、処分後相
当の期間内に、同項の理由を示さなければならない。
3 不利益処分を書面でするときは、前二項の理由は、書面により示さなければならな
い。
★ 不利益処分を口頭でするときは、理由も口頭で示せば足りる。
★ 不利益処分の理由提示の意義について、以下の最高裁判例は、処分庁の判断の慎
重・合理性を
担保し、その恣意を抑制すること及び処分の理由を名あて人に知ら
せ、名あて人に
不服申立ての便宜を与えることを挙げている。
●● 最高裁判例「
所得税青色審査決定処分等取消請求」(民集17巻4号617頁)
【要旨】
所得税青色申告書についてなされた更正処分の
通知書に、更正の理由として、
「売買差益率検討の結果、記帳額低調につき、調査差益率により基本金額修正、
所得金額更正す」と記載されており、また、その審査決定の
通知書に、請求棄却
の理由として、「あなたの
審査請求の趣旨、経営の状況その他を勘案して審査し
ますと、小石川税務署長の行なつた再調査決定処分には誤りがないと認められま
すので、審査の請求には理由がありません」と記載されているに過ぎず、右再調
査決定の
通知書に附記された理由にも、更正を相当とする具体的根拠が明示され
ていない場合は、右いずれの記載も、法所定の附記理由としては不備であって、
更正処分、審査決定はその取消を免かれないものといわなければならない。
【理由】一般に、法が行政処分に理由を附記すべきものとしているのは、処分庁の判断
の慎重・合理性を
担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方
に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たものであるから、その記載を
欠くにおいては処分自体の取消を免かれないものといわなければならない。と
ころで、どの程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由附記を命じた各法
律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである。
●● 最高裁判例「
法人税課税処分取消請求」(民集26巻10号1795頁)
【要旨】一、
法人税青色申告についてした更正処分の
通知書に、係争事業年度所得の更
正の理由として、「
営業譲渡補償金計上もれ一一五五万円」、「認定
利息(代
表者)計上もれ一万九八三九円」、
清算所得の更正の理由として、「代表者仮
払金三九万六八九〇円」、「
営業譲渡補償金九〇五万円」と記載されているに
すぎない場合には、いずれも理由附記として不備であって、その更正処分は違
法である。
二、
青色申告についてした更正処分における理由附記の不備の缺疵は、同処分に対する
審査裁決において処分理由が明らかにされた場合であっても、治癒されないと解す
べきである。
★★ 理由の完追(原処分、第一次処分をする段階では理由を示さないでおいて、ある
いは不十分な理由だけを示しておいて、のちに理由を補充すること)を容易に認
めることは、理由提示の意義を没却することになるため、最高裁も慎重な姿勢を
とっている。
★★ 理由の差替えについては、認めた判例もあるが、聴聞や弁明の機会の付与は、通
知に示された「不利益処分の原因となる事実」に対する反論の機会を事前に保障
することを目的としているため、これらの手続を経た処分についての理由の差替
えは否定されるべきである。
■■ 聴聞
■ 聴聞の通知の方式
第十五条 行政庁は、聴聞を行うに当たっては、聴聞を行うべき期日までに相当な期間
をおいて、不利益処分の名あて人となるべき者に対し、次に掲げる事項を書面により通
知しなければならない。
一 予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項
二 不利益処分の原因となる事実
三 聴聞の期日及び場所
四 聴聞に関する事務を所掌する組織の名称及び所在地
(1)上記一及び二について、行政庁の職員が聴聞の場で、通知に記載されていない根
拠法条・原因事実を持ち出すことは、原則として許されない。
(2)通知の義務は、不利益処分の名あて人となるべき者に対してのみ存在する。
(3)相当な期間:不利益処分の名あて人となるべき者に聴聞への準備を可能ならしめ
るに足りると認められる期間
第十五条
2 前項の書面においては、次に掲げる事項を教示しなければならない。
一 聴聞の期日に出頭して意見を述べ、及び証拠書類又は証拠物(以下「証拠書類等」
という。)を提出し、又は聴聞の期日への出頭に代えて陳述書及び証拠書類等を提
出することができること。
二 聴聞が終結する時までの間、当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧
を求めることができること。
(1)不利益処分の名あて人となるべき者が聴聞の機会を有効に生かして、自己の権利
利益を擁護するための教示制度。
→ 名あて人の意見陳述権、証拠書類等提出権、資料閲覧請求権を
担保するため
第十五条
3 行政庁は、不利益処分の名あて人となるべき者の所在が判明しない場合において
は、第一項の規定による通知を、その者の氏名、同項第三号及び第四号に掲げる事項並
びに当該行政庁が同項各号に掲げる事項を記載した書面をいつでもその者に交付する旨
を当該行政庁の事務所の掲示場に掲示することによって行うことができる。この場合に
おいては、掲示を始めた日から二週間を経過したときに、当該通知がその者に到達した
ものとみなす。
(1)
公示送達をする場合には、聴聞の期日は、15条3項の2週間と15条1項の「
相当な期間」を合算した日以後に設定することになる。
(2)この規定は、続行期日の指定(22条1項)、聴聞の再開(25条)および弁明の機
会の付与(31条)について準用されている。
(3)1回で聴聞が終結しない場合は、聴聞主催者は新たな期日を定めることができ
(22条1項)、当事者及び参加人に対し、あらかじめ、次回の聴聞の期日及び
場所を書面により通知することになる。ただし、聴聞の期日に出頭した当事者及
び参加人に対しては、当該聴聞の期日においてこれを告知すれば足りる(22条
2項)。
(4)
公示送達により、聴聞の通知が不利益処分の名あて人となるべき者に到達したと
みなされ、聴聞期日に当事者が出頭しないときは、「正当な理由」(23条1項)
に基づく欠席とはみなされないので、聴聞は終結することになる。
★ このようにして聴聞が終結した場合には、聴聞の通知において予定されていた不利
益処分自体も名あて人に送達しないと効力が生じない。
→ この不利益処分の名あて人への送達については、
行政手続法に規定がないので、民
法98条並びに民事訴訟法111条及び112条の
公示送達の規定に従って処理す
ることになる。
★★ 相手方の所在を判明させるために、行政庁はどの程度の努力をしなければならな
いか?
