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★★★ 新・
行政書士試験 一発合格! Vol. ’06-17 ★★
【レジュメ編】
民法(その10〔1〕)
****************************************
■■■
養子
■■■
相続の法定原則
■■■ 共同
相続(その1)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
■■■
養子
■■ 普通
養子
■ 要件
【1】形式的要件
(1)届出(799条による739条の規定の準用)
【2】実質的要件
(1)主観的要件:縁組意思の合致(802条1号参照)
→原則として届出の時点で縁組意思が存在することが必要。この意思を欠いた縁組は無
効。
●● 最高裁判例「
養子縁組無効確認請求」(民集第25巻7号985頁)
【要旨】
養子縁組の当事者である甲男と乙女との間に、たまたま過去に情交関係があつ
たが、事実上の夫婦然たる生活関係が形成されるには至らなかつた場合におい
て、乙は、甲の姪で、永年甲方に同居してその家事や家業を手伝い、家計をも
とりしきつていた者であり、甲は、すでに高齢に達し、病を得て家業もやめた
のち、乙の世話になつたことへの謝意をもこめて、乙を
養子とすることによ
り、自己の財産を
相続させあわせて死後の供養を託する意思をもつて、縁組の
届出に及んだものであるなど判示の事実関係があるときは、甲乙間に縁組を有
効に成立させるに足りる縁組の意思が存在したものということができる。
★ 成年
養子の場合には、
親権が問題にはならず、
扶養と
相続が主たる目的になるた
め、実質的にこれらを目的とする
養子縁組は有効とすべきであると考えられる。
(十五歳未満の者を
養子とする縁組)
第七百九十七条
養子となる者が十五歳未満であるときは、その
法定代理人が、これ
に代わって、縁組の承諾をすることができる。
2
法定代理人が前項の承諾をするには、
養子となる者の父母でその監護をすべき者で
あるものが他にあるときは、その同意を得なければならない。
●● 最高裁判例「
養子縁組無効確認請求」(民集第6巻9号753頁)
【要旨】他人の子を実子として届け出た者の代諾による
養子縁組も、
養子が満一五年に
達した後これを有効に追認することができる。
【理由】十五歳未満の子の
養子縁組に関する、家に在る父母の代諾は、
法定代理に基づ
くものであり、その
代理権の欠缺した場合は一種の
無権代理と解するを相当と
するのであるから、
民法総則の
無権代理の追認に関する規定、及び前叙
養子縁
組の追認に関する規定の趣旨を類推して、旧
民法八四三条の場合においても、
養子は満十五歳に達した後は、父母にあらざるものの自己のために代諾した養
子縁組を有効に追認することができるものと解するを相当とする。
★ 無効な代諾
養子縁組も、満15歳になった本人の追認で有効な
養子縁組になる(→無
効な身分行為の追認)。
●● 最高裁判例「
養子縁組無効確認請求」(民集第18巻7号1423頁)
【理由】本件
養子縁組の追認のごとき身分行為については、
民法第一一六条(
無権代理
行為の追認)但書の規定は類推適用されないものと解するのが相当である。
★ 本件は、最高裁判例「
養子縁組無効確認請求」(民集第6巻9号753頁)差戻
上告
審判決である。
→ 無効な代諾
養子となった者が追認の
意思表示を行った場合、116条但書は類推適用
されず、その結果、第三者の権利である異母兄弟の権利(
相続の
期待権)は影響を
受けることになる。追認すれば
相続人の数が増え、それに応じて
相続分が減少する
が、追認が身分行為であることから、その効力が認められた。
★ 第797条第2項の意味
離婚の際、
親権者とは別に監護者を定めた場合、
養子縁組の承諾をできるのは
親権者の
みであるが、監護者である父母の同意も必要であると規定されているのは、
養子縁組が
成立すると、監護者は監護権を失うためである(相手方の監護権を失わせるため、再婚
に際して、
親権者が代諾してわざわざ再婚相手との
養子縁組をする濫用行為を防止する
ため)。
●● 最高裁判例「身分関係不存在確認請求」(民集第4巻13号701頁)
【要旨】
養子とする意図で他人の子を
嫡出子として届けても、それによって
養子縁組が
成立することはない。
●● 最高裁判例「
相続回復、
所有権更正
登記手続請求」(民集第29巻4号401頁)
【要旨】
養子とする意図で他人の子を
嫡出子として
出生届をしても、右
出生届をもつて
養子縁組届とみなし、有効に
養子縁組が成立したものとすることはできない。
【理由】
養子縁組届は法定の届出によつて効力を生ずるものであり、
嫡出子出生届をも
つて
養子縁組届とみなすことは許されないと解すべきである。
★ 「藁の上からの
養子」(他人の子を実子として
出生届を行い、育てる子)につい
て、その子の
出生届だけでは、これを
養子縁組届とみなすことはできない。
☆☆ 「藁の上からの
養子」は結構厄介な問題を抱えている。特に、深刻なのは、本人
のみそのことを知らず、周囲の者(特に、
相続関係者)がこのことを知っている
場合である。この場合、
相続が発生し、本人(藁の上からの
養子)が
相続しよう
とすると、利害関係を有する他の
相続人から、実子ではないことを通告され、養
子縁組もなく、
遺言もないとなると、一切の
相続を否定されることになる。こう
した事実上の
養子については、共同
相続人ではないため、
寄与分はなく、
内縁関
係と同様に
相続権も認められない。
(2)客観的要件
(ア)養親となる者の年齢
第七百九十二条 成年に達した者は、
養子をすることができる。
(イ)尊属又は年長者を
養子とすることの禁止
第七百九十三条 尊属又は年長者は、これを
養子とすることができない。
●● 最高裁判例「
養子縁組取消」(民集第32巻5号980頁)
【要旨】
養子夫婦の一方が養親夫婦の一方より年長であることを理由に縁組全部の取消
が請求された場合には、年長の
養子と年少の養親との間の縁組だけを取り消せ
ば足りる。
(ウ)
後見人が被
後見人を
養子とする縁組
第七百九十四条
後見人が被
後見人(
未成年被
後見人及び成年被
後見人をいう。)を
養子とするには、
家庭裁判所の許可を得なければならない。
後見人の任務が終了した
後、まだその管理の計算が終わらない間も、同様とする。
(エ)配偶者のある者が
未成年者を
養子とする縁組
第七百九十五条 配偶者のある者が
未成年者を
養子とするには、配偶者とともにしな
ければならない。ただし、配偶者の
嫡出である子を
養子とする場合又は配偶者がその意
思を表示することができない場合は、この限りでない。
●● 最高裁判例「
養子縁組無効確認請求」(民集第27巻3号500頁)
【要旨】
(ア)夫婦が共同して
養子縁組をするものとして届出がされたところ、その一方に縁組
をする意思がなかつた場合には、原則として、縁組の意思のある他方の配偶者に
ついても縁組は無効であるが、その他方と縁組の相手方との間に単独でも親子関
係を成立させることが
民法七九五条本文の趣旨にもとるものではないと認められ
る特段の事情がある場合には、縁組の意思を欠く当事者の縁組のみを無効とし、
縁組の意思を有する他方の配偶者と相手方との間の縁組は有効に成立したものと
認めることを妨げない。
(イ)甲男乙女夫婦を養親、幼児である丙を
養子として届出のされた
養子縁組につき、
