• HOME
  • コラムの泉

コラムの泉

このエントリーをはてなブックマークに追加

専門家が発信する最新トピックスをご紹介(投稿ガイドはこちら

【レジュメ編】 行政法(その12)

****************************************

     ★★★ 新・行政書士試験 一発合格! Vol. ’06-33 ★★
           【レジュメ編】 行政法(その12)

****************************************

■■■ 損失補償 ■■■
■■■ 国家賠償法(その2) ■■■
■■■ 最近の最高裁判決 ■■■ 
■■■ お願い ■■■
■■■ 編集後記 ■■■

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

■■■ 損失補償 ■■■
■ 意義
適法な公権力の行使により、財産権が侵害され、特別の犠牲が生じた者に対して、公平
の見地から金銭で填補すること。
→ 違法侵害の場合は、国家賠償になる。

■ 根拠
・請求権発生説:憲法上補償が必要であるときは、憲法29条3項に基づいて補償を請求
 することができる。
→ 従来は、違憲無効説が支配的であった(特別の犠牲を課す法律に補償に関する規定
  がない場合、当該規制は違憲無効であるとする説)。

〔憲法〕
第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

●● 最高裁判例「河川附近地制限令違反」(刑集第22巻12号1402頁)
【裁判要旨】
財産上の犠牲が単に一般的に当然に受認すべきものとされる制限の範囲をこえ、特別の
犠牲を課したものである場合には、これについて損失補償に関する規定がなくても、直
接憲法第二九条第三項を根拠にして、補償請求をする余地がないではない。
【理由】
河州附近地制限令四条二号による制限について同条に損失補償に関する規定がないから
といつて、同条があらゆる場合について一切の損失補償を全く否定する趣旨とまでは解
されず、本件被告人も、その損失を具体的に主張立証して、別途、直接憲法二九条三項
を根拠にして、補償請求をする余地が全くないわけではない。
★ 補償についての規定を欠く法令は、そのことだけでは違憲無効にはならない(請求
  権発生説)。
★ 「特別の犠牲」にあたる事情が存在すれば、直接に憲法29条3項の規定に基づき、
  損失補償を請求することができる。

■ 損失補償の要否
(1)破壊消防
●● 最高裁判例「損害賠償請求」(民集第26巻4号851頁)
【裁判要旨】
火災の際の消防活動により破壊された建物甲は、それ自体としては延焼のおそれがない
が、その建物と現に延焼中の建物乙との距離が約三〇メートルであり、その間に延焼の
おそれのあるバラツク建の建物が間隙なく接続しており、右建物を早急に破壊するため
には地形や風向等の関係から建物甲を破壊する必要がある等原判示の事情があるとき
は、建物甲を破壊することは、消防法二九条三項にいう延焼の防止のために緊急の必要
があつたものというべきである。
【理由】
消防法二九条によれば、(一)火災が発生しようとし、または発生した消防対象物および
これらのもののある土地について、消防吏員または消防団員が、消火もしくは延焼の防
止または人命の救助のために必要があるときに、これを使用し、処分しまたはその使用
を制限した場合(同条一項の場合)および(二)延焼のおそれがある消防対象物およびこ
れらのもののある土地について、消防長もしくは消防署長または消防本部を置かない市
町村においては消防団の長が、火勢、気象の状況その他周囲の事情から合理的に判断し
て延焼防止のためやむを得ないと認められるときに、これを使用し、処分しまたはその
使用を制限した場合(同条二項の場合)には、そのために損害を受けた者があつても、
その損失を補償することを要しない。
★ 消防法29条3項に定める場合には、損失補償が必要であるが、第1項および第2項
  に該当する場合には必要ない。本件事案では、一部の建物については二九条三項に
  いう延焼の防止のために緊急の必要があつたと判示された。そのため、「消防団長
  が右建物を破壊したことは消防法二九条三項による適法な行為ではあるが、そのた
  めに損害を受けた被上告人らは右法条によりその損失の補償を請求することができ
  るものといわなければならない」と判示された。

