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★★★ 新・
行政書士試験 一発合格! Vol. ’06-12 ★★★
【レジュメ編】
民法(その6〔1〕)
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■■■
民法(その6〔1〕) ■■■
■■
弁済
■■
相殺
■■
債権者代位権
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
■■■
民法(その6〔1〕) ■■■
■■
弁済
■
債権の消滅原因
弁済、代物
弁済、
供託、
相殺、公開、免除、混同
■
弁済者
(1)
債務者(本人)
(2)第三者
(3)例外(第三者が
弁済できない場合)
(ア)
債務の性質がこれを許さないとき(474条1項)
(イ)当事者が反対の意思を表示したとき(474条1項)
(ウ)
債務者の意思に反した利害関係を有しない第三者による
弁済(474条2項)
●● 最高裁判例「転付
債権請求」(民集第18巻4号566頁)
【理由】
民法第四七四条第二項にいう「利害ノ関係」を有する者とは、
物上保証人、担
保不動産の第三取得者などのように
弁済をすることに法律上の利害関係を有す
る第三者をいうものと解するのが相当である。
(4)効果
(ア)第三者による
弁済が有効に行われた場合、
債務者の
債務は消滅し、
弁済者の
債務
者に対する
求償権が生じる。
(イ)第三者による
弁済が無効である場合、
弁済者は、
債権者に対して、
不当利得とし
て給付したものの返還を求めることができる。
■
弁済の相手方
(1)受領権限者:
債権者、
代理人、差押権者等
→差押が競合した場合、
債務者は
供託をしなければならない(民事執行法159条2項)。
(2)受取証書の持参人に対する
弁済
第四百八十条 受取証書の持参人は、
弁済を受領する権限があるものとみなす。ただ
し、
弁済をした者がその権限がないことを知っていたとき、又は過失によって知らなか
ったときは、この限りでない。
→悪意や過失の
立証責任は、
弁済の無効を主張する(悪意や過失の立証により、改めて
弁済を受けられる)
債権者にある。
→受取証書は真正なものでなければならない。偽物である場合には、
債権の準占有者に
対する
弁済の問題となる。
(3)
債権の準占有者に対する
弁済
第四百七十八条
債権の準占有者に対してした
弁済は、その
弁済をした者が善意であ
り、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。
(ア)偽造された受取証書の持参人についても、適用される(判例・通説)。
(イ)効果
(a)
弁済は有効となる。そのため、真の
債権者は、受領者に対して
不当利得返還請求
または
不法行為による
損害賠償請求を行える。
(b)
債務者が援用(主張)した場合にのみ、法的効果が発生する(
債務者が、二重に
履行することは、
債務者の自由)。
●● 最高裁判例「納品代金請求」(民集第16巻9号1809頁)
【要旨】
債権者の
代理人と称して
債権を行使する者についても
民法第四七八条が適用さ
れる。
★ 受領権限があるかのような外観がある場合には、
代理人と称していても、準占有者
に含められる。
→
表見代理以上の保護が付与されている(自称
代理人の受領は
無権代理であり、表見代
理が成立しない限り、
弁済は無効である。)。
●● 最高裁判例「運送代金」(民集第40巻3号558頁)
【要旨】指名
債権が二重に譲渡された場合に、
民法四六七条二項所定の対抗要件を後れ
て具備した譲受人に対してされた
弁済についても、同法四七八条の適用がある。
★
債務者の
弁済が有効になっても、対抗要件で優先する
債権者は、
債務者から
弁済を
受けた対抗要件に後れた
債権者に対して、
不当利得の返還請求ができる。
●● 最高裁判例「
債権差押処分無効確認等請求事件」(民集第57巻6号563頁)
【要旨】
債務整理事務の
委任を受けた弁護士甲が,
委任事務処理のため
委任者乙から受
領した金銭を預け入れるために甲の名義で普通
預金口座を開設し,これに上記
金銭を預け入れ,その後も
預金通帳及び届出印を管理して,
預金の出し入れを
行っていた場合には,当該口座に係る
預金債権は,甲に帰属する。
★
行政書士も、業務上、顧客から予め一定の金銭を預かることがあります(いわゆる
着手金といわれるもの)。この場合、
現金のまま保有せず、安全のため、
行政書士
名義で銀行
預金にすると、同じ問題が生じます。むろん、この場合に、手数料や税
金等に充当した後の残額については返還義務を負っています。
→誰が銀行
預金の権利者であるかについては、
預金の名義のいかんを問わず、真の出捐