乙に縁組をする意思がなかつた場合であつても、右届出の当時、甲と乙とが別居
しその
婚姻共同生活の実体は少なくとも一〇年間は失われていて事実上の
離婚状
態が形成されていたものであり、甲および丙の
親権者らは、乙とはかかわりなく
甲丙間に縁組をする意思を有し、縁組後は、丙は、甲およびその事実上の妻丁に
養育されて親子として生活をともにしており、甲丙間に親子関係が成立すること
は乙の意思にも反するものではなかつたなど判示の事実関係のもとにおいては、
甲丙間においてのみ縁組を有効とすることを妨げない特段の事情が存在するもの
と認めるのが相当である。
★ 「特段の事情」がある場合には、夫婦の一方と相手方との
養子縁組は有効なものと
して取扱われる。
(オ)配偶者のある者の縁組
第七百九十六条 配偶者のある者が縁組をするには、その配偶者の同意を得なければ
ならない。ただし、配偶者とともに縁組をする場合又は配偶者がその意思を表示するこ
とができない場合は、この限りでない。
→ 養親に配偶者がいる場合と、
養子に配偶者がいる場合がある(夫婦共同縁組)。
(カ)15歳未満の者を
養子とする縁組
第七百九十七条
養子となる者が十五歳未満であるときは、その
法定代理人が、これ
に代わって、縁組の承諾をすることができる。
(キ)
未成年者を
養子とする縁組
第七百九十八条
未成年者を
養子とするには、
家庭裁判所の許可を得なければならな
い。ただし、自己又は配偶者の
直系卑属を
養子とする場合は、この限りでない。
(ク)
養子が
未成年者である場合の無許可縁組の取消し
第八百七条 第七百九十八条の規定に違反した縁組は、
養子、その実方の親族又は
養子
に代わって縁組の承諾をした者から、その取消しを
家庭裁判所に請求することができ
る。ただし、
養子が、成年に達した後六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限
りでない。
■ 効果
(1)
嫡出子の身分の取得
第八百九条
養子は、縁組の日から、養親の
嫡出子の身分を取得する。
(2)縁組による親族関係の発生
第七百二十七条
養子と養親及びその血族との間においては、
養子縁組の日から、血
族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。
→ 縁組前に存在した
養子の血族は、養親とは血族関係には入らない。
(3)実親との関係はなお存続
→
養子は、実親の
相続人になるほか、養親の
相続人にもなる。
→
養子はさらに
養子縁組することもできる(そのままであれば、縁組は解消しないの
で、養親子関係が二重に存在することになる。)。
■ 離縁
(1)協議離縁
第八百十一条 縁組の当事者は、その協議で、離縁をすることができる。
(2)裁判離縁
第八百十四条 縁組の当事者の一方は、次に掲げる場合に限り、離縁の訴えを提起す
ることができる。
一 他の一方から悪意で遺棄されたとき
二 他の一方の生死が三年以上明らかでないとき
三 その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき
2 第七百七十条第二項の規定は、前項第一号及び第二号に掲げる場合について準用す
る。
★
離婚の場合との違いは、「配偶者に不貞な行為があったとき」および「配偶者が強
度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(770条1項1号、4号)がないこと。
(3)離縁の効果
第七百二十九条
養子及びその配偶者並びに
養子の
直系卑属及びその配偶者と養親及び
その血族との親族関係は、離縁によって終了する。
■■ 特別
養子
■ 成立
第八百十七条の二
家庭裁判所は、次条から第八百十七条の七までに定める要件がある
ときは、養親となる者の請求により、実方の血族との親族関係が終了する縁組(以下こ
の款において「特別
養子縁組」という。)を成立させることができる。
→
家庭裁判所の審判で成立する。
■ 要件
(1)養親の夫婦共同縁組
第八百十七条の三 養親となる者は、配偶者のある者でなければならない。
(2)養親となる者の年齢
第八百十七条の四 二十五歳に達しない者は、養親となることができない。ただし、養
親となる夫婦の一方が二十五歳に達していない場合においても、その者が二十歳に達し
ているときは、この限りでない。
(3)
養子となる者の年齢
第八百十七条の五 第八百十七条の二に規定する請求の時に六歳に達している者は、養
子となることができない。ただし、その者が八歳未満であって六歳に達する前から引き
続き養親となる者に監護されている場合は、この限りでない。
(4)父母の同意
第八百十七条の六 特別
養子縁組の成立には、
養子となる者の父母の同意がなければな
らない。ただし、父母がその意思を表示することができない場合又は父母による虐待、
悪意の遺棄その他
養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合は、この限りでな
い。
(5)子の利益のための特別の必要性
第八百十七条の七 特別
養子縁組は、父母による
養子となる者の監護が著しく困難又は
不適当であることその他特別の事情がある場合において、子の利益のため特に必要があ
ると認めるときに、これを成立させるものとする。
(6)監護の状況(試験養育期間)
第八百十七条の八 特別
養子縁組を成立させるには、養親となる者が
養子となる者を六
箇月以上の期間監護した状況を考慮しなければならない。
■ 効果
(1)実方との親族関係の終了
第八百十七条の九
養子と実方の父母及びその血族との親族関係は、特別
養子縁組によ
って終了する。ただし、第八百十七条の三第二項ただし書に規定する他の一方及びその
血族との親族関係については、この限りでない。
■ 離縁
(1)特別
養子縁組の離縁
第八百十七条の十 次の各号のいずれにも該当する場合において、
養子の利益のため特
に必要があると認めるときは、
家庭裁判所は、
養子、実父母又は検察官の請求により、
特別
養子縁組の当事者を離縁させることができる。
一 養親による虐待、
悪意の遺棄その他
養子の利益を著しく害する事由があること
二 実父母が相当の監護をすることができること
2 離縁は、前項の規定による場合のほか、これをすることができない。
→ 養親からの離縁はできない。
養子からの離縁も、監護の必要性がなくなった時点以降
では認められない。
(2)離縁の効果
第八百十七条の十一
養子と実父母及びその血族との間においては、離縁の日から、特別
養子縁組によって終了した親族関係と同一の親族関係を生ずる。
■■■
相続の法定原則
■■
相続の開始要件
■ 被
相続人の死亡
(
相続開始の原因)
第八百八十二条
相続は、死亡によって開始する。
■
期待権
被
相続人の死亡によって
相続人となる地位にいる人は、
相続開始前には
推定相続人と呼ば
れ、その地位は
期待権と呼ばれるが、法的には弱い権利で、
相続人の財産処分を阻止する
こと(
期待権の内容が実現することを、
相続前に確保すること)はできない。
●● 最高裁判例「売買無効確認並びに
所有権取得
登記抹消手続請求」(民集9巻14号
2082頁)
【要旨】
(ア)たとえ被
相続人が所有財産を他に仮装売買したとしても、単にその
推定相続人で
あるというだけでは、右売買の無効(
売買契約より生じた法律関係の不存在)の
確認を求めることはできない。
(イ)単に
