こんにちは、
産業医・労働衛生コンサルタントの朝長健太です。
従業員の健康問題(
従業員主治医の診断書が起因)が企業の経営に直結し、時には社長・
役員の辞任、売上減少、
株主代表訴訟にまで発展するケースが顕在化しています。また、
従業員の健康を第一に守るという目的により、企業ガバナンスの逆転現象が起き、結果的に健康を守りきれなかったという矛盾も生じています。
健康管理は、ケガからハラスメントまで、対策の範囲が広いです。そこで、企業ガバナンスを経営者主体という本来の形にすることで、会社と経営者を第一に守り、その結果、
従業員の健康を守るという目的で、下記の日本規格協会規格(JSA 規格)「JSA-S1025 ヒューマンリソースマネジメント-組織(企業)が⾏う健康管理-職域健康専⾨家の活⽤の指針」を開発しました。
また、認証機関も立ち上げております。
なお、日本規格協会は、経済産業省による認定産業標準作成機関であり、唯一のマネジメントシステム作成機関です。
企業主体の健康管理体制の構築について、ぜひJSA-S1025をご活用ください。
今回は、「【社長辞任】ハラスメントによる
従業員の健康障害」について作成しました。
企業利益の向上という、精神的・社会的健康を向上させるために、弊社をご活用ください。
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【社長辞任】ハラスメントによる
従業員の健康障害
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会社と経営者を第一に守り、その結果、
従業員の健康を守るというコンセプトのJSA-S1025を開発しましたが、早速、
従業員の健康障害を原因とした社長の辞任について、報道がありましたので、共有させていただきます。
〇社長辞任の事例
2021年4月に化粧品会社に入社した女性社員が、入社から8か月後の2021年12月に、社長室に呼び出され、約50分間にわたり「お前、大人をなめるなよ」「世の中で言う野良犬っていうんだよ」などと人格を否定するような激しい叱責を受けました。
精神的・肉体的影響: 叱責を受けた女性は、翌月にはうつ病と診断され、
休職を余儀なくされました。その後、
休職期間満了を理由に
解雇通知を受け、2022年8月に自殺を図り、意識が戻らないまま約1年後の2023年10月に25歳で亡くなりました。
労災認定: 2024年5月、
労働基準監督署は、社長の
パワハラとうつ病の発症、そして自殺との間に因果関係を認め、労災を認定しました。
遺族は会社と社長に対して
損害賠償を求め提訴しましたが、民事
調停に移行し、2025年9月9日、東京
地方裁判所は「
調停に代わる決定」を出し、以下の内容を会社に命じました。
・遺族に1億5000万円を支払う。
・社長が辞任する。
・公式に謝罪し、
再発防止策を実施する。
この決定を受け、社長は9月10日付で辞任しました。化粧品会社は9月11日に社長交代と、
再発防止策への取り組みを発表し、遺族に対し謝罪のコメントを公表しました。
また、化粧品会社は、公式サイトで「亡くなられた元
従業員とご遺族に対して、衷心よりお詫び申し上げます」と謝罪文を掲載し、
再発防止策として、ハラスメント防止規程の見直し、管理職を含む全社員への研修、外部通報窓口の設置など、
再発防止に向けた具体的な取り組みを進めることを表明しています。
〇裁判所主体の決定
この事件は、東京
地方裁判所が、事件の解決に最も適していると判断した内容を決定として示し、当事者が異議を申し立てなければ確定するという対応を行いました。
日本のハラスメント関連訴訟では、通常は
和解や賠償額の決定に留まります。しかし、本件では「社長の辞任」という、経営陣の交代にまで踏み込んだ内容が決定に含まれました。
裁判所主体で、経営者責任を顕在化した事件であると言えます。さらに、公表することを求めており、企業に対する社会的制裁が、増大する結果となりました。
〇遺族と社会の反応
亡くなった女性の母親は、労災認定後に「会社が真摯に謝罪してくれることを望む」とコメントしていました。今回の決定と会社の対応については、一定の評価をしつつも、娘が戻ることはないという悲しみと悔しさをにじませています。
この事件は、企業経営者による