(しゅつえん)者が
預金者であるとされています(客観説)。たとえば、親が子の名
義で
預金した場合の(真の)
預金者は、当該親になります。この場合、その子が通帳
と印鑑を盗んで払い戻しを請求した場合に、銀行にこれを疑う特段の自由がないまま
払い戻しが行われると(善意かつ無過失であると)、
債権の準占有者に対する
弁済と
なり、銀行は免責されます。
●● 最高裁判例「
預金返還」(民集第38巻3号445頁)
【要旨】金融機関が、記名式定期
預金につき真実の
預金者甲と異なる乙を
預金者と認定
して乙に貸付をしたのち、貸付
債権を自働
債権とし
預金債権を受働
債権として
した
相殺が
民法四七八条の類推適用により甲に対して効力を生ずるためには、
当該貸付時において、乙を
預金者本人と認定するにつき金融機関として負担す
べき相当の注意義務を尽くしたと認められれば足りる。
→当初の貸付時に善意無過失であれば、
相殺時に善意無過失でなくても、478条の規定
は類推適用される。
■
弁済の時期
第四百十二条
債務の
履行について確定期限があるときは、
債務者は、その期限の到来
した時から遅滞の責任を負う。
2
債務の
履行について不確定期限があるときは、
債務者は、その期限の到来したこと
を知った時から遅滞の責任を負う。
3
債務の
履行について期限を定めなかったときは、
債務者は、
履行の請求を受けた時
から遅滞の責任を負う。
■
弁済の場所
第四百八十四条
弁済をすべき場所について別段の
意思表示がないときは、特定物の引
渡しは
債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の
弁済は
債権者の現在の
住所において、それぞれしなければならない。
(ア)特定物の引渡し:
債権発生の時にその物が存在した場所
(イ)その他の
弁済:持参
債務の原則。
■
弁済の提供の方法
第四百九十三条
弁済の提供は、
債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただ
し、
債権者があらかじめその受領を拒み、又は
債務の
履行について
債権者の行為を要す
るときは、
弁済の準備をしたことを通知してその受領の
催告をすれば足りる。
(1)現実の提供:
債務の本旨に従って現実にしなければならない。
(2)口頭の提供:
弁済の準備をしたことを通知してその受領の
催告をすれば足りる。
なお、相手方の受領拒絶が正当な事由によるものである場合、口頭の提供では、
有効な提供にはならない。
●● 最高裁判例「家屋明け渡し請求」(民集第11巻6号915頁)
【要旨】
債権者が
契約の存在を否定する等、
弁済を受領しない意思が明確と認められる
ときは、
債務者は言語上の提供をしなくても
債務不
履行の責を免れるものと解
すべきである。
★ 口頭の提供さえ必要ないと判示された事案(例外的)。
●● 最高裁判例「建物取除、土地明け渡し等本訴並びに反訴請求」(民集第16巻9号
2041頁)
【要旨】金銭
債務の
弁済のため、取引界において通常
現金と同様に取り扱われている銀
行の自己宛振出
小切手を提供したときは、特段の事情のないかぎり、
債務の本
旨に従った
弁済の提供があつたものと認めるべきである。
●● 最高裁判例「
所有権移転
登記手続等」(民集第48巻3号859頁)
【理由】
民法五五七条一項により売主が
手付けの倍額を償還して
契約の解除をするため
には、
手付けの「倍額ヲ償還シテ」とする同条項の文言からしても、また、買
主が同条項によって
手付けを放棄して
契約の解除をする場合との均衡からして
も、単に口頭により
手付けの倍額を償還する旨を告げその受領を
催告するのみ
では足りず、買主に現実の提供をすることを要するものというべきである。
●● 最高裁判例「
所有権確認及び
損害賠償請求」(民集第14巻14号3060頁)
【要旨】
消費貸借上の
債務弁済のため提供
供託された元利合計金一五万三一四〇円が、
正当な元利合計額に金一、三〇〇余円不足するとしても、この一事により
弁済
提供および
供託の効果を否定することはできない。
●● 最高裁判例「建物明渡請求」(民集第10巻11号1480頁)
【要旨】甲家屋の賃貸人がその賃料の支払を
催告したのに対し、賃借人が、乙家屋と丙
土地もともに賃貸借の目的物であると争って甲家屋の賃料に乙家屋と丙土地の
相当賃料額を合わせた金員を、その金額を受領しなければ支払わない意思で提
供した場合には、
債務の本旨に従った
履行の提供があつたものとはいえない。
★ 通常は少ない
弁済の提供が問題になりますが、この事案は、その逆の場合です。
●● 最高裁判例「家屋明渡請求」(民集第18巻8号1773頁)
【要旨】
債務者が賃料を持参して
債権者の
代理人である弁護士の事務所に赴いたが、当