推定相続人であるというだけでは、被
相続人の権利を代位行使することはで
きない。
■■
相続人
■
相続人の種類・順位
【1】 血族
(1)被
相続人の子またはその代襲者
(子及びその代襲者等の
相続権)
第八百八十七条 被
相続人の子は、
相続人となる。
2 被
相続人の子が、
相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該
当し、若しくは廃除によって、その
相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲し
て
相続人となる。ただし、被
相続人の
直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、
相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に
該当し、若しくは廃除によって、その
代襲相続権を失った場合について準用する。
(2)
直系尊属
(3)兄弟姉妹またはその代襲者
第八百八十九条 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により
相続人となるべき者が
ない場合には、次に掲げる順序の順位に従って
相続人となる。
一 被
相続人の
直系尊属。ただし、
親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被
相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。
【2】 配偶者
第八百九十条 被
相続人の配偶者は、常に
相続人となる。この場合において、第八百八
十七条又は前条の規定により
相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
■
相続人に関する重要なポイント
【1】 配偶者が常に第一順位の
相続人になること
(
法定相続分)
第九百条 同順位の
相続人が数人あるときは、その
相続分は、次の各号の定めるところ
による。
一 子及び配偶者が
相続人であるときは、子の
相続分及び配偶者の
相続分は、各二分の
一とする。
二 配偶者及び
直系尊属が
相続人であるときは、配偶者の
相続分は、三分の二とし、直
系尊属の
相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が
相続人であるときは、配偶者の
相続分は、四分の三とし、兄
弟姉妹の
相続分は、四分の一とする。
四 子、
直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の
相続分は、相等しいものとす
る。ただし、
嫡出でない子の
相続分は、
嫡出である子の
相続分の二分の一とし、父母の一
方のみを同じくする兄弟姉妹の
相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の
相続分の二
分の一とする。
★★
内縁の配偶者に
相続権は認められるか?
通説・判例は、
相続財産に関して利害関係を持つ第三者の取引の安全を考慮し、
内縁の配
偶者の
相続権を否定している。
⇒ 「Vol. ’06-17
民法(その10)レジュメ編」の「■■■
内縁関係」、「■
内縁関係の
解消」の最高裁判例を参照のこと。
【2】 子・兄弟姉妹には
代襲相続制度があること(887条2項参照)
(1)代襲原因
(ア)被
相続人の子・兄弟姉妹が、
相続開始以前に死亡したとき
(イ)
相続欠格・廃除により
相続権を失ったとき
★
相続放棄は代襲原因とはならない。
(2)
代襲相続しうる者
(ア)子の子(887条2項)
(イ)兄弟姉妹の子(889条2項)
★ 被
相続人に子がいない場合、
直系尊属も
相続人となりうるが、尊属の
相続権は
親等
の順で固有の
相続権が認められており(889条1項但書)、
代襲相続はない。
(3)再
代襲相続(887条3項参照)
★ 兄弟姉妹の子の子には再
代襲相続はない。
【3】 胎児に関する特別のルールがあること
(
相続に関する胎児の権利能力)
第八百八十六条 胎児は、
相続については、既に生まれたものとみなす。
2 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。
→ 同時存在の原則の重要な例外。
【4】 ひとりの人間に
相続人としての資格が重複して生じる場合があること
(1)
養子と
代襲相続の重複
例:Xには子ABがおり、Aには子Yがいる。Xが孫Yを
養子とした後、Aが死亡した。その後
Xが死亡すると、YはAの子として
代襲相続人になると同時に、Xの
養子として
相続人
になる。このとき、Yは2口分の
相続ができるか。
→ 身分関係が重複することを
民法が認めているため、
相続権も重複することも認めら
れる。
(2)
養子と配偶者
相続の重複
例:Aには子X、Bがおり、Xには配偶者Yがいた。AがYを
養子とした場合、Yは、X死亡の
とき(Aは既に死亡しているものとする)、配偶者であると同時に養兄弟姉妹とい
う関係になる。Yは二重の資格で
相続することができるか。
→
民法上排斥しあう関係にはない資格であるから、2口分の
相続を認めてよい(学説
は分かれており、戸籍先例は配偶者としての
相続資格しか認めない。)。
(3)Hには配偶者Wと、Wとの間にできた子Aがいたが、
婚姻外に子Bをもうけ、これを
認知したうえ
養子とした。H死亡のとき、BはHの
非嫡出子であると同時に
嫡出子たる養
子である。二重の資格で
相続できるか。
→
嫡出子と
非嫡出子とは
民法上両立する資格ではないから、身分関係の重複がない。
この場合は、
養子(
嫡出子)としてのみ
相続できると考えるべきである。
■
相続資格の喪失
【1】
相続開始前の
相続人資格剥奪
(1)
相続欠格:
推定相続人が、被
相続人の財産を
相続するのが正義に反すると感じら
れるような行為を行った場合に当然に
相続資格を失う制度
第八百九十一条 次に掲げる者は、
相続人となることができない。
一 故意に被
相続人又は
相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至
らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被
相続人の殺害されたことを知って、これを
告発せず、又は
告訴しなかった者。
ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは
直系血族
であったときは、この限りでない。
三
詐欺又は
強迫によって、被
相続人が
相続に関する
遺言をし、撤回し、取り消し、
又は変更することを妨げた者
四
詐欺又は
強迫によって、被
相続人に
相続に関する
遺言をさせ、撤回させ、取り消
させ、又は変更させた者
五
相続に関する被
相続人の
遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
●● 最高裁判例「
遺言無効確認」(民集第35巻3号431頁)
【要旨】
相続に関する被
相続人の
遺言書又はこれについてされている訂正が方式を欠き
無効である場合に、
相続人が右方式を具備させて有効な
遺言書又はその訂正と
しての外形を作出する行為は、
民法八九一条五号にいう
遺言書の偽造又は変造
にあたるが、それが