パワハラの深刻さと、それが人命にかかわる重大な結果をもたらす可能性があることを改めて社会に問いかけました。また、
労働者の精神的な苦痛に対する企業の責任が、より厳しく問われる時代の流れを象徴する出来事として、多くのメディアや専門家から注目されました。
〇ハラスメント対策
ハラスメント対策は、ハラスメント防止に関する情報発信(教育含む)、ハラスメント相談受付、個別具体的な対応、
再発防止対策、
個人情報保護、不利益取扱い禁止などが一般的に含まれます。これは、法令の最低限の義務であり、実際に問題が顕在化する時は、今回の化粧品会社の事例の様に、医師の診断書が起点となることが多いです。
ハラスメント対策は、労働政策総合推進法、
男女雇用機会均等法、育児・
介護休業法で定められていることから、法的な視点でのセイフティネットが定められています。
従って、法的な対策に加えて、医学的な対策も重要になります。
〇
産業医が行うべきであった役割
産業医は、
従業員の心身の健康を管理する専門家として、以下のような役割を果たすべきでした。
・健康状態の把握
従業員から精神的な不調を訴える相談があった場合、
産業医はすぐに面談を行い、ストレスの原因が職場環境にあるかどうかを詳細に確認すべきでした。必要に応じて
休職を勧告し、被害者が安心して療養できる環境を確保することが最優先となります。
・職場環境の改善勧告
従業員の不調がハラスメントに起因すると判断した場合、
産業医は会社(特に経営陣)に対して、速やかにハラスメント行為の停止と職場環境の改善を勧告すべきでした。この勧告は、
従業員の健康を守るための専門家としての強い意見であり、経営者はこれを尊重する必要があります。
・加害者への助言と指導
加害者本人に対しても、ハラスメントが心身に与える影響や、自身の行動がもたらすリスクについて、専門的な見地から助言や指導を行うべきでした。
・
復職支援
被害者が回復し、
復職を希望する際には、
産業医が主体となって、元の職場に戻るための環境が整っているか、再度のハラスメントのリスクがないかを慎重に判断し、
復職後のフォローアップ体制を構築すべきでした。
今回の化粧品会社の事例では、初期段階で適切な対応がなされなかったことで事態が深刻化し、被害者の命が失われるという悲劇的な結果につながりました。
産業医がそれぞれの専門性と責任を自覚し、連携して迅速に対応していれば、結果は異なっていたかもしれません。
〇社長は専門家に任せるまでが責任
以下のコラムにも示している様に、社長は、専門家に任せるまでが責任です。確かに、今回の化粧品会社の事例では、不適切な発言は認められましたが、社長も人間ですから、不適切な発言がでることもあります。この点を罰していては、社会の経済活動ができなくなるため、発言を強く取り締まる法律が作られることはありません。発生の予防と、発生した場合の適切な対応が法律で義務付けられています。
問題となった「
従業員の死」につながった原因は、その不適切な発言等が、医学的に改善されなかった点にあります。
医学的な処置が適切にされていれば、結果が異なっていた可能性があり、誠に残念に感じます。
従業員の健康障害から社長が守られる体制を整えれば、結果的に
従業員も守られます。社長は、自らの身を守るために、適切な健康管理体制の構築をすることを強く提言します。
【考察】医師の判断なら、健康管理上、テレビ局は悪くない
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-177477/
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JSA-S1025 ヒューマンリソースマネジメント-組織(企業)が⾏う健康管理-職域健康専⾨家の活⽤の指針
JSA-S1025ページ
https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JSA-S1025%3A2025
JSA-S1025紹介
https://webdesk.jsa.or.jp/pdf/jsa/pdf_jsa_372.pdf
【JSA-S1025】開発の解説
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-177724/