該弁護士が不在のため、
現金の呈示ができない場合には、特段の事情のないか
ぎり、右弁護士の事務員に対しその受領の
催告をしなくても、
弁済のための現
実の提供があつたものと解すべきである。
★
債権者には、
債務者の
弁済に対する信義則上の協力義務があるといえる。
■
弁済の
費用
第四百八十五条
弁済の
費用について別段の
意思表示がないときは、その
費用は、
債務
者の負担とする。ただし、
債権者が住所の移転その他の行為によって
弁済の
費用を増加
させたときは、その増加額は、
債権者の負担とする。
→
契約書等の作成
費用、目的物の鑑定
費用等の
契約締結に要する
費用は、
弁済のための
費用とは異なるので、当事者双方が平等に負担する(558条、559条)。ただし、
特約
があれば、それに従う。
■
弁済の充当
【1】
弁済の充当の指定
第四百八十八条
債務者が同一の
債権者に対して同種の給付を目的とする数個の
債務を
負担する場合において、
弁済として提供した給付がすべての
債務を消滅させるのに足り
ないときは、
弁済をする者は、給付の時に、その
弁済を充当すべき
債務を指定すること
ができる。
2
弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、
弁済を受領する者は、その
受領の時に、その
弁済を充当すべき
債務を指定することができる。ただし、
弁済をする
者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない
【2】法定充当
第四百八十九条
弁済をする者及び
弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁
済の充当の指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その
弁済を充当す
る。
一
債務の中に
弁済期にあるものと
弁済期にないものとがあるときは、
弁済期にある
ものに先に充当する。
二 すべての
債務が
弁済期にあるとき、又は
弁済期にないときは、
債務者のために弁
済の利益が多いものに先に充当する。
三
債務者のために
弁済の利益が相等しいときは、
弁済期が先に到来したもの又は先
に到来すべきものに先に充当する。
四 前二号に掲げる事項が相等しい
債務の
弁済は、各
債務の額に応じて充当する。
●● 最高裁判例「貸金請求」(民集第8巻7号1350頁)
【要旨】
民法第四八九条第二号にいわゆる「
債務者ノ為メニ
弁済ノ利益多キモノ」を定
めるにあたっては、甲
債務は
利息附であり、乙
債務は新造船と網とが
担保とな
っていることを確定しただけでは足らず、なお
担保契約の内容等諸般の事情を
考慮しなければならない。
★ 「
債務者のために
弁済の利益が多いもの」の例
(ア)
利息付と無
利息→
利息付
(イ)低金利と高金利→高金利
(ウ)連帯
債務と単独
債務→単独
債務
(エ)
担保付と無
担保→
担保付
【3】元本、
利息及び
費用を支払うべき場合の充当
第四百九十一条
債務者が一個又は数個の
債務について元本のほか
利息及び
費用を支
払うべき場合において、
弁済をする者がその
債務の全部を消滅させるのに足りない給付
をしたときは、これを順次に
費用、
利息及び元本に充当しなければならない。
■
弁済受領者の義務
【1】受取証書の交付請求
第四百八十六条
弁済をした者は、
弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求
することができる。
→受取証書(
領収書)の交付と
弁済は、
同時履行の関係にある。
【2】
債権証書の返還請求
第四百八十七条
債権に関する証書がある場合において、
弁済をした者が全部の
弁済
をしたときは、その証書の返還を請求することができる。
→
債権証書(借用書)の返還と
弁済は、
同時履行の関係にはない。
■
弁済提供の効果
(1)
債務不
履行責任が発生しない(492条)。
(2) 双務
契約の場合、相手方に
同時履行の
抗弁権がなくなる(533条)。
(3) 特定物の引渡しの場合の注意義務が軽減される(400条)。
(4) 危険負担の移転
■ 受領遅滞の場合
●● 最高裁判例「不動産
所有権移転
登記手続請求」(民集第14巻12号2733頁)
【要旨】双務
契約上の
債務の受領遅滞にある者が
契約解除の前提としての
催告をするた
めには、受領遅滞を解消させた上でこれをしなければならない。
●● 最高裁判例「家屋明渡等請求第」(民集24巻9号1243頁)
【要旨】建物の賃貸人が現実に提供された賃料の受領を拒絶したときは、特段の事情が
ないかぎり、その後において提供されるべき賃料についても、受領拒絶の意思
を明確にしたものと解すべきであり、右賃貸人が賃借人の賃料の不払を理由と