●● 最高裁判例「審決取消」(民集35巻2号417頁)
【要旨】送達を受けるべき会社が本店の所在地を変更してその旨の商業
登記手続を了し
ているにもかかわらず、送達をすべき場所が知れないときにあたるとしてされ
た
商標法七七条五項、
特許法一九一条の規定に基づく
公示送達は、その効力を
生じない。
【理由】
商標法七七条五項により準用される
特許法一九一条の規定に基づく
公示送達
は、送達を受けるべき者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れないとき
にこれをすることができるとされているところ、
商標法五〇条の規定に基づく
商標登録取消の審判事件における被請求人である
商標権者が
商標登録を受けた
後その本店所在地を変更し、これにつき、
特許庁に対する届出をしていない
が、商業
登記手続を了しているような場合には、右商業
登記の
登記簿ないしそ
の謄本につき調査をすれば、送達を受けるべき者としての右被請求人の住所を
容易に知ることができるものであつて、その住所、居所その他送達をすべき場
所が知れないときにあたるとすることはできないから、同人に対し
公示送達を
するための要件が具備しているということはできない。そうすると、右のよう
な場合に被請求人に対しされた
公示送達は、その要件を欠き効力を生じないと
解するのが相当である。
■
代理人
第十六条 前条第一項の通知を受けた者(同条第三項後段の規定により当該通知が到達
したものとみなされる者を含む。以下「当事者」という。)は、
代理人を選任すること
ができる。
2
代理人は、各自、当事者のために、聴聞に関する一切の行為をすることができる。
3
代理人の資格は、書面で証明しなければならない。
4
代理人がその資格を失ったときは、当該
代理人を選任した当事者は、書面でその旨
を行政庁に届け出なければならない。
(1)当事者又は参加人は、主催の許可を得て、補佐人とともに出頭することができる
が(20条3項)、補佐人は
代理人ではないから、当事者又は参加人に代わって
出頭し、手続を行うことはできない。
(2)
代理人の資格についての制限はない(
行政手続法の条文からは、誰でも
代理人に
なることができる。)
★★ 弁護士又は弁護士
法人でない者が
報酬を得る目的で聴聞の
代理をすることが弁護
士法72条に違反するか?
→ 聴聞で争われるのが、
行政手続法15条1項2号の事実の存否のみであれば、事実
問題のみについての
代理であり、違反の問題は生じないと考えられる。一方、行政
手続法15条1項2号の事実が、同法15条1項1号で示されている「根拠となる
法令の条項」の要件事実にあたるかという点も聴聞での争点になると、法律問題と
全く無関係ではないため、違反の可能性も生じる。
★
行政書士としては、弁護士との業際問題であって、大変悩ましい問題である。
■ 参加人
第十七条 第十九条の規定により聴聞を主宰する者(以下「主宰者」という。)は、必
要があると認めるときは、当事者以外の者であって当該不利益処分の根拠となる法令に
照らし当該不利益処分につき利害関係を有するものと認められる者(同条第二項第六号
において「関係人」という。)に対し、当該聴聞に関する手続に参加することを求め、
又は当該聴聞に関する手続に参加することを許可することができる。
2 前項の規定により当該聴聞に関する手続に参加する者(以下「参加人」という。)
は、
代理人を選任することができる。
3 前条第二項から第四項までの規定は、前項の
代理人について準用する。この場合に
おいて、同条第二項及び第四項中「当事者」とあるのは、「参加人」と読み替えるもの
とする。
(1)当該不利益処分により利益を受ける者も、参加人には含まれる。
(2)関係人からの申出がなくとも、職権で参加させることも可能である。
■ 文書等の閲覧
第十八条 当事者及び当該不利益処分がされた場合に自己の利益を害されることとなる
参加人(以下この条及び第二十四条第三項において「当事者等」という。)は、聴聞の
通知があった時から聴聞が終結する時までの間、行政庁に対し、当該事案についてした
調査の結果に係る調書その他の当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を
求めることができる。この場合において、行政庁は、第三者の利益を害するおそれがあ
るときその他正当な理由があるときでなければ、その閲覧を拒むことができない。
2 前項の規定は、当事者等が聴聞の期日における審理の進行に応じて必要となった資
料の閲覧を更に求めることを妨げない。
3 行政庁は、前二項の閲覧について日時及び場所を指定することができる。
(1)「処分庁から提出された」(
行政不服審査法33条2項の場合)という限定なし
に、文書等閲覧権が認められている。
(2)閲覧請求があったときは、行政庁は、第三者(閲覧請求者以外の当事者、参加人
を含む。)の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由があるときでなけ
れば、その閲覧を拒むことができない。
(3)閲覧請求された文書等の一部のみに第三者のプライバシーに関する記載があり、
その部分を除いた形で閲覧させることが可能な場合には、全面的に請求を拒否す
べきではない。
(4)
行政手続法上では、文書等の謄写の請求権は保障されていない。
■ 文書等閲覧請求権と情報公開との関係
情報公開条例を有している地方公共団体の行政庁が法律に基づく処分を行う際に、聴聞
の当事者等が、情報公開条例に基づき不利益処分の根拠となる資料の閲覧を請求した場
合、
行政手続法18条1項の閲覧拒否の正当な理由と、情報公開条例の非開示事由は常
に一致する訳ではない。
→ 聴聞手続等の当事者にとっては、
行政手続法18条1項の「当該事案についてした
調査の結果に係る調書その他の当該不利益処分の原因となる事実を証する資料」という
限定によって閲覧が認められず、情報公開条例に基づく
開示請求に依存せざるをえない
状況も予想されるため、
行政手続法の文書等閲覧請求制度と情報公開条例に基づく開示