〔消防法〕
第二十九条 消防吏員又は消防団員は、消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のため
に必要があるときは、火災が発生せんとし、又は発生した消防対象物及びこれらのもの
の在る土地を使用し、処分し又はその使用を制限することができる。
2 消防長若しくは消防署長又は消防本部を置かない市町村においては消防団の長は、
火勢、気象の状況その他周囲の事情から合理的に判断して延焼防止のためやむを得ない
と認めるときは、延焼の虞がある消防対象物及びこれらのものの在る土地を使用し、処
分し又はその使用を制限することができる。
3 消防長若しくは消防署長又は消防本部を置かない市町村においては消防団の長は、
消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のために緊急の必要があるときは、前二項に規
定する消防対象物及び土地以外の消防対象物及び土地を使用し、処分し又はその使用を
制限することができる。この場合においては、そのために損害を受けた者からその損失
の補償の要求があるときは、時価により、その損失を補償するものとする。
4 前項の規定による補償に要する費用は、当該市町村の負担とする。

(2)危険物
●● 最高裁判例「損失補償裁決取消等」(民集第37巻1号59頁)
【裁判要旨】
道路法七〇条一項の定める損失の補償の対象は、道路工事の施行による土地の形状の変
更を直接の原因として生じた隣接地の用益又は管理上の障害を除去するためにやむをえ
ない必要があつてした通路、みぞ、かき、さくその他これに類する工作物の新築、増
築、修繕若しくは移転又は切土若しくは盛土の工事に起因する損失に限られ、道路工事
の施行の結果、危険物の保管場所等につき保安物件との間に一定の離隔距離を保持すべ
きことを内容とする技術上の基準を定めた警察法規に違反する状態を生じ、危険物保有
者が右の基準に適合するように工作物の移転等を余儀なくされたことによつて被つた損
失は、右補償の対象には属しない。
★ 本件は、国が国道に地下道を新設したため、消防法上、地下ガソリンタンクの移設
  工事を強いられた石油会社が損失補償を求めた事案である。

(3)鉱物採掘
●● 最高裁判例「損害賠償」(民集第36巻2号127頁)
【裁判要旨】
鉱業法六四条の規定によつて鉱業権の行使が制限されても、これによつて被つた損失に
つき憲法二九条三項を根拠としてその補償を請求することはできない。
【理由】
鉱業法六四条の定める制限は、鉄道、河川、公園、学校、病院、図書館等の公共施設及
び建物の管理運営上支障ある事態の発生を未然に防止するため、これらの近傍において
鉱物を掘採する場合には管理庁又は管理人の承諾を得ることが必要であることを定めた
ものにすぎず、この種の制限は、公共の福祉のためにする一般的な最小限度の制限であ
り、何人もこれをやむを得ないものとして当然受忍しなければならないものであつて、
特定の人に対し特別の財産上の犠牲を強いるものとはいえないから、同条の規定によつ
て損失を被つたとしても、憲法二九条三項を根拠にして補償請求をすることができない
ものと解するのが相当である。
★ 危険を伴う行為を行う者(本件鉱業の場合。なお、上記ガソリンタンクの場合も同
  じ)が、危険を未然に回避すべき責任を負う。

(4)ため池
●● 最高裁判例「ため池の保全に関する条例違反」(刑集第17巻5号521頁)
【裁判要旨】
本条例は災害を防止し公共の福祉を保持するためのものであり、その第四条第二号は、
ため池の堤とうを使用する財産上の権利の行使を著しく制限するものではあるが、結局
それは、災害を防止し公共の福祉を保持する上に社会生活上巳むを得ないものであり、
そのような制約は、ため池の堤とうを使用し得る財産権を有する者が当然受忍しなけれ
ばならない責務というべきものであつて、憲法第二九条第三項の損失補償はこれを必要
としないと解するのが相当である。
★ 何が「特別の犠牲」にあたるのかの判断基準については争いがあるが、財産権の剥
  奪や本来有する機能の発揮が妨げられる場合には、当該財産権の権利者に受忍すべ
  き理由がない限り、補償を要すると考えられている。一方、災害防止、犯罪防止、
  環境保護といった目的の場合には、やむをえないものであって、補償を要しないと
  考えられている。

(5)戦争損害
●● 最高裁判例「補償金請求」(民集第22巻12号2808頁)
【裁判要旨】
平和条約が締結された結果、同条約第一四条(a)項2(1)の規定により在外資産を喪失し
た者は、国に対しその喪失による損害について補償を請求することはできない。
【理由】
戦争中から戦後占領時代にかけての国の存亡にかかわる非常事態にあつては、国民のす
べてが、多かれ少なかれ、その生命・身体・財産の犠牲を堪え忍ぶべく余儀なくされて
いたのであつて、これらの犠牲は、いずれも、戦争犠牲または戦争損害として、国民の
ひとしく受忍しなければならなかつたところであり、右の在外資産の賠償への充当によ
る損害のごときも、一種の戦争損害として、これに対する補償は、憲法の全く予想しな
いところというべきである。