して
契約を解除するためには、単に賃料の支払を
催告するだけでは足りず、そ
の前提として、受領拒絶の態度を改め、以後賃料を提供されれば確実にこれを
受領すべき旨を表示する等、自己の受領遅滞を解消させるための措置を講じな
ければならない。
●● 最高裁判例「
損害賠償請求」(民集第19巻9号2090頁)
【理由】
債務者の
債務不
履行と
債権者の受領遅滞とは、その性質が異なるのであるから、
一般に後者に前者と全く同一の効果を認めることは
民法の予想していないとこ
ろというべきである。
民法四一四条・四一五条・五四一条等は、いずれも
債務
者の
債務不
履行のみを想定した規定であること明文上明らかであり、受領遅滞
に対し
債務者のとりうる措置としては、
供託・自動売却等の規定を設けている
のである。されば、特段の事由の認められない本件においては、被
上告人の受
領遅滞を理由として
上告人は
契約を解除することができない。
■■
相殺
■
相殺とは何か
(
相殺の要件等)
第五百五条 二人が互いに同種の目的を有する
債務を負担する場合において、双方の
債務が
弁済期にあるときは、各
債務者は、その対当額について
相殺によってその
債務を
免れることができる。ただし、
債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、
その
意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
(
相殺の方法及び効力)
第五百六条
相殺は、当事者の一方から相手方に対する
意思表示によってする。この
場合において、その
意思表示には、条件又は期限を付することができない。
2 前項の
意思表示は、双方の
債務が互いに
相殺に適するようになった時にさかのぼ
ってその効力を生ずる。
■
相殺の根拠
(1)
弁済の手間を省略して簡単に
決済すること→簡便な
決済
(2)
相殺を認めないと資力のある当事者は
債務全額を
弁済しなければならないのに、
資力のない相手方からは
債権額全部の回収が出来ず不公平→公平の要請
(3)
相殺が機能的に
担保の役割を果たしているので、これに対する期待を保護するこ
と→
担保的機能への期待
■
相殺の効果
(1)各
債務者がその対等額についてその
債務を免れること
(2)効力の発生時期=双方の
債務が互いに
相殺に適するようになった時(
相殺適状)
に遡って効果が生ずる。
■
相殺の要件
【1】一般的要件(
相殺適状)
(1)二人が互いに
債務を負担すること
(2)両
債務が「同種の目的」を有すること
※
履行地の異なる
債務も
相殺できる。
(
履行地の異なる
債務の
相殺)
第五百七条
相殺は、双方の
債務の
履行地が異なるときであっても、することができ
る。この場合において、
相殺をする当事者は、相手方に対し、これによって生じた損害
を賠償しなければならない。
(3)両
債務が
弁済期にあること
●● 最高裁判例(譲受
債権請求事件、民集第29巻11号1864頁)
【要旨】
債権が譲渡され、その
債務者が、譲渡通知を受けたにとどまり、かつ、右通知
を受ける前に譲渡人に対して反対
債権を取得していた場合において、譲受人が
譲渡人である会社の
取締役である等判示の事実関係があるときには、右被譲渡
債権及び反対
債権の
弁済期の前後を問わず、両者の
弁済期が到来すれば、被譲
渡
債権の
債務者は、譲受人に対し、右反対
債権を自働
債権として、被譲渡
債権
と
相殺することができる。
(4)両
債務が性質上
相殺を許さないものではないこと
★
時効により消滅した
債権を自働
債権とする
相殺
第五百八条
時効によって消滅した
債権がその消滅以前に
相殺に適するようになって
いた場合には、その
債権者は、
相殺をすることができる。
→一方の
債務がすでに消滅しているという特殊な場合に、
民法が
相殺を認めている例。
●● 最高裁判例「請求異議事件」(民集民集第15巻4号765頁)
【要旨】
消滅時効にかかった他人の
債権を譲り受け、これを自働
債権として
相殺するこ
とは許されない。
【2】
相殺の禁止事由(
相殺が認められない消極的要件)
(1)当事者の反対の
意思表示
・当事者が
相殺しない旨合意した場合には
相殺できない(第505条2項)。
・
相殺禁止の合意は善意の第三者に対抗できない(同項但書)。
(2)受働
債権とすることができない場合
(ア)
不法行為上の
損害賠償債務
(
不法行為により生じた
債権を受働
債権とする
相殺の禁止)
第五百九条
債務が
不法行為によって生じたときは、その
債務者は、
相殺をもって債
権者に対抗することができない。
★ 自働
債権・受働
債権がともに
不法行為から生じた
損害賠償債権の場合でも、509条
の