請求制度の並行利用は許容される。
■ 聴聞の主宰
第十九条 聴聞は、行政庁が指名する職員その他政令で定める者が主宰する。
2 次の各号のいずれかに該当する者は、聴聞を主宰することができない。
一 当該聴聞の当事者又は参加人
二 前号に規定する者の配偶者、四
親等内の親族又は同居の親族
三 第一号に規定する者の
代理人又は次条第三項に規定する補佐人
四 前三号に規定する者であったことのある者
五 第一号に規定する者の
後見人、
後見監督人、
保佐人、
保佐監督人、
補助人又は
補助
監督人
六 参加人以外の関係人
(1)政令で定める者:法令に基づき審議会その他の合議制の機関の答申を受けて行う
こととされている処分に係る聴聞にあっては、当該合議制の機関の構成員、ま
た、保健師助産師看護師法の規定による処分に係る聴聞にあっては、准看護師試
験委員等が規定されている(
行政手続法施行令3条参照)。
(2)「その他政令で定める者」についても、主宰者となるには行政庁の指名が必要で
ある。
(3)主宰者は、不利益処分を課すことを予定している行政庁と不利益処分の名あて人
の間に立って、中立的立場で、双方の主張を聞き、行政庁の処分の妥当性につい
て判断する。
■ 口頭による意見陳述権の保障
第二十条 主宰者は、最初の聴聞の期日の冒頭において、行政庁の職員に、予定される
不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項並びにその原因となる事実を聴聞の期日に
出頭した者に対し説明させなければならない。
2 当事者又は参加人は、聴聞の期日に出頭して、意見を述べ、及び証拠書類等を提出
し、並びに主宰者の許可を得て行政庁の職員に対し質問を発することができる。
(1)弁明の機会の付与については、口頭により意見を述べる機会が保障されていない
のに対して、聴聞では口頭による意見陳述権が保障されている。
→ 弁明の機会の付与の場合には、原則として書面主義が
採用されているため
(29条1項)。
■ 陳述書等の提出
第二十一条 当事者又は参加人は、聴聞の期日への出頭に代えて、主宰者に対し、聴聞
の期日までに陳述書及び証拠書類等を提出することができる。
2 主宰者は、聴聞の期日に出頭した者に対し、その求めに応じて、前項の陳述書及び
証拠書類等を示すことができる。
■ 主宰者の釈明権の行使
第二十条
4 主宰者は、聴聞の期日において必要があると認めるときは、当事者若しくは参加人
に対し質問を発し、意見の陳述若しくは証拠書類等の提出を促し、又は行政庁の職員に
対し説明を求めることができる。
(1)当事者又は参加人に自己に有利な意見、証拠書類等を提出するように促す目的が
ある。
■ 当事者又は参加人が不出頭の場合
第二十条
5 主宰者は、当事者又は参加人の一部が出頭しないときであっても、聴聞の期日にお
ける審理を行うことができる。
第二十三条 主宰者は、当事者の全部若しくは一部が正当な理由なく聴聞の期日に出頭
せず、かつ、第二十一条第一項に規定する陳述書若しくは証拠書類等を提出しない場
合、又は参加人の全部若しくは一部が聴聞の期日に出頭しない場合には、これらの者に
対し改めて意見を述べ、及び証拠書類等を提出する機会を与えることなく、聴聞を終結
することができる。
2 主宰者は、前項に規定する場合のほか、当事者の全部又は一部が聴聞の期日に出頭
せず、かつ、第二十一条第一項に規定する陳述書又は証拠書類等を提出しない場合にお
いて、これらの者の聴聞の期日への出頭が相当期間引き続き見込めないときは、これら
の者に対し、期限を定めて陳述書及び証拠書類等の提出を求め、当該期限が到来したと
きに聴聞を終結することとすることができる。
(1)当事者の場合は、正当な理由がないことが要件となっているが、参加人にはこの
ような要件はない。
→ 手続的権利保障に差を設けている。
■ 審理非公開原則
第二十条
6 聴聞の期日における審理は、行政庁が公開することを相当と認めるときを除き、公
開しない。
(1)当事者の多くは、聴聞の公開によるプライバシー侵害等を懸念しているため、原
則非公開としつつ、行政庁の裁量で公開とする立法政策をとっている。
■ 聴聞調書及び報告書
第二十四条 主宰者は、聴聞の審理の経過を記載した調書を作成し、当該調書におい
て、不利益処分の原因となる事実に対する当事者及び参加人の陳述の要旨を明らかにし
ておかなければならない。
2 前項の調書は、聴聞の期日における審理が行われた場合には各期日ごとに、当該審
理が行われなかった場合には聴聞の終結後速やかに作成しなければならない。
3 主宰者は、聴聞の終結後速やかに、不利益処分の原因となる事実に対する当事者等
の主張に理由があるかどうかについての意見を記載した報告書を作成し、第一項の調書
とともに行政庁に提出しなければならない。
4 当事者又は参加人は、第一項の調書及び前項の報告書の閲覧を求めることができ
る。
第二十五条 行政庁は、聴聞の終結後に生じた事情にかんがみ必要があると認めるとき
は、主宰者に対し、前条第三項の規定により提出された報告書を返戻して聴聞の再開を
命ずることができる。第二十二条第二項本文及び第三項の規定は、この場合について準
用する。
第二十六条 行政庁は、不利益処分の決定をするときは、第二十四条第一項の調書の内
容及び同条第三項の報告書に記載された主宰者の意見を十分に参酌してこれをしなけれ
ばならない。
(1)「当事者等」(24条3項):「当事者及び当該不利益処分がされた場合に自己の
利益を害されることとなる参加人」(18条1項)
→ 当事者が不利益処分を受けることによって利益を受ける参加人は含まれていない。
(2)24条4項:当事者又は参加人は、聴聞調書と報告書に意見があれば、申出をし
て訂正を促すことはできる。ただし、その申出をいれるか否かは主宰者の裁量に
委ねられており、訂正請求権まで保障されている訳ではない。
(3)主宰者:弁明の機会の付与の場合には、存在しない。
■
異議申立ての制限
第二十七条
2 聴聞を経てされた不利益処分については、当事者及び参加人は、
行政不服審査法