●● 最高裁判例「損害賠償(シベリア抑留補償請求事件)」(民集第51巻3号1233頁)
【裁判要旨】
(ア)シベリア抑留者は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との共同宣言六項後
   段に定める請求権放棄によりソヴィエト社会主義共和国連邦に対して損害の賠償
   を求めることが実際上不可能となったことによる損害につき、憲法二九条三項に
   基づき国に対して補償を請求することはできない。
(イ)シベリア抑留者は、長期にわたる抑留と強制労働により受けた損害につき、憲法
   一一条、一三条、一四条、一七条、一八条、二九条三項及び四〇条に基づき、国
   に対して補償を請求することはできない。
(ウ)国が、連合国最高司令官総司令部の発した覚書に従い、戦時捕虜としての所得を
   示す証明書を示したオーストラリア、ニュージーランド、東南アジア地域などの
   南方地域から帰還した日本人捕虜に対して抑留期間中の労働賃金決済する措置
   を講じてきたとしても、シベリア抑留者は、憲法一四条一項に基づき、国に対し
   て抑留期間中の労働賃金の支払を請求することはできない。
★ 最高裁は「シベリア抑留者が長期間にわたる抑留と強制労働によって受けた損害が
  深刻かつ甚大なものであったことを考慮しても、他の戦争損害と区別して、所論主
  張の憲法の右各条項に基づき、その補償を認めることはできないものといわざるを
  得ない」と判示している。

(6)行政財産の使用
●● 最高裁判例「借地権確認土地引渡等請求」(民集第28巻1号1頁)
【裁判要旨】
都有行政財産である土地について建物所有を目的とし期間の定めなくされた使用許可が
当該行政財産本来の用途又は目的上の必要に基づき将来に向つて取り消されたときは、
使用権者は、特別の事情のないかぎり、右取消による土地使用権喪失についての補償を
求めることはできない。
★ 補償の対象となる財産権は、所有権や借地権等には限られない。なお、この判例で
  は、「特別の事情」について、「使用権者が使用許可を受けるに当たりその対価の
  支払をしているが、当該行政財産の使用収益により右対価を償却するに足りないと
  認められる期間内に当該行政財産に右の必要を生じたとか、使用許可に際し別段の
  定めがされている等により、行政財産についての右の必要にかかわらず使用権者が
  なお当該使用権を保有する実質的理由を有すると認めるに足りる特別の事情が存す
  る場合」には損失補償が認められるとされている。

(7)土地利用規制
●● 最高裁判例「土地収用補償金請求」(民集第27巻9号1210頁)
【裁判要旨】
旧都市計画法(大正八年法律第三六号)一六条一項に基づき土地を収用する場合、被収用
者に対し土地収用法七二条(昭和四二年法律第七四号による改正前のもの)によつて補償
すべき相当な価格を定めるにあたつては、当該都市計画事業のため右土地に課せられた
建築制限を斟酌してはならない。
★ 建築制限があることによるマイナス要因を排除して(建築制限がないものして)算
  定した土地収用の裁決時の価格によるべきとされた。

■ 損失補償の内容
(1)完全補償説:憲法29条3項の「正当な補償」の内容は、完全な補償である。
●● 最高裁判例「土地収用補償金請求」(民集第27巻9号1210頁)
【理由】
土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される
場合、その収用によつて当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目
的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産
価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもつて補償する場合に
は、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる
金額の補償を要するものというべく、土地収用法七二条(昭和四二年法律第七四号によ
る改正前のもの。以下同じ。)は右のような趣旨を明らかにした規定と解すべきであ
る。
★ 価格統制が行われている財産の収用の場合には、「完全な補償」は統制価格で足り
  るとされていたようである。当時のインフレとの関係で、問題はあるようにも思わ
  れるが、この判例では、「自創法が、農地買収計画において買収すべき農地の対価
  を、6条3項の額の範囲内においてこれを定めることとしたのは正当であって、補
  償の額は少なくともこの基準以内であれば足り、これを越えることを得ない最高限
  を示したものに外ならない」とされている。
☆ 上記「(7)土地利用規制」と同一の判例。