相殺禁止は妥当する。
●● 最高裁判例「家屋明渡等請求事件」(民集第21巻9号2477頁)
【要旨】
民法第509条は、
不法行為の被害者をして現実の
弁済により損害の填補をうけ
しめるとともに、
不法行為の誘発を防止することを目的とするものであり、不
法行為に基づく
損害賠償債権を自働
債権とし、
不法行為による
損害賠償債権
(請求権)以外の
債権を受働
債権として
相殺をすることまでも禁止するもので
はないと解するのが相当である。
★ 509条を厳格に適用する立場をとっても、自働
債権だけが
不法行為から生じた場
合には
相殺は可能である。
●● 最高裁判例「
損害賠償請求」(民集28巻5号666頁)
【要旨】双方の過失に基因する同一交通事故によって生じた物的損害に基づく
損害賠償
債権相互間においても、
相殺は許されない。
【理由】
民法五〇九条の趣旨は、
不法行為の被害者に現実の
弁済によって損害の填補を
受けさせること等にあるから、およそ
不法行為による
損害賠償債務を負担して
いる者は、被害者に対する
不法行為による
損害賠償債権を有している場合であ
っても、被害者に対しその
債権をもつて対当額につき
相殺により右
債務を免れ
ることは許されないものと解するのが、相当である。したがつて、本件のよう
に双方の被用者の過失に基因する同一交通事故によって生じた物的損害に基づ
く
損害賠償債権相互間においても、
民法五〇九条の規定により
相殺が許されな
いというべきである。
(イ)
差押えの禁止された
債権
(
差押禁止債権を受働
債権とする
相殺の禁止)
第五百十条
債権が
差押えを禁じたものであるときは、その
債務者は、
相殺をもって
債権者に対抗することができない。
・
差押禁止債権の例:
扶養請求権、
賃金支払
債務
●● 最高裁判例「給与支払請求事件」(民集民集第23巻12号2495頁)
【要旨】会社の
賃金過払による
不当利得返還請求権を自働
債権とし、
労働者のその後に
支払われる
賃金の支払請求権を受働
債権としてする
相殺は、過払のあつた時期
と
賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、
かつ、あらかじめ
労働者に予告されるとかその額が多額にわたらない等
労働者
の経済生活の安定をおびやかすおそれのないものであるときは、
労働基準法
(第24条「
賃金の支払い」)に違反しない。
(ウ)
差押えを受けた
債権
(支払の差止めを受けた
債権を受働
債権とする
相殺の禁止)
第五百十一条 支払の差止めを受けた第三
債務者は、その後に取得した
債権による
相殺
をもって差押
債権者に対抗することができない。
●● 最高裁判例(定期
預金等請求事件、民集第24巻6号587頁)
【要旨】
債権が差し押えられた場合において、第三
債務者が
債務者に対して反対
債権を
有していたときは、その反対
債権が差押後に取得されたものでないかぎり、右
反対
債権および被差押
債権の
弁済期の前後を問わず、両者が
相殺適状に達しさ
えすれば、第三
債務者は、差押後においても、右反対
債権を自働
債権として、
被差押
債権と
相殺することができる。
★ このように
債権(貸付
債権)と被差押
債権(定期
預金)の
弁済期の前後は問われな
いが、
相殺適状に達していることが必要なので、
特約(たとえば、貸付
契約書に規
定する。)によって、相手方(
預金者)には貸付
債務の
期限の利益を失わせ、自分
(銀行)は
預金債務の
期限の利益を自ら放棄して、
相殺適状を作り出すことになる。
(3)自働
債権とすることが出来ない場合
(ア)
抗弁権付の
債権
例:
同時履行の
抗弁権(533条)、
催告・
検索の抗弁権(452、453条)
(イ)
差し押さえられた
債権
差押えにより、第三
債務者は
弁済を禁じられるが、差押
債務者の方も
債権の取立てその
他の処分が禁止される。→
相殺も禁じられる。
■
相殺の方法
当事者の一方から相手方に対する
意思表示によって行う(506条1項第1文)。
→この
意思表示には条件・期限をつけることはできないが、合意によって条件・期限を
つけることは可能。
【1】
相殺契約
相殺の方法や要件・効果について合意で定めること
(⇔法定
相殺:
民法が定める一方的
意思表示による
相殺)
【2】
相殺予約
(1)
相殺契約の予約
相殺契約による
相殺の効果が、予約完結権を持った当事者がこれを行使することによっ
て発生すること。
(2)
停止条件付
相殺契約
一定の事由が発生した場合に、
意思表示を待たずに、当然に
相殺の効力が発生する旨を
定める場合のこと。
(3)準法定
相殺
ある一定の事由が生じたときに、自働
債権について
債務者は
期限の利益を喪失し、受働
債権については
期限の利益を放棄して、当然に
相殺適状が発生するという合意