こんにちは、産業医・労働衛生コンサルタントの朝長健太です。
従業員の健康問題(従業員主治医の診断書が起因)が企業の経営に直結し、時には社長・役員の辞任、売上減少、株主代表訴訟にまで発展するケースが顕在化しています。また、従業員の健康を第一に守るという目的により、企業ガバナンスの逆転現象が起き、結果的に健康を守りきれなかったという矛盾も生じています。
健康管理は、ケガからハラスメントまで、対策の範囲が広いです。そこで、企業ガバナンスを経営者主体という本来の形にすることで、会社と経営者を第一に守り、その結果、従業員の健康を守るという目的で、下記の日本規格協会規格(JSA 規格)「JSA-S1025 ヒューマンリソースマネジメント-組織(企業)が⾏う健康管理-職域健康専⾨家の活⽤の指針」を開発しました。
また、認証機関も立ち上げております。
なお、日本規格協会は、経済産業省による認定産業標準作成機関であり、唯一のマネジメントシステム作成機関です。
企業主体の健康管理体制の構築について、ぜひJSA-S1025をご活用ください。
今回は、「【社長辞任】ハラスメントによる従業員の健康障害」について作成しました。
企業利益の向上という、精神的・社会的健康を向上させるために、弊社をご活用ください。
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【社長辞任】ハラスメントによる従業員の健康障害
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会社と経営者を第一に守り、その結果、従業員の健康を守るというコンセプトのJSA-S1025を開発しましたが、早速、従業員の健康障害を原因とした社長の辞任について、報道がありましたので、共有させていただきます。
〇社長辞任の事例
2021年4月に化粧品会社に入社した女性社員が、入社から8か月後の2021年12月に、社長室に呼び出され、約50分間にわたり「お前、大人をなめるなよ」「世の中で言う野良犬っていうんだよ」などと人格を否定するような激しい叱責を受けました。
精神的・肉体的影響: 叱責を受けた女性は、翌月にはうつ病と診断され、休職を余儀なくされました。その後、休職期間満了を理由に解雇通知を受け、2022年8月に自殺を図り、意識が戻らないまま約1年後の2023年10月に25歳で亡くなりました。
労災認定: 2024年5月、労働基準監督署は、社長のパワハラとうつ病の発症、そして自殺との間に因果関係を認め、労災を認定しました。
遺族は会社と社長に対して損害賠償を求め提訴しましたが、民事調停に移行し、2025年9月9日、東京地方裁判所は「調停に代わる決定」を出し、以下の内容を会社に命じました。
・遺族に1億5000万円を支払う。
・社長が辞任する。
・公式に謝罪し、再発防止策を実施する。
この決定を受け、社長は9月10日付で辞任しました。化粧品会社は9月11日に社長交代と、再発防止策への取り組みを発表し、遺族に対し謝罪のコメントを公表しました。
また、化粧品会社は、公式サイトで「亡くなられた元従業員とご遺族に対して、衷心よりお詫び申し上げます」と謝罪文を掲載し、再発防止策として、ハラスメント防止規程の見直し、管理職を含む全社員への研修、外部通報窓口の設置など、再発防止に向けた具体的な取り組みを進めることを表明しています。
〇裁判所主体の決定
この事件は、東京地方裁判所が、事件の解決に最も適していると判断した内容を決定として示し、当事者が異議を申し立てなければ確定するという対応を行いました。
日本のハラスメント関連訴訟では、通常は和解や賠償額の決定に留まります。しかし、本件では「社長の辞任」という、経営陣の交代にまで踏み込んだ内容が決定に含まれました。
裁判所主体で、経営者責任を顕在化した事件であると言えます。さらに、公表することを求めており、企業に対する社会的制裁が、増大する結果となりました。
〇遺族と社会の反応
亡くなった女性の母親は、労災認定後に「会社が真摯に謝罪してくれることを望む」とコメントしていました。今回の決定と会社の対応については、一定の評価をしつつも、娘が戻ることはないという悲しみと悔しさをにじませています。