遺言者の意思を実現させるためにその法形式を整える趣旨
でされたにすぎないものであるときは、右
相続人は同号所定の
相続欠格者にあ
たらない。
●● 最高裁判例「
相続権不存在確認等、
所有権移転
登記抹消
登記手続」(民集第51
巻1号184頁)
【要旨】
相続人が
相続に関する被
相続人の
遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相
続人の右行為が
相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、
右
相続人は、
民法八九一条五号所定の
相続欠格者に当たらない。
(2)廃除:
相続欠格のように当然に
相続資格を剥奪するほどの事由ではないが、被相
続人が
相続させたくないと感じるような非行が
推定相続人にあった場合には、被
相続人は、
家庭裁判所の審判または
調停によって、当該
推定相続人の
相続権を奪
うことができる。
第八百九十二条
遺留分を有する
推定相続人(
相続が開始した場合に
相続人となるべき
者をいう。以下同じ。)が、被
相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を
加えたとき、又は
推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被
相続人は、その
推定
相続人の廃除を
家庭裁判所に請求することができる。
★
遺言による廃除もできる(893条)。また、被
相続人は、いつでも、
推定相続人の
廃除の取消しを
家庭裁判所に請求することができる(894条1項)。
【2】
相続開始後の
相続資格の放棄
(1)
相続放棄:
相続そのものの拒否
(ア)放棄の手続
・
家庭裁判所に申述することによってなす(938条)。
・放棄の申述は自己のために
相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内にな
さなければならない(915条)。⇒「熟慮期間」という。
・熟慮期間の起算点の特例:再転
相続(916条)、
相続人が
未成年者または成年被後
見人の場合(917条)
・熟慮期間中の
相続財産管理→
相続人は選択権を行使するまで、その固有財産における
同一の注意を持って管理しなければならない(918条1項)。
(イ)
相続放棄の効果
第九百三十九条
相続の放棄をした者は、その
相続に関しては、初めから
相続人となら
なかったものとみなす。
→放棄した者を除く他の共同
相続人が
相続することとなる。
・
代襲相続はできない(887条2項)。
●● 最高裁判例「第三者異議」(民集21巻1号16頁)
【要旨】
相続人は、
相続の放棄をした場合には
相続開始時に遡って
相続開始がなかった
と同じ地位に立ち、当該
相続放棄の効力は、
登記等の有無を問わず、何人に対
してもその効力を生ずべきものと解すべきであって、
相続の放棄をした
相続人
の
債権者が、
相続の放棄後に、
相続財産たる未
登記の不動産について、右
相続
人も共同
相続したものとして、代位による
所有権保存
登記をしたうえ、持分に
対する仮差押
登記を経由しても、その仮差押
登記は無効である。
【理由】
民法九三九条一項(昭和三七年法律第四〇号による改正前のもの)「放棄は、
相続開始の時に遡ってその効果を生ずる。」の規定は、
相続放棄者に対する関
係では、右改正後の現行規定「
相続の放棄をした者は、その
相続に関しては、
初から
相続人とならなかつたものとみなす。」と同趣旨と解すべきであり、同
条所定期間内に
家庭裁判所に放棄の申述をすると、
相続人は
相続開始時に遡っ
て
相続権がなかったと同じ地位におかれることとなり、この効力は絶対的で、
何に対しても、
登記等なくしてその効力を生ずると解すべきである。
・
相続放棄は撤回することができない。
(
相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
第九百十九条
相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回する
ことができない。
2 前項の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により
相続の承認又は放
棄の取消しをすることを妨げない。
3 前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時
効によって消滅する。
相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とす
る。
4 第二項の規定により
限定承認又は
相続の放棄の取消しをしようとする者は、その
旨を
家庭裁判所に申述しなければならない。
(2)
限定承認:
相続財産がトータルでマイナスになる可能性がある場合に、
相続財産
限りで
債務を清算し、なおプラスがあれば承継すること
第九百二十二条
相続人は、
相続によって得た財産の限度においてのみ被
相続人の
債務
及び
遺贈を
弁済すべきことを留保して、
相続の承認をすることができる。
★
相続人は、
限定承認をすると、物的に有限責任を負うことになるが、
相続財産から
全額の
弁済を受けられなかった
相続債権者に対して、自己の固有財産(
相続財産と
は別に既に所有している財産)から任意に
弁済することはできる。この場合には、
有効な
弁済として取扱われ、非債
弁済にはならない。
★
限定承認が行われても、被
相続人の
債務のために設定されていた
担保物権や保証は
影響を受けない。
(共同
相続人の
限定承認)
第九百二十三条
相続人が数人あるときは、
限定承認は、共同
相続人の全員が共同し
てのみこれをすることができる。
(
限定承認の方式)
第九百二十四条
相続人は、
限定承認をしようとするときは、第九百十五条第一項の
期間内に、
相続財産の目録を作成して
家庭裁判所に提出し、
限定承認をする旨を申述し
なければならない。
(
限定承認をしたときの権利義務)
第九百二十五条
相続人が
限定承認をしたときは、その被
相続人に対して有した権利
義務は、消滅しなかったものとみなす。
→
限定承認による
相続財産の清算は、
相続人の財産とは区別し、独立して行われるの
で、
相続人が被
相続人に対して有していた権利義務は、混同によって消滅しない。
●● 最高裁判例「請求異議」(民集第52巻1号38頁)
【要旨】不動産の
死因贈与の受贈者が贈与者の
相続人である場合において、
限定承認が
されたときは、
死因贈与に基づく
限定承認者への
所有権移転
登記が
相続債権者
による差押
登記よりも先にされたとしても、信義則に照らし、
限定承認者は相
続
債権者に対して不動産の
所有権取得を対抗することができない。
(3)単純承認:原則どおり
相続財産を包括的に承継すること
第九百二十条
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被
相続人の権利義務を承継
する。
(ア)法定単純承認
第九百二十一条 次に掲げる場合には、
相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一
相続人が
相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第
六百二条 に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二