■■
相殺の
担保的効力
■ 判例理論
●● 最高裁判例「定期
預金等請求」(民集24巻6号587頁)
【要旨】
債権が差し押えられた場合において、第三
債務者が
債務者に対して反対
債権を
有していたときは、その
債権が差押後に取得されたものでないかぎり、右
債権
および被差押
債権の
弁済期の前後を問わず、両者が
相殺適状に達しさえすれば、
第三
債務者は、差押後においても、右反対
債権を自働
債権として、被差押
債権
と
相殺することができる。
【理由】
民法五一一条は、一方において、
債権を差し押えた
債権者の利益をも考慮し、
第三
債務者が差押後に取得した
債権による
相殺は差押
債権者に対抗しえない旨
を規定している。しかしながら、同条の文言および前示
相殺制度の本質に鑑み
れば、同条は、第三
債務者が
債務者に対して有する
債権をもつて差押
債権者に
対し
相殺をなしうることを当然の前提としたうえ、差押後に発生した
債権また
は差押後に他から取得した
債権を自働
債権とする
相殺のみを例外的に禁止する
ことによって、その限度において、差押
債権者と第三
債務者の間の利益の調節
を図ったものと解するのが相当である。したがつて、第三
債務者は、その
債権
が差押後に取得されたものでないかぎり、自働
債権および受働
債権の
弁済期の
前後を問わず、
相殺適状に達しさえすれば、差押後においても、これを自働債
権として
相殺をなしうるものと解すべきであり、これと異なる論旨は
採用する
ことができない。
★ この判決は、両
債務の
弁済期を問題とすることなく
相殺の効力を認めているので、
「無制限説」と呼ばれる。この説の意味は、たとえ受働
債権の
弁済期が自働
債権の
弁済期より先に到来する場合であっても、受動
債権の
弁済を怠っているうちに自働
債権の
弁済期が来て
相殺適条が生ずれば、その時点で
相殺できるというところにあ
る。
・
期限の利益喪失約款:破産・
民事再生手続・会社更生手続等については、その申立て
を
期限の利益喪失事由とし、
預金債権の
仮差押え、保全
差押えまたは
差押えについて
は、その命令、通知が発せられたときに
期限の利益を喪失すると規定されるのは一般
的である。
■
債権譲渡への適用
★
相殺と
債権譲渡の問題―譲渡通知前に
債務者が譲渡人に対する自働
債権を有してい
れば、
弁済期を問わずに
相殺できるのか。
●● 最高裁判例「譲受
債権請求」(民集29巻11号1864頁)
【要旨】
債権が譲渡され、その
債務者が、譲渡通知を受けたにとどまり、かつ、右通知
を受ける前に譲渡人に対して反対
債権を取得していた場合において、譲受人が
譲渡人である会社の
取締役である等判示の事実関係があるときには、右被譲渡
債権及び反対
債権の
弁済期の前後を問わず、両者の
弁済期が到来すれば、被譲
渡
債権の
債務者は、譲受人に対し、右反対
債権を自働
債権として、被譲渡
債権
と
相殺することができる。
■ 転付命令との関係
●● 最高裁判例「
約束手形金」(民集33巻5号533頁)
【要旨】転付
債権者に転付された
債務者の第三
債務者に対する甲
債権と第三
債務者の転
付
債権者に対する乙
債権との
相殺適状が甲
債権と第三
債務者の
債務者に対する
丙
債権との
相殺適状より後に生じた場合であっても、第三
債務者が丙
債権を自
働
債権とし甲
債権を受働
債権とする
相殺の
意思表示をするより先に、転付
債権
者の甲
債権を自働
債権とし乙
債権を受働
債権とする
相殺の
意思表示により甲債
権が消滅していた場合には、第三
債務者による右
相殺の
意思表示はその効力を
生じない。
【理由】
相殺適状は、原則として、
相殺の
意思表示がされたときに現存することを要す
るのであるから、いつたん
相殺適状が生じていたとしても、
相殺の
意思表示が
される前に一方の
債権が
弁済、代物
弁済、更改、
相殺等の事由によって消滅し
ていた場合には
相殺は許されない(
民法五〇八条はその例外規定である。)、
と解するのが相当である。また、
債権が
差し押さえられた場合において第三債
務者が
債務者に対して反対
債権を有していたときは、その
債権が差押後に取得
されたものでない限り、右
債権及び被差押
債権の
弁済期の前後を問わず、両者
が
相殺適状になりさえすれば、第三
債務者は、差押後においても右反対
債権を
自働
債権とし被差押
債権を受働
債権として
相殺することができるわけであるけ
れども、そのことによって、第三
債務者が右の
相殺の
意思表示をするまでは、
転付
債権者が転付命令によって委付された
債権を自働
債権とし、第三
債務者に
対して負担する
債務を受働
債権として
相殺する権能が妨げられるべきいわれは
ない。
■■■ 責任財産の保全
■■
債権者代位権