この事件は、企業経営者によるパワハラの深刻さと、それが人命にかかわる重大な結果をもたらす可能性があることを改めて社会に問いかけました。また、労働者の精神的な苦痛に対する企業の責任が、より厳しく問われる時代の流れを象徴する出来事として、多くのメディアや専門家から注目されました。
〇ハラスメント対策
ハラスメント対策は、ハラスメント防止に関する情報発信(教育含む)、ハラスメント相談受付、個別具体的な対応、再発防止対策、個人情報保護、不利益取扱い禁止などが一般的に含まれます。これは、法令の最低限の義務であり、実際に問題が顕在化する時は、今回の化粧品会社の事例の様に、医師の診断書が起点となることが多いです。
ハラスメント対策は、労働政策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法で定められていることから、法的な視点でのセイフティネットが定められています。
従って、法的な対策に加えて、医学的な対策も重要になります。
〇産業医が行うべきであった役割
産業医は、従業員の心身の健康を管理する専門家として、以下のような役割を果たすべきでした。
・健康状態の把握
従業員から精神的な不調を訴える相談があった場合、産業医はすぐに面談を行い、ストレスの原因が職場環境にあるかどうかを詳細に確認すべきでした。必要に応じて休職を勧告し、被害者が安心して療養できる環境を確保することが最優先となります。
・職場環境の改善勧告
従業員の不調がハラスメントに起因すると判断した場合、産業医は会社(特に経営陣)に対して、速やかにハラスメント行為の停止と職場環境の改善を勧告すべきでした。この勧告は、従業員の健康を守るための専門家としての強い意見であり、経営者はこれを尊重する必要があります。
・加害者への助言と指導
加害者本人に対しても、ハラスメントが心身に与える影響や、自身の行動がもたらすリスクについて、専門的な見地から助言や指導を行うべきでした。
・復職支援
被害者が回復し、復職を希望する際には、産業医が主体となって、元の職場に戻るための環境が整っているか、再度のハラスメントのリスクがないかを慎重に判断し、復職後のフォローアップ体制を構築すべきでした。
今回の化粧品会社の事例では、初期段階で適切な対応がなされなかったことで事態が深刻化し、被害者の命が失われるという悲劇的な結果につながりました。産業医がそれぞれの専門性と責任を自覚し、連携して迅速に対応していれば、結果は異なっていたかもしれません。
〇社長は専門家に任せるまでが責任
以下のコラムにも示している様に、社長は、専門家に任せるまでが責任です。確かに、今回の化粧品会社の事例では、不適切な発言は認められましたが、社長も人間ですから、不適切な発言がでることもあります。この点を罰していては、社会の経済活動ができなくなるため、発言を強く取り締まる法律が作られることはありません。発生の予防と、発生した場合の適切な対応が法律で義務付けられています。
問題となった「従業員の死」につながった原因は、その不適切な発言等が、医学的に改善されなかった点にあります。
医学的な処置が適切にされていれば、結果が異なっていた可能性があり、誠に残念に感じます。
従業員の健康障害から社長が守られる体制を整えれば、結果的に従業員も守られます。社長は、自らの身を守るために、適切な健康管理体制の構築をすることを強く提言します。
【考察】医師の判断なら、健康管理上、テレビ局は悪くない
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-177477/
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JSA-S1025 ヒューマンリソースマネジメント-組織(企業)が⾏う健康管理-職域健康専⾨家の活⽤の指針
JSA-S1025ページ
https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JSA-S1025%3A2025
JSA-S1025紹介
https://webdesk.jsa.or.jp/pdf/jsa/pdf_jsa_372.pdf
【JSA-S1025】開発の解説
https://www.soumunomori.com/column/article/atc-177724/