相続人が第九百十五条第一項の期間内に
限定承認又は
相続の放棄をしなかったと
き。
三
相続人が、
限定承認又は
相続の放棄をした後であっても、
相続財産の全部若しく
は一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを
相続財産の目録中に記載しなか
ったとき。ただし、その
相続人が
相続の放棄をしたことによって
相続人となった者が相
続の承認をした後は、この限りでない。
■■
相続の対象(
相続財産)
■
相続の対象となるもの
(
相続の一般的効力)
第八百九十六条
相続人は、
相続開始の時から、被
相続人の財産に属した一切の権利義
務を承継する。ただし、被
相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
■
物権
所有権や一般の制限
物権(用益
物権・
担保物権)は
相続の対象となる。
占有権も通説・
判例上、
相続の対象と認められている。
●● 最高裁判例「田地
所有権確認等請求」(第23巻10号1881頁)
【要旨】土地を占有していた被
相続人が死亡し
相続が開始した場合には、特別の事情の
ないかぎり、被
相続人の右土地に対する占有は
相続人によって
相続される。
【理由】被
相続人の事実的支配の中にあつた物は、原則として、当然に、
相続人の支配
の中に承継されるとみるべきであるから、その結果として、
占有権も承継さ
れ、被
相続人が死亡して
相続が開始するときは、特別の事情のないかぎり、従
前その占有に属したものは、当然
相続人の占有に移ると解すべきである。
★★ 占有の
相続と
取得時効の関係
187条1項が
相続のような包括承継にも適用されるかどうか。
第百八十七条 占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は
自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。
●● 最高裁判例「土地
所有権確認等請求」(民集16巻5号1073頁)
【要旨】
民法第一八七条第一項は
相続による承継にも適用がある。
【理由】
民法一八七条一項は・・(省略)・・
相続の如き包括承継の場合にも適用せら
れ、
相続人は必ずしも被
相続人の占有についての善意悪意の地位をそのまま承
継するものではなく、その選択に従い自己の占有のみを主張し又は被
相続人の
占有に自己の占有を併せて主張することができるものと解するを相当とする。
■
債権
(1)
損害賠償請求権
不法行為や
債務不
履行に基づく
損害賠償請求権も
相続されるのが原則である。
★★ 生命侵害による
損害賠償請求権
(ア) 産的損害に関する被害者の
逸失利益の
損害賠償請求権は常に
相続される(通説・
判例)。
(イ)
慰謝料請求権の
相続について、判例は当然
相続説を
採用したが、学説では
相続否
定説が優勢である。
●● 最高裁判例「慰藉料請求」(民集21巻9号2249頁)
【要旨】
不法行為による慰藉料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなくて
も、
相続の対象となる。
【理由】ある者が他人の故意過失によって財産以外の損害を被った場合には、その者
は、財産上の損害を被った場合と同様、損害の発生と同時にその賠償を請求す
る権利すなわち慰藉料請求権を取得し、右請求権を放棄したものと解しうる特
別の事情がないかぎり、これを行使することができ、その損害の賠償を請求す
る意思を表明するなど格別の行為をすることを必要とするものではない。そし
て、当該被害者が死亡したときは、その
相続人は当然に慰藉料請求権を
相続す
るものと解するのが相当である。
(2)
扶養請求権
一般的には一身専属の権利と解され、
相続の対象とならないが、協議・審判で確定した
扶養料
債権が遅滞に陥ったまま
債権者が死亡したときは
相続される。
(3)
財産分与請求権
財産分与請求権自体の
相続は肯定される。
財産分与義務についても
相続される。
■
債務
(1)
身元保証
「
身元保証に関する法律」により
保証人の保護措置が
採用された。判例も、
身元保証契
約の
相続性を否定した。
● 第一条
引受、保証其ノ他名称ノ如何ヲ問ハズ期間ヲ定メズシテ被用者ノ行為ニ因
リ
使用者ノ受ケタル損害ヲ賠償スルコトヲ約スル
身元保証契約ハ其ノ成立ノ日ヨリ三年
間其ノ効力ヲ有ス。但シ商工業見習者ノ
身元保証契約ニ付テハ之ヲ五年トス。
● 第二条
身元保証契約ノ期間ハ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ若シ之ヨリ長キ期間ヲ定メ
タルトキハ其ノ期間ハ之ヲ五年ニ短縮ス。
(2) 信用保証
●● 最高裁判例「売掛代金残請求」(民集16巻11号2270頁)
【要旨】継続的売買取引について将来負担することあるべき
債務についてした責任の限
度額ならびに期間の定めのない
連帯保証契約における
保証人たる地位は、特段
の事由のないかぎり、当事者その人と終始するものであつて、
保証人の死亡後
生じた
債務については、その
相続人においてこれが保証
債務を負担するもので
はない。
【理由】継続的取引について将来負担することあるべき
債務についてした責任の限度額
ならびに期間について定めのない
連帯保証契約においては、特定の
債務につい
てした通常の
連帯保証の場合と異なり、その責任の及ぶ範囲が極めて広汎とな
り、一に
契約締結の当事者の人的信用関係を基礎とするものであるから、かか
る
保証人たる地位は、特段の事由のないかぎり、当事者その人と終始するもの
であつて、
連帯保証人の死亡後生じた主
債務については、その
相続人において
これが保証
債務を承継負担するものではないと解するを相当とする。
→ 限度額または期間に制限があれば、
相続性は肯定されることになると解される。
■
契約上の地位・団体構成員の地位
(1)
借家権:
相続される(ただし、公営住宅法に基づく賃借権は対象外)。
(2) 団体構成員の地位
組合員・社員の地位は
相続人には承継されない。
株式会社の
株主の地位や
合資会社の有
限責任社員の地位は譲渡性があり、
相続もされると解されている。
(3)
無権代理と
相続
(ア)
無権代理人の本人
相続
●● 最高裁判例「
賃金」(民集47巻1号265頁)
【要旨】
無権代理人が本人を共同
相続した場合には、共同
相続人全員が共同して無権代
理行為を追認しない限り、
無権代理人の
相続分に相当する部分においても、無
権
代理行為が当然に有効となるものではない。
【理由】
無権代理人が本人を他の
相続人と共に共同
相続した場合において、
無権代理行
為を追認する権利は、その性質上
相続人全員に不可分的に帰属するところ、無
権
代理行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった
法律行為を本人に
対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるか
ら、共同
相続人全員が共同してこれを行使しない限り、
無権代理行為が有効と
なるものではないと解すべきである。そうすると、他の共同
相続人全員が無権
代理行為の追認をしている場合に
無権代理人が追認を拒絶することは信義則上
許されないとしても、他の共同
相続人全員の追認がない限り、