による
異議申立てをすることができない。ただし、第十五条第三項後段の規定により当
該通知が到達したものとみなされる結果当事者の地位を取得した者であって同項に規定
する同条第一項第三号(第二十二条第三項において準用する場合を含む。)に掲げる聴
聞の期日のいずれにも出頭しなかった者については、この限りでない。
(1)
行政不服審査法による
異議申立ては、処分庁に対する
不服申立てであり、不利益
処分を行う行政庁と同一の行政庁が判断するのであるから、処分庁が事前に聴聞
という慎重な手続をとっている以上、事後に
異議申立てをさせても、それが認容
される可能性は乏しいため、これを認めないこととして差し支えないと判断され
た。
(2)
個別法で訴訟提起につき異議申立前置主義がとられているケースについて聴聞が
行われている場合には、
行政手続法27条2項の適用を排除する方針がとられて
いる。(例:農地法83条の2、85条の2第1項、85条の2項第2号)
(3)27条2項による
異議申立ての制限を受けるのは、「当事者及び参加人」であっ
て、17条1項にいう関係人であっても、参加人とならなかった者は制限を受け
ない。また、同条は、
異議申立てを制限するのみであって、「当事者及び参加
人」が
審査請求をすることは禁じられていない。
■ 付随的処分についての
不服申立て制限
第二十七条 行政庁又は主宰者がこの節の規定に基づいてした処分については、行政不
服審査法による
不服申立てをすることができない。
(1)聴聞の過程で行われる付随的処分についても、
行政不服審査法による
不服申立て
は認められない。
■■ 弁明の機会の付与
第二十九条 弁明は、行政庁が口頭ですることを認めたときを除き、弁明を記載した書
面(以下「弁明書」という。)を提出してするものとする。
2 弁明をするときは、証拠書類等を提出することができる。
第三十条 行政庁は、弁明書の提出期限(口頭による弁明の機会の付与を行う場合に
は、その日時)までに相当な期間をおいて、不利益処分の名あて人となるべき者に対
し、次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。
一 予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項
二 不利益処分の原因となる事実
三 弁明書の提出先及び提出期限(口頭による弁明の機会の付与を行う場合には、その
旨並びに出頭すべき日時及び場所)
(1)書面主義の原則(→ 口頭による意見陳述権は保障されていない。)
(2)不利益処分の名あて人となるべき者の所在が判明しない場合の
公示送達(15条
3項)および
代理人(16条)の規定は、弁明の機会の付与に準用される(31
条)。
(3)聴聞と弁明の機会の付与は、不利益の程度の大小を基準として振り分けられてい
るが、不利益の程度の大小と関係人の範囲の有無は必ずしも一致するわけではな
く、弁明の機会の付与であっても関係人が存在するケースは少なくない。
→
行政手続法31条は17条を準用していないが、行政庁が職権で関係人から意見を
聴取したり、関係人からの意見書を参考にしたりすることは否定されていない。
(4)弁明の機会の付与の場合は、行政庁は弁明に対して逐一応答する義務はないが、
弁明書、証拠書類等に目を通し、これに判断を加えることは必要である。
■■■ 行政指導
■ 行政指導の一般原則
第三十二条 行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の
任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相
手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
2 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、
不利益な取扱いをしてはならない。
・行政指導:行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現
するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為で
あって処分に該当しないもの(2条6号)
→ 「特定の者」という要件があるため、国民一般その他不特定多数の者に対するもの
は含まれない。
→ 「一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為」なので、単に情
報を伝える場合は、含まれない。
・「処分に該当しないもの」:法的拘束力のない事実行為(「処分」とは、行政庁の処
分その他公権力の行使に当たる行為(2条2号)であるため)
・法律に基づいて直ちに不利益処分を行うことができる場合に、それに先立って行政指
導を行ったものの、これに応じないために行う不利益処分は「不利益な取扱い」には
該当しない。
★
行政手続法では、行政指導を否定していない。また、法律に根拠のない行政指導も
容認している。
→ 「許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を有する行政機関が、
当該権限を行使することができない場合又は行使する意思がない場合においてする
行政指導」(34条)という表現
●● 最高裁判例「教育施設負担金返還」(民集第47巻2号574頁)
【要旨】市がマンションを建築しようとする事業主に対して指導要綱に基づき教育施設
負担金の寄付を求めた場合において、右指導要綱が、これに従わない事業主に
は水道の給水を拒否するなどの制裁措置を背景として義務を課することを内容
とするものであつて、右行為が行われた当時、これに従うことのできない事業
主は事実上建築等を断念せざるを得なくなっており、現に指導要綱に従わない
事業主が建築したマンションについて水道の給水等を拒否していたなど判示の
事実関係の下においては、右行為は、行政指導の限度を超え、違法な公権力の
行使に当たる。
★★ 行政指導に根拠規範は必要か?