債務者が自らの権利を行使しないときに、
債権者が
債務者に代わってその権利を行使するもので、
債務者が責任財産の減少を放任する場合に機能する。
【1】
債権者代位権のメリット
(1)
債務者の同意がない場合でも行使可能
(2)
債務名義が不要
(3)
催告・取消権・解除権・買戻権等の執行の目的とならない
債務者の権利も代位行使
可能
(4)
債権者代位権の転用が可能
■
債権者代位権の要件
(
債権者代位権)
第四百二十三条
債権者は、自己の
債権を保全するため、
債務者に属する権利を行使す
ることができる。ただし、
債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
2
債権者は、その
債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項
の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
【1】
債権保全の必要性
代位権を行使しないと
債務者が無資力になり、完全な
弁済を受けられなくなること
●● 最高裁判例(室明渡請求事件、民集第8巻9号1658頁)
【要旨】建物の賃借人が、賃貸人たる建物所有者に代位して、建物の不法占拠者に対し
その明渡を請求する場合には、直接自己に対して明渡をなすべきことを請求す
ることができる。
●● 最高裁判例(建物明渡請求事件、民集第53巻8号1899頁)
【要旨】第三者が抵当不動産を不法占有することにより、
競売手続の進行が害され適正
な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の
実現が妨げられ、
抵当権者の優先
弁済請求権の行使が困難となるような状態が
あるときは、
抵当権者は、抵当不動産の所有者に対して有する右状態を是正し
抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を保全するため、所有
者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができる。
★★ 被保全
債権は、
担保権が付いていてもよく、また、
登記請求権や賃貸借権に基づ
く妨害排除請求権等、金銭
債権以外の
債権にも拡大されている。
★★ 無資力要件についても、金銭
債権以外の
債権を被保全
債権とする場合(
登記請求
権と不動産の賃借人の利用権が被保全
債権となる場合)、判例はこの要件を不要
としている。
●● 最高裁判例(土地
所有権移転
登記請求事件、民集第29巻3号203頁)
【要旨】買主に対する土地
所有権移転
登記手続義務を
相続した共同
相続人の一部の者が
右義務の
履行を拒絶しているため、買主が
相続人全員による
登記手続義務の履
行の提供があるまで代金全額について
弁済を拒絶する旨の
同時履行の
抗弁権を
行使している場合には、他の
相続人は、自己の
相続した買主に対する代金
債権
を保全するため、右買主が無資力でなくても、これに代位して、
登記手続義務
の
履行を拒絶している一部の
相続人に対し買主の
所有権移転
登記手続請求権を
行使することができる。
★ 自己の代金
債権を保全するために、
債務者の有する
同時履行の
抗弁権を消滅させる
ため、
債権者代位権を行使したものです。
●● 最高裁判例(
損害賠償請求事件、民集第36巻8号1652頁)
【要旨】自動車保険普通保険
約款に、加害者の保険会社に対する保険金請求権は、加害
者と被害者との間で
損害賠償額が確定したときに発生し、これを行使すること
ができる旨の規定があっても、被害者が加害者に対する
損害賠償請求と保険会
社に対し加害者に代位してする保険金請求とを併合して訴求している場合には、
右保険金請求訴訟は、将来の給付の訴えとして許される。
★ この場合にも、
債務者の無資力は要件になっていません。
【2】代位される権利の要件
・一身専属の権利でないこと(行使上の一身専属性)
・行使上の一身専属性の例:
慰謝料請求権、夫婦間の
契約取消権(754条)、親族間
の
扶養請求権(877条以下)等
・代位行使できる権利の例:代金請求権、
損害賠償請求権、
登記請求権、形成権(取消
権・解除権)、
相殺、消滅
時効の援用、
錯誤無効の主張等
●● 最高裁判例「
所有権確認等事件」(民集第34巻4号628頁)
【要旨】協議あるいは審判等によって具体的内容が形成される前の
離婚に伴う
財産分与
請求権を保全するために
債権者代位権を行使することは許されない。
★ ただし、
財産分与請求権も、具体的な金額が確定すれば、代位行使は可能である。
●● 最高裁判例(第三者異議事件、民集第55巻6号1033頁)
【要旨】
遺留分減殺請求権は,
遺留分権利者が,これを第三者に譲渡するなど,権利行