無権代理行為
は、
無権代理人の
相続分に相当する部分においても、当然に有効となるもので
はない。
●● 最高裁判例「
根抵当権設定
登記抹消
登記手続請求本訴、同反訴」(民集52巻5
号1296頁)
【要旨】本人が
無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後
無権代理人が本人を相
続したとしても、
無権代理行為が有効になるものではない。
【理由】
無権代理人がした行為は、本人がその追認をしなければ本人に対してその効力
を生ぜず(
民法一一三条一項)、本人が追認を拒絶すれば
無権代理行為の効力
が本人に及ばないことが確定し、追認拒絶の後は本人であっても追認によって
無権代理行為を有効とすることができず、右追認拒絶の後に
無権代理人が本人
を
相続したとしても、右追認拒絶の効果に何ら影響を及ぼすものではないから
である。
(イ)本人の
無権代理人
相続
●● 最高裁判例「土地引渡
所有権移転
登記手続等請求」(民集16巻4号955頁)
【要旨】本人が
無権代理人の家督を
相続した場合、被
相続人の
無権代理行為は、右
相続
により当然には有効となるものではない。
【理由】
無権代理人が本人を
相続した場合においては、自らした
無権代理行為につき本
人の資格において追認を拒絶する余地を認めるのは信義則に反するから、右無
権
代理行為は
相続と共に当然有効となると解するのが相当であるけれども、本
人が
無権代理人を
相続した場合は、これと同様に論ずることはできない。後者
の場合においては、
相続人たる本人那被
相続人の
無権代理行為の追認を拒絶し
ても、何ら信義に反するところはないから、被
相続人の
無権代理行為は一般に
本人の
相続により当然有効となるものではないと解するのが相当である。
●● 最高裁判例「貸金請求」(民集27巻7号751頁)
【要旨】
無権代理人を
相続した本人は、
無権代理人が
民法一一七条により相手方に
債務
を負担していたときには、
無権代理行為について追認を拒絶できる地位にあつ
たことを理由として、右
債務を免れることができない。
【理由】
民法一一七条による
無権代理人の
債務が
相続の対象となることは明らかであつ
て、このことは本人が
無権代理人を
相続した場合でも異ならないから、本人は
相続により
無権代理人の右
債務を承継するのであり、本人として
無権代理行為
の追認を拒絶できる地位にあつたからといつて右
債務を免れることはできない
と解すべきである。
■ 被
相続人の死亡によって生ずる権利で被
相続人に属さないもの
(1) 生命保険金請求権
相続開始時に被
相続人に帰属していた財産ではないから、
相続財産ではない。
(2) 傷害保険
相続財産として
遺産分割の対象となることはなく、他に
相続人がいても
遺留分減殺請求
を受けたり、
遺産分割で
特別受益とされることもない。
(3)
死亡退職金・
遺族給付
受取人を定める規定を解釈し、
民法の
相続人とは範囲・順位が異なって定められている
場合には、
相続財産にはならず遺族固有の受給権があるとしている。
(4)
香典・
弔慰金
慣習上、喪主あるいは遺族への贈与であって、
相続財産とはならないと解されている。
■■
相続分
第八百九十九条 各共同
相続人は、その
相続分に応じて被
相続人の権利義務を承継す
る。
●● 最高裁判例「
損害賠償請求」(民集第8巻4号819頁)
【要旨】
相続人数人ある場合において、
相続財産中に金銭の他の可分
債権あるときは、
その
債権は法律上当然分割され、各共同
相続人がその
相続分に応じて権利を承
継するものと解すべきである。
■
法定相続分
相続分について被
相続人が何ら意思を表明していなかった場合→900条参照。
(1) 子と配偶者が
相続人であるとき:子と配偶者の
相続分は各2分の1。子が複数
いる場合は2分の1を人数分で等分に分ける。
非嫡出子の
相続分は
嫡出子の相
続分の2分の1。
●● 最高裁判例「
遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告」(民集第
49巻7号1789頁)
【理由】本件規定の立法理由は、法律上の配偶者との間に出生した
嫡出子の立場を尊重
するとともに、他方、被
相続人の子である
非嫡出子の立場にも配慮して、非嫡
出子に
嫡出子の二分の一の
法定相続分を認めることにより、
非嫡出子を保護し
ようとしたものであり、法律婚の尊重と
非嫡出子の保護の調整を図ったものと
解される。これを言い換えれば、
民法が法律婚主義を
採用している以上、法定
相続分は
婚姻関係にある配偶者とその子を優遇してこれを定めるが、他方、非
嫡出子にも一定の
法定相続分を認めてその保護を図ったものであると解される。
現行
民法は法律婚主義を
採用しているのであるから、右のような本件規定の立
法理由にも合理的な根拠があるというべきであり、本件規定が
非嫡出子の法定
相続分を
嫡出子の二分の一としたことが、右立法理由との関連において著しく
不合理であり、立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものとい
うことはできないのであって、本件規定は、合理的理由のない差別とはいえ
ず、憲法一四条一項に反するものとはいえない。
(2)配偶者と
直系尊属が
相続人であるとき:配偶者の
相続分は3分の2、
直系尊属の
相続分は3分の1。複数の尊属間の割合は相等しいものとする。
直系尊属のみが
相続人のときは
相続財産を均等に分ける。
(3)配偶者と兄弟姉妹が
相続人であるとき:配偶者の
相続分は4分の3、兄弟姉妹の
相続分は4分の1。複数の兄弟姉妹間の割合は相等しいものとする。
半血の兄弟姉妹の
相続分は全血の兄弟姉妹の
相続分の2分の1。兄弟姉妹の子に
は
代襲相続がある。
■ 指定
相続分
被
相続人が
遺言で共同
相続人の
相続分を定め、またはこれを定めることを第三者に委託
すること。
(
遺言による
相続分の指定)
第九百二条 被
相続人は、前二条の規定にかかわらず、
遺言で、共同
相続人の
相続分
を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被
相続人又
は第三者は、
遺留分に関する規定に違反することができない。
2 被
相続人が、共同
相続人中の一人若しくは数人の
相続分のみを定め、又はこれを第
三者に定めさせたときは、他の共同
相続人の
相続分は、前二条の規定により定める。
(1)共同
相続人の一部についてのみ
相続分を指定した場合:他の共同
相続人の
相続分
は
法定相続分の規定によって定める。
(2)包括
遺贈の場合:
相続人に対する包括
遺贈は実質は
相続分の指定と考えられる。
また、
相続人以外の者に対する包括
遺贈がなされたときも、
相続人と同視され、
相続分の指定が為されたのと同じ結果となる。
(
包括受遺者の権利義務)
第九百九十条
包括受遺者は、
相続人と同一の権利義務を有する。
(3)
遺留分との関係:
遺留分を侵害する
相続分指定がなされると、
遺留分を侵害さ
れた
相続には
遺留分の減殺請求ができる(902条1項但書)。
■
特別受益がある場合
第九百三条 共同
相続人中に、被
相続人から、
遺贈を受け、又は
婚姻若しくは
養子縁
組のため若しくは生計の
資本として贈与を受けた者があるときは、被
相続人が
相続開始
の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを
相続財産とみなし、前
三条の規定により
算定した
相続分の中からその
遺贈又は贈与の価額を控除した残額をも
ってその者の
相続分とする。
→ 生前贈与や
遺贈(
特別受益)を受けた
相続人(
特別受益者)がいる場合に、
相続人
間の公平のために
相続分
算定の際にこれを考慮する制度。
【1】
相続人への
特定遺贈
(1)夫Hが死亡して、
相続人として妻Wと子ABCがいる。遺産は1200万円で、Hは
遺言を残してAに150万円の絵を
遺贈していた場合、
相続財産はどのように分割
すべきか。
→ Aについては、通常であれば1200×1/2×1/3=200万円となるが、150
万円の
遺贈を控除して、200-150=50万円を
相続することになる。
(2)
法定相続分額を超える
遺贈
上記例で、HがAに
遺贈した絵が300万円であった場合、
相続財産はどのように分割す
べきか。
903条2項
遺贈又は贈与の価額が、
相続分の価額に等しく、又はこれを超えると
きは、受遺者又は受贈者は、その
相続分を受けることができない。
よって、W:1200×1/2=600万、BおよびC:1200×1/2×1/3=200万円、
A:1200×1/2×1/3―300=▲100万円となるが、Aは300万円の
遺贈分だけを確
保して、100万円を吐き出す必要はない。
しかし、このままでは共同
相続人それぞれの具体的
相続分額に
遺贈を加えた金額は1300
万円となり、100万円不足する。
→ 具体的
相続分率は各
相続人の具体的
相続分額を計算上の遺産総額(600+200+200
+0)である1000万円で割って、W:600/1000=3/5、BおよびC:200/1000
=1/5、A:0となる。この割合で、実施に分配可能な財産額を分けることと
なり、W:900×3/5=540万円、BおよびC:900×1/5=180万円、A:0円
(絵画のみ)となる。
【2】
相続人への生前贈与
「
婚姻、
養子縁組のため若しくは生計の
資本として」なされた生前贈与も
特別受益とな
る。したがって、ある程度以上の高額な贈与は原則として全て対象となる。
(1)贈与の持戻し
生前贈与による
特別受益があると、まず被
相続人が
相続開始の時において有した財産の
総額にその贈与の価額を加えたものを
相続財産とみなし(みなし
相続財産)、この
相続
財産の価額に各
相続人の
法定相続分を乗じ、
遺贈の場合と同様に、生前贈与を受けた相
続人については、その算出された額から生前贈与の額を差し引いて具体的
相続分額を導
く。
【例】夫Hが死亡して、
相続人として妻Wと子ABCがいる。遺産は1200万円で、Hは
生前Aに600万円を贈与していた。
相続財産はどのように分割すべきか。
(ア)まず生前贈与の持戻しをする。1200+600=1800万円(みなし
相続財産)
(イ)W、B、Cについては、このみなし
相続財産に各人の
相続分を乗じる。
W:1800×1/2=900万円、BおよびC:1800×1/2×1/3=300万円
(ウ)Aについては、生前贈与の分を差し引く。
A:1800×1/2×1/3-600=▲300万円。
遺贈の場合と同様、マイナス分を
吐き出す必要はないから、具体的
相続分は0になる。
(エ)次に、(イ)(ウ)で算出された額から、各人の具体的
相続分率を割り出す。
W:900/1500=3/5、BおよびC:300/1500=1/5、A=0
(オ)これを分配可能な遺産総額に掛けて、最終的に
相続される金額を導く。
W:1200×3/5=720万円、BおよびC:1200×1/5=240万円、A:0(生
前贈与はそのまま)
【3】
特別受益の評価
第九百四条 前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である
財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、
相続開始の時において
なお原状のままであるものとみなしてこれを定める。
評価の基準時は、
相続開始時(通説・判例)
●● 最高裁判例「
遺留分減殺請求」(民集第30巻2号111頁)
【要旨】
相続人が被
相続人から贈与された金銭をいわゆる
特別受益として
遺留分算定の
基礎となる財産の価額に加える場合には、贈与の時の金額を
相続開始の時の貨
幣価値に換算した価額をもつて評価すべきである。
【4】持戻しの免除
生前贈与を考慮せずに、または
遺贈を除外した残りの財産だけを対象に、受贈者・受遺
者を含む共同
相続人が
法定相続分に従った分配を行うようにすることも可能。ただし、
このような被
相続人の意思も
遺留分制度による制約には服する。
903条3項 被
相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表
示は、
遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。
■
寄与分がある場合
第九百四条の二 共同
相続人中に、被
相続人の事業に関する
労務の提供又は財産上の
給付、被
相続人の療養看護その他の方法により被
相続人の財産の維持又は増加について
特別の寄与をした者があるときは、被
相続人が
相続開始の時において有した財産の価額
から共同
相続人の協議で定めたその者の
寄与分を控除したものを
相続財産とみなし、第
九百条から第九百二条までの規定により
算定した
相続分に
寄与分を加えた額をもってそ
の者の
相続分とする。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、
家庭裁判所
は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、
相続財産
の額その他一切の事情を考慮して、
寄与分を定める。
3
寄与分は、被
相続人が
相続開始の時において有した財産の価額から
遺贈の価額を
控除した残額を超えることができない。
4 第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十
条に規定する場合にすることができる。
【1】
寄与分確定の手続
まずは、共同
相続人の協議でこれを定め、協議が調わずまたはできないときは、家庭裁
判所が審判で定める。
【2】計算例
【例】夫Hが死亡して、
相続人として妻Wと子ABCがいる。遺産は1200万円で、Aの
寄与分が300万円と評価されたとする。具体的
相続分額はどのようになるか。
まず、遺産の額1200万円から
寄与分300万円を引いた900万円がみなし
相続財産となる。
これに
法定相続分を適用すると、W:900×1/2=450万円、BおよびC:
900×1/2×1/3=150万円となる。Aについては、これに
寄与分を加算するから、
900×1/2×1/3+300=450万円となる。
【例】夫Hが死亡して、
相続人として妻Wと子ABCがいる。遺産は1100万円であるが、
Hは生前Bに200万円の贈与をしており(
相続開始時で300万円と評価される)、
Cに100万円の
遺贈をしていた。Aの
寄与分が200万円と評価されたとする。具体
的
相続分額はどのようになるか。
相続開始時の遺産の額は1100万円であるが、これに
特別受益としてBへの贈与300万円
が持ち戻され(計1400万円)、そこから
寄与分を引いた1200万円がみなし
相続財産とな
る。
具体的