●● 最高裁判例「
損害賠償」(民集第39巻5号989頁)
【理由】関係地方公共団体において、当該建築確認申請に係る建築物が建築計画どおり
に建築されると付近住民に対し少なからぬ日照阻害、風害等の被害を及ぼし、
良好な居住環境あるいは市街環境を損なうことになるものと考えて、当該地域
の生活環境の維持、向上を図るために、建築主に対し、当該建築物の建築計画
につき一定の譲歩・協力を求める行政指導を行い、建築主が任意にこれに応じ
ているものと認められる場合には、社会通念上合理的と認められる期間建築主
事が申請に係る建築計画に対する確認処分を留保し、行政指導の結果に期待す
ることがあつたとしても、これをもつて直ちに違法な措置であるとまではいえ
ないというべきである。
★ 判例は、行政指導に根拠規範は不要であるとしている。
■ 行政指導の限界
(ア)法令の趣旨に反する行政指導は違法になる。
(イ)行政指導に従わない場合、比例原則に反する行政指導により受けた損害について
は、賠償請求ができる。
(ウ)事実上強制的に行政指導に従わされた結果蒙った損害については、賠償請求がで
きる。
●● 最高裁判例「教育施設負担金返還」(民集第47巻2号574頁)
【理由】指導要綱の文言及び運用の実態からすると、本件当時、被
上告人(武蔵野市)
は、事業主に対し、法が認めておらずしかもそれが実施された場合にはマンシ
ョン建築の目的の達成が事実上不可能となる水道の給水
契約の締結の拒否等の
制裁措置を背景として、指導要綱を遵守させようとしていたというべきであ
る。このような指導要綱に基づく行政指導が、武蔵野市民の生活環境をいわゆ
る乱開発から守ることを目的とするものであり、多くの武蔵野市民の支持を受
けていたことなどを考慮しても、右行為は、本来任意に
寄付金の納付を求める
べき行政指導の限度を超えるものであり、違法な公権力の行使であるといわざ
るを得ない。
■ 申請に関連する行政指導
第三十三条 申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導にあっては、行政指導に携
わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行
政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはな
らない。
●● 最高裁判例「
損害賠償」(民集第39巻5号989頁)
【要旨】建築主が、建築確認申請に係る建築物の建築計画をめぐって生じた付近住民と
の紛争につき関係機関から話合いによって解決するようにとの行政指導を受
け、これに応じて住民と協議を始めた場合でも、その後、建築主事に対し右申
請に対する処分が留保されたままでは行政指導に協力できない旨の意思を真摯
かつ明確に表明して当該申請に対し直ちに応答すべきことを求めたときは、行
政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するといえるよう
な特段の事情が存在しない限り、行政指導が行われているとの理由だけで右申
請に対する処分を留保することは、
国家賠償法一条一項所定の違法な行為とな
る。
【理由】建築主が右のような行政指導に不協力・不服従の意思を表明している場合に
は、当該建築主が受ける不利益と右行政指導の目的とする公益上の必要性とを
比較衡量して、右行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に
反するものといえるような特段の事情が存在しない限り、行政指導が行われて
いるとの理由だけで確認処分を留保することは、違法であると解するのが相当
である。
★ 相手方が、申請前の行政指導には従わない旨の意思を真摯かつ明確に表明した場合
には、申請を受け付けて、その諾否を判断することになる。
→ 単に行政指導には従わない旨の
意思表示をしただけの場合、行政指導を受けた者が
長期間行政指導を放置していた場合には、対象外になる。
■ 許認可等の権限に関連する行政指導
第三十四条 許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を有する行政機
関が、当該権限を行使することができない場合又は行使する意思がない場合においてす
る行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、当該権限を行使し得る旨を殊更に示す
ことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはなら
ない。
・許認可等をする権限:申請に対して処分を行うことができる権限
・許認可等に基づく処分をする権限:許認可等の取消し、停止等の処分を行うことがで
きる権限
■ 行政指導の方式
第三十五条 行政指導に携わる者は、その相手方に対して、当該行政指導の趣旨及び内
容並びに責任者を明確に示さなければならない。
2 行政指導が口頭でされた場合において、その相手方から前項に規定する事項を記載
した書面の交付を求められたときは、当該行政指導に携わる者は、行政上特別の支障が
ない限り、これを交付しなければならない。
3 前項の規定は、次に掲げる行政指導については、適用しない。
一 相手方に対しその場において完了する行為を求めるもの
二 既に文書(前項の書面を含む。)又は
電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その