●● 最高裁判例「農地買収に対する不服申立(特別上告)」(民集第7巻13号1523頁)
【裁判要旨】
自作農創設特別措置法第六条第三項本文の農地買収対価は、憲法第二九条第三項にいわ
ゆる「正当な補償」にあたる。
【理由】
憲法二九条三項にいうところの財産権を公共の用に供する場合の正当な補償とは、その
当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基き、合理的に算出された相
当な額をいうのであつて、必ずしも常にかかる価格と完全に一致することを要するもの
でないと解するを相当とする。けだし財産権の内容は、公共の福祉に適合するように法
律で定められるのを本質とするから(憲法二九条二項)、公共の福祉を増進し又は維持
するため必要ある場合は、財産権の使用収益又は処分の権利にある制限を受けることが
あり、また財産権の価格についても特定の制限を受けることがあつて、その自由な取引
による価格の成立を認められないこともあるからである。
★ 事業の認定の告示の時における相当な価格を近傍類地の取引価格等を考慮して算定
  した上で、権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて、権利取得
  裁決の時における補償金の額を決定することとしている土地収用法71条は、憲法
  29条3項に違反しないと判示されている。
★ 完全補償説に対する相当補償説の根拠となった判例であるが、戦後の占領下での民
  主化政策の一環である農地改革であるため、例外的な事案と考えられる。

(2)生活補償
●● 昭和55年02月25日岐阜地方裁判所「徳山ダム建設差止請求事件」
【理由】
(水源地域対策特別措置法に規定する)生活再建措置のあつせんは、憲法二九条三項に
いう正当な補償には含まれず、したがつて、これが懈怠による何らかの損害を観念し得
るとしても、それをもつて、憲法二九条違反による損害といえず、無名抗告訴訟として
本件ダム建設行為差止の根拠となし得ない。
☆ 最高裁のホームページの「裁判例情報」中、「行政事件裁判例集」からアクセスで
  きる。

■ 損失補償の時期
●● 最高裁判例「食糧管理法違反」(刑集第3巻8号1286頁)
【裁判要旨】
憲法第二九條は、財産權の不可侵を規定すると共に「私有財産權は正當な補償の下に、
これを公共のために用いることができる」と定めている。從つて國家が私人の財産を公
共の用に供するにはこれによつて私人の破るべき損害を填補するに足りるだけの相當な
賠償をしなければならないことは云うまでもない。しかしながら、憲法は「正當な補
償」と規定しているだけであつて、補償の時期についてはすこしも言明していないので
あるから、補償が財産の供與と交換的に同時に履行さるべきことについては、憲法の保
障するところではないと云わなければならない。もつとも、補償が財産の供與より甚し
く遅れた場合には、遅延による損害を填補する問題を生ずるであろうか、だからといつ
て憲法は補償の同時履行までをも保障したものと解することはできない。
★ 憲法29条3項は、事前補償や同時補償までを保障するものではない。


■■■ 国家賠償法(その2) ■■■
違法ではあるが、過失がない公権力の行使については、国家補償が行われないため、被
害者の救済を図る必要がある。その典型的な事例が予防接種禍訴訟である。

●● 最高裁判例「損害賠償請求」(民集第30巻8号816頁)
【裁判要旨】
(ア)インフルエンザ予防接種を実施する医師が予診としての問診をするにあたつて
   は、予防接種実施規則(昭和四五年厚生省令第四四号による改正前の昭和三三年
   厚生省令第二七号)四条の禁忌者を識別するために、接種直前における対象者の
   健康状態についてその異常の有無を概括的、抽象的に質問するだけでは足りず、
   同条掲記の症状、疾病及び体質的素因の有無並びにそれらを外部的に徴表する諸
   事由の有無につき、具体的に、かつ被質問者に的確な応答を可能ならしめるよう
   な適切な質問をする義務がある。
(イ)インフルエンザ予防接種を実施する医師が、接種対象者につき予防接種実施規則
   (昭和四五年厚生省令第四四号による改正前の昭和三三年厚生省令第二七号)四条
   の禁忌者を識別するための適切な問診を尽くさなかつたためその識別を誤つて接
   種をした場合に、その異常な副反応により対象者が死亡又は罹病したときは、右
   医師はその結果を予見しえたのに過誤により予見しなかつたものと推定すべきで
   ある。
【理由】
予防接種の実施主体であり、かつ、右医師の使用者である地方公共団体は、接種対象者
の死亡等の副反応が現在の医学水準からして予知することのできないものであつたこと
、若しくは予防接種による死亡等の結果が発生した症例を医学情報上知りうるものであ
つたとしても、その結果発生の蓋然性が著しく低く、医学上、当該具体的結果の発生を
否定的に予測するのが通常であること、又は当該接種対象者に対する予防接種の具体的
必要性と予防接種の危険性との比較衡量上接種が相当であつたこと(実施規則四条但
書)等を立証しない限り、不法行為責任を免れないものというべきである。