相続分率は、W:1200×1/2=600万円、A:1200×1/2×1/3+200=400
万円、B:1200×/2×1/3-300=▲100万円(0円)、C:1200×/2×1/3-100
=100万円。
具体的
相続分率は、W:600/1100=6/11、A:400/1100=4/11、B:0、
C:100/1100=1/11。分割される額は、1100-100=1000万円であるから、最終的に
は、W:1000×6/11万円、A:1000×4/11万円、B:生前贈与200万円のみ、
C:1000×1/11+
遺贈100万円となる。
■■■ 共同
相続(その1)
■■ 共同
相続財産
■ 遺産共有の法的性質
遺産は
相続開始と同時に
相続人に帰属し、共同
相続人間の一種の共同所有となる。
→ 共同
相続人は個々の
相続財産の上に
物権法上の共有持分を有し、
債権債務も分割さ
れる。
(共同
相続の効力)
第八百九十八条
相続人が数人あるときは、
相続財産は、その共有に属する。
【1】
物権
(1)不動産上の持分が処分された場合
【例】Aの
相続人BCDは、A所有の甲不動産を3分の1ずつの
相続分で共同
相続し
た。そこでBは自らの持分を
登記し、これをEに譲渡した。Eは共有持分を取
得できるか。
登記実務上は、Bは単独で全員のために共同
相続登記ができるので、Bは自らの持分を
登記し、Eに譲渡して移転
登記することもできる。
→ この後に
遺産分割がなされ、甲不動産が結局Cに帰属することになったとすると、
遺産分割の遡及効によりはじめからCが
相続し、Bは甲に持分を有していなかった
ことになり、Eは無権利者からの譲受人となる。しかし、909条但書によって、
遺産分割の遡及効に妨げられることなくEは有効に権利を取得できる。
(遺産の分割の効力)
第九百九条 遺産の分割は、
相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、
第三者の権利を害することはできない。
●● 最高裁判例「
登記抹消
登記手続請求」(民集17巻1号235頁)
【要旨】
(ア)甲乙両名が共同
相続した不動産につき乙が勝手に単独
所有権取得の
登記をし、さ
らに第三取得者丙が乙から移転
登記をうけた場合、甲は丙に対し自己の持分を登
記なくして対抗できる。
(イ)右の場合、甲が乙丙に対し請求できるのは、甲の持分についてのみの一部抹消
(更正)
登記手続であつて、各
登記の全部抹消を求めることは許されない。
●● 平成17年12月15日「土地
所有権移転
登記抹消
登記手続請求事件」
【要旨】A名義の不動産につきB,Yが順次
相続したことを原因として直接Yに対して
所有権移転
登記がされている場合に,Aの共同
相続人であるXは,Yが上記不
動産につき共有持分権を有しているとしても,上記
登記の全部抹消を求めるこ
とができる。
(2)持分処分後の分割請求
【例】上記(1)例で、Bの処分が有効となると、甲不動産はC、D、Eの共有になる
が、Eが
物権法の共有持分権者として不動産の分割を請求した(256条1項)場合
に認められるか。
→ 甲不動産を3等分する「現物分割」か、公売して売却金を分ける「代価分割」
(258条)。
ただし、その他柔軟な分割方法を認める判例もある。
●● 最高裁判例「持分権確認並びに共有物分割」(民集50巻9号2563頁)
【要旨】
民法二五八条により共有物の分割をする場合において、当該共有物を共有者の
うちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適
正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者には
その持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと
認められる特段の事情があるときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有
又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償さ
せる方法(いわゆる全面的価格賠償の方法)によることも許される。
(3)
遺産分割前の
相続財産は一部の持分が第三者に譲渡されると
物権法上の共有と同
じになるか。
●● 最高裁判例「共有物分割請求」(民集29巻10号1525頁)
【要旨】共同
相続人の一部から遺産を構成する特定不動産の共有持分権を譲り受けた第
三者が当該共有関係の解消のためにとるべき裁判手続は、
遺産分割審判ではな
く、共有物分割訴訟である。
【理由】けだし、共同
相続人の一人が特定不動産について有する共有持分権を第三者に
譲渡した場合、当該譲渡部分は
遺産分割の対象から逸出するものと解すべきで
あるから、第三者がその譲り受けた持分権に基づいてする分割手続を
遺産分割
審判としなければならないものではない。
(4)
相続と
登記
自分が不動産上に
相続による共有持分を有することを第三者に対抗するにはどうすれば
よいか。
→ 前掲最高裁判例「
登記抹消
登記手続請求」(民集17巻1号235頁)を参照。
【2】
債権
可分
債権は、427条により分割
債権となり、不可分
債権は428条により処理される。
(分割
債権及び分割
債務)
第四百二十七条 数人の
債権者又は
債務者がある場合において、別段の
意思表示がな
いときは、各
債権者又は各
債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負
う。
(不可分
債権)
第四百二十八条
債権の目的がその性質上又は当事者の
意思表示によって不可分であ
る場合において、数人の
債権者があるときは、各
債権者はすべての
債権者のために
履行
を請求し、
債務者はすべての
債権者のために各
債権者に対して
履行をすることができる。
【3】
債務
(1)
不可分債務:
遺産分割においては対象となる財産と
債務を分割から除外し、依
然として共同
相続人に不可分に帰属するという扱いが適当と考えられる。
(2) 金銭
債務:
債権と同様に、
相続分の割合で
相続人の間で分割される。
債務の相
続に関しては指定
相続分は
債権者に対抗できない。
(3)連帯
債務の扱い
●● 最高裁判例「貸金請求」(民集13巻6号757頁)
【要旨】連帯
債務者の一人が死亡し、その
相続人が数人ある場合に、
相続人らは、被相
続人の
債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来
の
債務者とともに連帯
債務者となると解すべきである。
■
相続分の譲渡と取戻し
共同
相続人の一人は、
遺産分割前に自分の
相続分をまとめて譲渡することができる。
→ 一方的な
意思表示によって譲渡された
相続分を取り戻す権利が認められている。
第九百五条 共同
相続人の一人が遺産の分割前にその
相続分を第三者に譲り渡したと
きは、他の共同
相続人は、その価額及び
費用を償還して、その
相続分を譲り受けること
ができる。
2 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。
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行政書士 太田誠 東京都
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