他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算
機による情報処理の用に供されるものをいう。)によりその相手方に通知されている事
項と同一の内容を求めるもの
・行政指導を書面で行うことまでは求められていない。
・「行政上特別の支障がない限り」:「正当な理由がない限り」よりも、書面の交付を
拒否する理由を制限する趣旨。
■ 複数の者を対象とする行政指導
第三十六条 同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政
指導をしようとするときは、行政機関は、あらかじめ、事案に応じ、これらの行政指導
に共通してその内容となるべき事項を定め、かつ、行政上特別の支障がない限り、これ
を公表しなければならない。
・行政指導方針は、意見公募手続の対象になる。
■■■ 届出
■ 届出
第三十七条 届出が届出書の記載事項に不備がないこと、届出書に必要な書類が添付さ
れていることその他の法令に定められた届出の形式上の要件に適合している場合は、当
該届出が法令により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに、当
該届出をすべき手続上の義務が
履行されたものとする。
・「当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したとき」:受理や受付を否定
→ 到達しているにもかかわらず、受理印や受付印が押印されていないことを理由とし
て、届出がなされていないとすることはできない。
・「当該届出をすべき手続上の義務」:所定の期日までに、所定の事項を通知すべき義
務のこと。
→ 「手続上の義務」であるので、実体上の義務とは別(期日までに到達していても、
内容に不備があったり、虚偽の届出であれば、実体的な効果は生じない。)。
★ 届出の場合には、申請の場合の行政庁の情報提供の努力義務(9条2項)はない。
■■■ 意見公募手続等
■■ 命令等を定める場合の一般原則
第三十八条 命令等を定める機関(閣議の決定により命令等が定められる場合にあって
は、当該命令等の立案をする各大臣。以下「命令等制定機関」という。)は、命令等を
定めるに当たっては、当該命令等がこれを定める根拠となる法令の趣旨に適合するもの
となるようにしなければならない。
2 命令等制定機関は、命令等を定めた後においても、当該命令等の規定の実施状況、
社会経済情勢の変化等を勘案し、必要に応じ、当該命令等の内容について検討を加え、
その適正を確保するよう努めなければならない。
★ これまでは、平成11年の閣議決定「規制の設定又は改廃に係る意見提出手続」に基
づいて行われてきた。今般の改正
行政手続法の施行により、これが法律レベルにま
で高められた。
★ 行政手続に関する共通制度の整備を目的とする
行政手続法で、今回の改正は、命令
等の制定手続の透明性向上を図り、不適切な命令等の制定を未然に防ぐことを目的
としている。ただし、行政立法(政令、府省令、規則等の法規命令と
通達、訓令等
の行政規則)のすべてが対象にはなっていない。
(1)一般原則
(ア)命令等制定機関は、命令等を定めるに当たっては、根拠となる法令の趣旨に適合
するものとなるようにしなければならない。
(イ)命令等制定機関は、命令等を定めた後においても、その適正を確保するよう努め
なければならない。
(2)命令等の中には、政令のように、閣議の決定により定められるものもあり、この
場合の命令等制定機関は、当該法令の立案をする各大臣である。
(3)法令:法律、法律に基づく命令(告示を含む)、条例及び地方公共団体の執行機
関の規則(規程を含む。)(2条1号)
(4)「法令の趣旨に適合する」とは、法令の文言のみならず、国会での答弁内容等に
適合することを含む。
●● 最高裁判例「市町村長の処分不服申立審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗
告事件」(民集57巻11号2562頁)
【要旨】1 戸籍法施行規則60条に定める文字以外の文字を用いて子の名を記載した
ことを理由とする市町村長の
出生届の不受理処分に対する
不服申立て事件にお
いて、
家庭裁判所は、審判手続に提出された資料、公知の事実等に照らし、当
該文字が社会通念上明らかに常用平易な文字と認められるときには、当該市町
村長に対し、当該
出生届の受理を命ずることができる。
2 戸籍法施行規則60条に定める文字以外の文字である「曽」の字は、社会
通念上明らかに常用平易な文字であり、子の名に用いることができる。
●● 最高裁判例「
損害賠償、民訴法260条2項による仮執行の原状回復請求事件」
(民集58巻4号1032頁)
【要旨】炭鉱で粉じん作業に従事した
労働者が粉じんの吸入によりじん肺にり患した場
合において、炭鉱
労働者のじん肺り患の深刻な実情及びじん肺に関する医学的
知見の変遷を踏まえて、じん肺を炭じん等の鉱物性粉じんの吸入によって生じ
たものを広く含むものとして定義し、これを施策の対象とするじん肺法が成立
したこと、そのころまでには、さく岩機の湿式型化によりじん肺の発生の原因
となる粉じんの発生を著しく抑制することができるとの工学的知見が明らかと
なっており、金属鉱山と同様に、すべての石炭鉱山におけるさく岩機の湿式型
化を図ることに特段の障害はなかったのに、同法成立の時までに、鉱山保安法
に基づく省令の改正を行わず、さく岩機の湿式型化等を一般的な保安規制とは