●● 最高裁判例「損害賠償」(民集第45巻4号367頁)
【裁判要旨】
痘そうの予防接種によつて重篤な後遺障害が発生した場合には、予防接種実施規則(昭
和四五年厚生省令第四四号による改正前の昭和三三年厚生省令第二七号)四条の禁忌者
を識別するために必要とされる予診が尽くされたが禁忌者に該当する事由を発見するこ
とはできなかつたこと、被接種者が右後遺障害を発生しやすい個人的素因を有していた
こと等の特段の事情が認められない限り、被接種者は禁忌者に該当していたものと推定
すべきである。

●● 最高裁判例「被爆者健康手帳交付申請却下処分取消」(民集第32巻2号435頁)
【裁判要旨】
原子爆弾被爆者の医療等に関する法律は、わが国に不法入国した外国人被爆者について
も適用される。
【理由】
原爆医療法の複合的性格からすれば、一般の社会保障法についてこれを外国人に適用す
る場合には、そのよつて立つ社会連帯と相互扶助の理念から、わが国内に適法な居住関
係を有する外国人のみを対象者とすることが一応の原則であるとしても、原爆医療法に
ついて当然に同様の原則が前提とされているものと解すべき根拠はない。かえつて、同
法が被爆者の置かれている特別の健康状態に着目してこれを救済するという人道的目的
の立法であり、その三条一項にはわが国に居住地を有しない被爆者をも適用対象者とし
て予定した規定があることなどから考えると、被爆者であつてわが国内に現在する者で
ある限りは、その現在する理由等のいかんを問うことなく、広く同法の適用を認めて救
済をはかることが、同法のもつ国家補償の趣旨にも適合するものというべきである。
不法入国者の取締りとその者に対する原爆医療法の適用の有無とは別個の問題として考
えるべきものであつて、同法を外国人被爆者に適用するにあたり、不法入国者を特に除
外しなければならないとする特段の実質的・合理的理由はなく、その適用を認めること
がよりよく同法の趣旨・目的にそうものであることは前述のとおりであるから、同法は
不法入国した被爆者についても適用されるものであると解するのが相当である。


■■■ 最近の最高裁判決 ■■■ 
先週、諸般の事情から、他人の子を自分達の嫡出子として出生届を提出した場合の親子
関係に関する最高裁判決が2件ありました。戸籍に関する虚偽の届については虚偽の嫡
出子出生届や代諾養子縁組届等がありますが、いろいろ示唆に富む内容なので、これま
での最高裁判例と併せてご紹介します。

この場合、本人(子)からすれば、本人の預り知らないところで、戸籍上は実子とさ
れ、親(と称する人)との間で実生活を長期間継続してきたものの、当該親が死亡した
際に、当時の事情を知った相続の利害関係人から、親子関係不存在の訴えが提起され、
DNA鑑定等により不存在が判明し、法的にも、これが確定してしまうと、本人は当該
相続に関しては相続人たり得ないことになります。本人からすれば、実親と思ってきた
人がそうではなく、さらに、相続の手続きからも排除されてしまうので、二重の意味で
ショックを受けることになります。

ところが、これまで、最高裁は、こうした事案について、「身分関係を公証する戸籍に
はその記載が正確であることを確保すべき要請があること、身分関係の存否確認訴訟の
判決には対世的効力があるからその訴えの提起者に関する個別事情を重視するのは相当
ではないこと、現在の特別養子縁組制度においても厳格な要件と重大な効果が法定され
ていることに照らせば、本件訴訟に至る経緯、本訴請求が認容されることにより上告
の受けるであろう精神的苦痛等を考慮しても、本訴請求(親子関係不存在の訴え)が権
利の濫用に当たるとまでいうことはできない。」として、極めて厳しく判断してきまし
た。