使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある
場合を除き,
債権者代位の目的とすることができない。
●● 最高裁判例(
配当異議事件、民集第22巻9号2002頁)
【要旨】
債権者は、自己の
債権を保全するに必要な限度で、
債務者に代位して、他の債
権者に対する
債務の
消滅時効を援用することができる。
【3】
履行期の到来
(1)代位
債権者の
債権が
履行期にあること
(2)
履行期前でも代位権を行使できる例外
(1)裁判上の代位による場合
(2)保存行為の場合(
時効中断、未
登記の権利の
登記、第三
債務者破産の場合の
債権
の届出等)
【4】権利の不行使
代位権の行使は、
債務者自らが自分の権利を行使する以前であること
●● 最高裁判例(仮処分申請事件、民集第7巻12号1386頁)
【要旨】
債務者がすでに自ら権利を行使している場合には、その行使の方法または結果
の良いと否とにかかわらず、
債権者は
債権者代位権を行使することはできない。
■ 行使方法・内容
【1】権利行使の名義
代位
債権者は、
債務者の
代理人としての地位ではなく、自己の名で行使可能。また、裁
判外でも行使可能。
●● 最高裁判例(第三者の為にする
契約に基づく振込金事件、民集第33巻2号270頁)
【要旨】
債権者が
債権者代位権に基づきその
債務者に属する
債権を行使する訴訟におい
て、被告である第三
債務者が提出した
抗弁に対し、原告の提出することのでき
る再
抗弁事由は
債務者自身が主張することのできるものに限られ、原告独自の
事情に基づく再
抗弁を提出することはできない。
【2】代位行使の範囲
代位
債権者の有する
債権額に限られる。
【3】第三
債務者の
抗弁
第三
債務者は、
債務者に対して主張できた
抗弁を全て代位
債権者に
抗弁できる。
・代位
債権者が第三
債権者に主張することのできる事由は、
債務者自身が主張できる事
由に限られる。
●● 最高裁判例「売掛代金請求」(民集23巻7号1079頁)
【要旨】
債権者が
債務者に対する金銭
債権に基づいて
債務者の第三
債務者に対して有す
る金銭
債権を代位行使する場合においては、
債権者は自己の
債権額の範囲にお
いてのみ
債務者の
債権を行使しうると解すべきである。
■ 効果
債権者代位権が行使されると、その効果が直接に
債務者に帰属する。(通説)
【1】代位権を行使したとき、
債務者の処分権はどうなるか
債権者代位権の行使が始まった場合に、
債務者の処分権がどうなるかについて
民法は直
接定めていないが、手続法により、
履行期前の裁判上の代位の申請が許可された場合、
裁判所が
債務者に告知し、この告知を受けた
債務者はその権利の処分を行うことは不可
能となる。(非訟事件手続法76条)
●● 最高裁判例「建物明渡等請求」(民集27巻3号596頁)
【要旨】
(ア)
債権者甲が
債務者乙に代位して第三
債務者丙に対し提起した訴訟に、乙が、民訴
法七一条により参加して、丙に対し甲の丙に対する訴と訴訟物を同じくする訴を
提起することは、重複
起訴の禁止にはふれない。
(イ)
債権者甲が
債務者乙に代位して第三
債務者丙に対し提起した訴訟に、乙が、民訴
法七一条により参加して、丙に対し甲の丙に対する訴と訴訟物を同じくする訴を
提起した場合において、甲に代位原因がないときは、乙は丙に対する訴につき訴
訟追行権を失わない。
【理由】
債権者が適法に代位権行使に着手した場合において、
債務者に対しその事実を
通知するかまたは
債務者がこれを了知したときは、
債務者は代位の目的となっ
た権利につき
債権者の代位権行使を妨げるような処分をする権能を失い、した
がつて、右処分行為と目される訴を提起することができなくなる(大審院昭和
一三年(オ)第一九〇一号同一四年五月一六日判決・民集一八巻九号五五七頁
参照)のであつて、この理は、
債務者の訴提起が前記参加による場合であって
も異なるものではない。
【2】代位権行使による判決の効果は
債務者に及ぶか
判例・通説は、代位権の行使による訴訟の結果は、
債務者を含む関係者に及んで法律関
係が確定されなければならないとする。
・民事訴訟法115条1項2号
(確定判決等の効力が及ぶ者の範囲)
第百十五条 確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。
二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人
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行政書士試験 一発合格!
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