しなかったことなど判示の事実関係の下では、じん肺法が成立した後、通商産
業大臣が鉱山保安法に基づく省令改正権限等の保安規制の権限を直ちに行使し
なかったことは、
国家賠償法1条1項の適用上違法となる。
(4)38条が定める一般原則は6章に置かれているので、6章の規定の
適用除外とな
っているもの(3条2項・3項、4条4項)には適用されないが、意見公募手続
の
適用除外のみを定める39条4項に規定するものには適用される。
■■ 意見公募手続
■ 意見公募手続
第三十九条 命令等制定機関は、命令等を定めようとする場合には、当該命令等の案
(命令等で定めようとする内容を示すものをいう。以下同じ。)及びこれに関連する資
料をあらかじめ公示し、意見(情報を含む。以下同じ。)の提出先及び意見の提出のた
めの期間(以下「意見提出期間」という。)を定めて広く一般の意見を求めなければな
らない。
2 前項の規定により公示する命令等の案は、具体的かつ明確な内容のものであって、
かつ、当該命令等の題名及び当該命令等を定める根拠となる法令の条項が明示されたも
のでなければならない。
(1)意見公募にあたって命令等制定機関が連絡のために氏名・住所の記載を求めるこ
とは妨げられないが、匿名の意見提出も禁じられているわけではない。
(2)公示される命令等の案は、条文形式で示す必要はない。
■ 意見提出期間
第三十九条
3 第一項の規定により定める意見提出期間は、同項の公示の日から起算して三十日以
上でなければならない。
■ 意見公募手続を義務づけない場合
第三十九条
4 次の各号のいずれかに該当するときは、第一項の規定は、適用しない。
一 公益上、緊急に命令等を定める必要があるため、第一項の規定による手続(以下
「意見公募手続」という。)を実施することが困難であるとき。
二 納付すべき金銭について定める法律の制定又は改正により必要となる当該金銭の額
の
算定の基礎となるべき金額及び率並びに
算定方法についての命令等その他当該法律の
施行に関し必要な事項を定める命令等を定めようとするとき。
三 予算の定めるところにより金銭の給付決定を行うために必要となる当該金銭の額の
算定の基礎となるべき金額及び率並びに
算定方法その他の事項を定める命令等を定めよ
うとするとき。
四 法律の規定により、内閣府設置法第四十九条第一項若しくは第二項若しくは国家行
政組織法第三条第二項に規定する
委員会又は内閣府設置法第三十七条若しくは第五十四
条若しくは国家行政組織法第八条に規定する機関(以下「
委員会等」という。)の議を
経て定めることとされている命令等であって、相反する利害を有する者の間の利害の調
整を目的として、法律又は政令の規定により、これらの者及び公益をそれぞれ代表する
委員をもって組織される
委員会等において審議を行うこととされているものとして政令
で定める命令等を定めようとするとき。
五 他の行政機関が意見公募手続を実施して定めた命令等と実質的に同一の命令等を定
めようとするとき。
六 法律の規定に基づき法令の規定の適用又は準用について必要な技術的読替えを定め
る命令等を定めようとするとき。
七 命令等を定める根拠となる法令の規定の削除に伴い当然必要とされる当該命令等の
廃止をしようとするとき。
八 他の法令の制定又は改廃に伴い当然必要とされる規定の整理その他の意見公募手続
を実施することを要しない軽微な変更として政令で定めるものを内容とする命令等を定
めようとするとき。
★ 第一項(意見公募手続)が適用されないだけであり、一般原則(38条)、意見公募
手続を実施しなかった理由の開示(40条1項)や、命令等の題名や趣旨等の公示
(42条5項)は適用される。
(1)1号の例:災害対策基本法109条に基づいて緊急に制定される政令
(2)2号:納付すべき金銭とは、税・
社会保険料・手数料等。法律の制定又は改正に
より必要となる命令等に限り
適用除外にしている。
(3)3号:
補助金要綱等を念頭に置いている。
(4)4号の例:
使用者代表委員、
労働者代表委員、公益委員の三者構成である
委員会
で、これら三者間で利害調整をして意思決定をすることを法律が求めている場合
→ そうした利害調整を経てなされた意思決定を意見公募手続の結果を踏まえて変更す
ることは適当ではないため、除外されている。
(5)5号の例:本省で意見公募手続を経て定めた
通達に基づいて、地方支分局長が同
一の内容の審査基準を定めようとするとき。
■ 意見公募手続の特例
第四十条 命令等制定機関は、命令等を定めようとする場合において、三十日以上の意
見提出期間を定めることができないやむを得ない理由があるときは、前条第三項の規定
にかかわらず、三十日を下回る意見提出期間を定めることができる。この場合において
は、当該命令等の案の公示の際その理由を明らかにしなければならない。
2 命令等制定機関は、
委員会等の議を経て命令等を定めようとする場合(前条第四項
第四号に該当する場合を除く。)において、当該
委員会等が意見公募手続に準じた手続
を実施したときは、同条第一項の規定にかかわらず、自ら意見公募手続を実施すること
を要しない。
(1)
委員会等が意見公募手続に準じた手続を実施する場合には、意見公募手続の主要
な規定が準用される(44条)。
(2)平成11年の閣議決定「規制の設定又は改廃に係る意見提出手続」では、「1ヵ月
程度を一つの目安」とすることとされていたが、改正
行政手続法では「三十日以
上の意見提出期間」と明記された。