●● 最高裁判例「相続回復、所有権更正登記手続請求」(民集第4巻13号701頁)
【裁判要旨】
(ア)子でない者が戸籍上嫡出子として記載されている場合に、その記載が親の虚偽の
   嫡出子出生届に基くものであるからといつて、その親の親子関係不存在の主張が
   禁止されることはない。
(イ)養子とする意図で他人の子を嫡出子として届けても、それによつて養子縁組が成
   立することはない。
【理由】
養子縁組は本件嫡出子出生届出当時施行の民法第八四七条第七七五条(現行民法第七九
九条第七三九条)及び戸籍法にしたがい、その所定の届出により法律上効力を有するい
わゆる要式行為であり、かつ右は強行法規と解すべきであるから、その所定条件を具備
しない本件嫡出子出生届をもつて所論養子縁組の届出のあつたものとなすこと(殊に
本件に養子縁組がなされるがためには、上告人は一旦その実父母の双方又は一方におい
認知した上でなければならないものである)はできないのである。
★ 戸籍の記載の正確性を担保するためにも、真実の親子関係あるいはその不存在を優
  先させる(親子関係が存在しないのであれば、虚偽の戸籍は訂正される必要があ
  る。)。

●● 最高裁判例「贈与減殺請求」(民集第18巻3号446頁)
【裁判要旨】
戸籍上嫡出父子関係の記載がある場合、人事訴訟をもつて父子関係の不存在を確定し
て、戸籍訂正の手続を経た後でなくても、父子関係の存在を否定することは妨げない。

●● 最高裁判例「相続回復、所有権更正登記手続請求」(民集第29巻4号401頁)
【裁判要旨】
養子とする意図で他人の子を嫡出子として出生届をしても、右出生届をもつて養子縁組
届とみなし、有効に養子縁組が成立したものとすることはできない。
★ 養子縁組により親子関係が存在することになるので、その手続は適法でなければな
  らない(要式行為)。

●● 最高裁判例「貸金」(民集第32巻1号110頁)
【裁判要旨】
嫡出でない子につき、父から、これを嫡出子とする出生届がされ、又は嫡出でない子と
しての出生届がされた場合において、右各出生届が戸籍事務管掌者によつて受理された
ときは、その各局は、認知届としての効力を有する。
★ 父親の意思は出生届からも判断することができるので、認知としての効力は認めら
  れる。一方、嫡出子養子縁組のような(法的効果の創出を伴う)身分関係につい
  ては、極めて厳しく判断している。

●● 最高裁判例「親子関係不存在確認請求事件」(平成18年07月07日集)
【裁判要旨】
戸籍上自己の嫡出子として記載されている者との間の実親子関係について不存在確認請
求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例
【理由】
真実の親子関係と異なる出生の届出に基づき戸籍上甲の嫡出子として記載されている乙
が、甲との間で長期間にわたり実の親子と同様に生活し、関係者もこれを前提として社
会生活上の関係を形成してきた場合において、実親子関係が存在しないことを判決で確
定するときは、乙に軽視し得ない精神的苦痛、経済的不利益を強いることになるばかり
か、関係者間に形成された社会的秩序が一挙に破壊されることにもなりかねない。ま
た、虚偽の出生の届出がされることについて乙には何ら帰責事由がないのに対し、その
ような届出を自ら行い、又はこれを容認した甲が、当該届出から極めて長期間が経過し
た後になり、戸籍の記載が真実と異なる旨主張することは、当事者間の公平に著しく反
する行為といえる。
そこで、甲がその戸籍上の子である乙との間の実親子関係の存在しないことの確認を求
めている場合においては、甲乙間に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ、
判決をもって実親子関係の不存在を確定することにより乙及びその関係者の受ける精神
的苦痛、経済的不利益、甲が実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求
をする動機、目的、実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に甲以外に
著しい不利益を受ける者の有無等の諸般の事情を考慮し、実親子関係の不存在を確定す
ることが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには、当該確認請求は権利の濫
用に当たり許されないものというべきである。
★ 本件は、戸籍上の親である甲が、戸籍上では嫡出子として記載されている乙(昭和
  18年生まれ)に対して、実親子関係の存在しないことの確認を求めた事案である。