(3)意見公募手続に反して制定された命令等に基づき行われた処分については、手続
が違法であることから、処分の違法事由になるものと考えられるが、実際には、
裁判所で、個別事案に応じて判断されることになる。
■ 意見公募手続の周知等
第四十一条 命令等制定機関は、意見公募手続を実施して命令等を定めるに当たって
は、必要に応じ、当該意見公募手続の実施について周知するよう努めるとともに、当該
意見公募手続の実施に関連する情報の提供に努めるものとする。
■ 意見提出の考慮
第四十二条 命令等制定機関は、意見公募手続を実施して命令等を定める場合には、意
見提出期間内に当該命令等制定機関に対し提出された当該命令等の案についての意見
(以下「提出意見」という。)を十分に考慮しなければならない。
(1)提出意見を考慮した結果及びその理由の公示義務が課されていること(43条1
項4号)により、提出意見の十分な考慮義務がかなりの程度
担保される。
→ 命令等制定機関に対して、意見公募手続で提出された意見を
採用すべき義務まで課
すものではない。
→ 同様に、提出された意見に個別に回答する義務もない。
■ 結果の公示等
第四十三条 命令等制定機関は、意見公募手続を実施して命令等を定めた場合には、当
該命令等の公布(公布をしないものにあっては、公にする行為。第五項において同
じ。)と同時期に、次に掲げる事項を公示しなければならない。
一 命令等の題名
二 命令等の案の公示の日
三 提出意見(提出意見がなかった場合にあっては、その旨)
四 提出意見を考慮した結果(意見公募手続を実施した命令等の案と定めた命令等との
差異を含む。)及びその理由
2 命令等制定機関は、前項の規定にかかわらず、必要に応じ、同項第三号の提出意見
に代えて、当該提出意見を整理又は要約したものを公示することができる。この場合に
おいては、当該公示の後遅滞なく、当該提出意見を当該命令等制定機関の事務所におけ
る備付けその他の適当な方法により公にしなければならない。
3 命令等制定機関は、前二項の規定により提出意見を公示し又は公にすることにより
第三者の利益を害するおそれがあるとき、その他正当な理由があるときは、当該提出意
見の全部又は一部を除くことができる。
4 命令等制定機関は、意見公募手続を実施したにもかかわらず命令等を定めないこと
とした場合には、その旨(別の命令等の案について改めて意見公募手続を実施しようと
する場合にあっては、その旨を含む。)並びに第一項第一号及び第二号に掲げる事項を
速やかに公示しなければならない。
★ 平成11年の閣議決定「規制の設定又は改廃に係る意見提出手続」では、「三 提出
意見」と「四 提出意見を考慮した結果及びその理由」は、命令等の公布前に公示
されていた。
・「同時期」:同時または当該命令等の公布時期の前後の合理的な範囲内の期間のこと
(必ずしも「同時」でなくても差し支えない。)。
■ 趣旨の明示
第四十三条
5 命令等制定機関は、第三十九条第四項各号のいずれかに該当することにより意見公
募手続を実施しないで命令等を定めた場合には、当該命令等の公布と同時期に、次に掲
げる事項を公示しなければならない。ただし、第一号に掲げる事項のうち命令等の趣旨
については、同項第一号から第四号までのいずれかに該当することにより意見公募手続
を実施しなかった場合において、当該命令等自体から明らかでないときに限る。
一 命令等の題名及び趣旨
二 意見公募手続を実施しなかった旨及びその理由
(1)命令等の趣旨を明らかにしなければならないのは、意見公募手続を実施しなかっ
た場合の全てではなく、改めて趣旨を明示するまでもない場合には趣旨を明示す
る義務はない。
■ 公示の方法
第四十五条 第三十九条第一項並びに第四十三条第一項(前条において読み替えて準用
する場合を含む。)、第四項(前条において準用する場合を含む。)及び第五項の規定
による公示は、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方
法により行うものとする。
2 前項の公示に関し必要な事項は、
総務大臣が定める。
(1)命令等の案・関連資料の公示、意見公募手続の結果、制定した命令等の公示、意
見公募手続を実施したにもかかわらず命令等を定めないこととした旨の公示、意
見公募手続を実施しないで命令等を定めた場合の公示については、電子情報処理
組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により行う。
(2)具体的には
総務大臣が定めることとされているが、インターネットのウェブサイ
トに公示することを基本とし、電子政府の総合窓口のパブリック・コメントのコ
ーナーに一覧性を持たせた形で掲載することが予定されている。
■■■ 地方公共団体の措置
第四十六条 地方公共団体は、第三条第二項において第二章から前章までの規定を適用
しないこととされた処分、行政指導及び届出の手続について、この法律の規定の趣旨に
のっとり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るため必要な措置を講ずる
よう努めなければならない。
・地方公共団体の機関が法律に基づいて行う処分については、
行政手続法の適用があ
る。
→ 行政手続条例で規定することもできるが、条例で、法律が定める手続を緩和するこ
とは認められない。
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