●● 最高裁判例「親子関係不存在確認請求事件」(平成18年07月07日)
【裁判要旨】
戸籍上の父母とその嫡出子として記載されている者との間の実親子関係について父母の
子が不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断に違法があ
るとされた事例
【理由】
実親子関係不存在確認訴訟は、実親子関係という基本的親族関係の存否について関係者
間に紛争がある場合に対世的効力を有する判決をもって画一的確定を図り、これにより
実親子関係を公証する戸籍の記載の正確性を確保する機能を有するものであるから、真
実の実親子関係と戸籍の記載が異なる場合には、実親子関係が存在しないことの確認を
求めることができるのが原則である。
しかしながら、上記戸籍の記載の正確性の要請等が例外を認めないものではないこと
は、民法が一定の場合に、戸籍の記載を真実の実親子関係と合致させることについて制
限を設けていること(776条、777条、782条、783条、785条)などから
明らかである。
上告人とA夫婦との間で長期間にわたり実親子と同様の生活の実体があったこと、A夫
婦が既に死亡しており上告人がA夫婦との間で養子縁組をすることがもはや不可能であ
ることを重視せず、また、上告人が受ける精神的苦痛、経済的不利益、被上告人が上告
人とA夫婦との実親子関係を否定するに至った動機、目的等を十分検討することなく、
上告人において上記実親子関係の存在しないことの確認を求めることが権利の濫用
当たらないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違反があ
る。
★ 本件は、実子として養育された上告人(昭和16年生まれ)に対して、上告人を養育
  した両親の実子であり、他の夫婦の養子となっていた娘(被上告人。上告人の戸籍
  上の姉)が、「被上告人が、戸籍上被上告人の弟とされている上告人は両親の実子
  でも養子でもないと主張して、上告人と両親との間の実親子関係及び養親子関係が
  それぞれ存在しないことの確認を求め」た事案である。
  なお、「養親子関係不存在確認請求に関する部分は、正当として是認することがで
  き、同部分に係る上告は、これを棄却することとする。」とされた。養親子関係に
  ついては、従来同様に厳しい判断をした。 


■■■ お願い ■■■ 
継続して発刊するためには読者の皆様のご支援が何よりの活力になります。ご意見、ア
ドバイス、ご批判その他何でも結構です。内容、頻度、対象の追加や変更等について
も、どうぞ何なりと e-mail@ohta-shoshi.com までお寄せください。

質問は、このメールマガジンの趣旨の範囲内のものであれば、大歓迎です。ただし、多
少時間を要する場合があります。


■■■ 編集後記 ■■■
今回は損失補償と国家賠償法の残りです。繰り返しになりますが、損失補償と国家賠償
法は、絶対に満点を期すべき科目です。したがって、条文は当然のこと、判例六法(大
判でなくても、大丈夫です。)に掲載されている判例は、必ず目を通しておく必要があ
ります。以下、情報公開法、個人情報保護法と続く予定です。

先週、注目すべき最高裁判決がありました。これからも、機会をみつけて、復習をかね
て、こうした判決をご紹介します。

今は夏休み前の最後の踏ん張りどころです。これまで半年間もの間続けて勉強してきた
のですから、その蓄積は相当なものになっているはずです。どうかこのペースを崩さな
いで、夏休みを迎えてください。

むろん、夏休みは知力と体力の休養期間ではなく、短期集中による弱点補強やポイント
強化に充てる期間です。そして、他流試合を経験する絶好の機会です。行政書士試験
は、司法試験や大学の入学試験のような相対比較の試験ではなく(上位○○名が合
格)、絶対試験ですが(足切りをパスして○○点以上が合格)、試験のレベル感を感じ
取り、また、ライバルの進捗状況を知るには最適です。少しでも、発奮する機会を求め
てチャレンジすることが大切です。まだ時間は十分にあります。


***************************************
 マガジンタイトル:新・行政書士試験 一発合格!
 発行者:行政書士 太田誠   東京都行政書士会所属(府中支部)
 発行者Web:http://www.ohta-shoshi.com
 発行者メールアドレス:e-mail@ohta-shoshi.com
 発行協力「まぐまぐ」:http://www.mag2.com/
 登録または解除はこちらから:http://www.ohta-shoshi.com/melmaga.html
***************************************

絞り込み検索!

現在22,386コラム

カテゴリ

労務管理

税務経理

企業法務

その他

≪表示順≫

※ハイライトされているキーワードをクリックすると、絞込みが解除されます。
※リセットを押すと、すべての絞り込みが解除されます。

スポンサーリンク

経営ノウハウの泉より最新記事

スポンサーリンク

労働実務事例集

労働新聞社 監修提供

法解釈から実務処理までのQ&Aを分類収録

注目のコラム

注目の相談スレッド

スポンサーリンク

PAGE TOP