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【レジュメ編】 行政法(その9〔1〕)

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     ★★★ 新・行政書士試験 一発合格! Vol. ’06-29 ★★
           【レジュメ編】 行政法(その9〔1〕)

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■■■ 行政事件訴訟法 ■■■
■■■ 総則
■■■ 取消訴訟(その1)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

■■■ 行政事件訴訟法 ■■■
■■■ 総則
■ 法律の趣旨
第一条 行政事件訴訟については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この
法律の定めるところによる。

・行政事件訴訟法が、行政事件に関する基本法になる(民事訴訟法ではない。)
・訴訟を扱うので、裁判所の関与できるものでなければならない。

〔裁判所法〕
第三条(裁判所の権限)裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法
律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。

●● 最高裁判例「国家試験合格変更又は損害賠償請求」(民集第20巻2号196
   頁)
【理由】
司法権の固有の内容として裁判所が審判しうる対象は、裁判所法三条にいう「法律上の
争訟」に限られ、いわゆる法律上の争訟とは、「法令を適用することによつて解決し得
べき権利義務に関する当事者間の紛争をいう」ものと解される

●● 最高裁判例「建築工事続行禁止請求事件」(民集第56巻6号1134頁)
【理由】
国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利
利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たるというべきであるが、
国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求め
る訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の
権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから、法律上の争訟として
当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、
提起することが許されるものと解される。

●● 最高裁判例「最高裁判所規則取消」(民集第45巻4号518頁)
【要旨】
福岡地方裁判所及び福岡家庭裁判所の各甘木支部を廃止する旨を定めた最高裁判所規則
について、右支部の管轄区域内に居住する者が、具体的な紛争を離れ、抽象的に右規則
の憲法違反を主張してその取消しを求める訴訟は、裁判所法三条一項にいう法律上の争
訟に当たらない。

■ 行政事件訴訟
第二条 この法律において「行政事件訴訟」とは、抗告訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟及
び機関訴訟をいう。

(1)主観訴訟:国民の個人的な権利利益の保護を目的とする行政訴訟(抗告訴訟と当
   事者訴訟)
→ 「法律上の争訟」なので、憲法上、当然に保障される。
(2)客観訴訟:客観的な法秩序の維持のために、国民の個人的な権利利益とは無関係
   に、行政作用の適法性確保のために認められた行政訴訟
→ 「法律上の争訟」ではないので、憲法上必ずしも保障されるものではない(立法政
  策の問題)。

■ 抗告訴訟(1)
第三条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴
訟をいう。

(1)行政庁:国または公共団体の意思を決定し、これを外部に表示する権限を有する
   行政機関(例:各省の大臣、市町村長、補助機関、諮問機関、参与機関)
→ ただし、行政事件訴訟法では、「行政庁」は、必ずしも国や公共団体に限定されな
  い。

●● 昭和57. 3.30 仙台地裁「優生保護法指定医の指定取消処分取消等請求事件」
【理由】
行政事件訴訟法三条二項にいう「行政庁」とは、国又は公共団体から公権力の行使の権
限を与えられている機関をいい、そのような権限を法律によつて付与されている限り、
国又は公共団体の機関に限らず、私法人であつても「行政庁」たりうると解すべきであ
る。医師会が、公権力の行使たる指定を行なう権限を法によつて授権されていること
(優生保護法によれば、都道府県の区域を単位として設立された社団法人たる医師会
は、法所定の人工妊娠中絶を行ないうる医師を指定する権限を有する。)は、前記説示
のとおりであるから、医師会は、指定に関する限りにおいて、行政庁とみるべきもので
ある。
★ 処分性のある作用を行う者であれば、私人であっても、その限りでは「行政庁」に
  該当する。

●● 最高裁判例「航空機発着差止等」(民集第47巻2号643頁)
【理由】
自衛隊機の運航に関する防衛庁長官の権限の行使は、その運航に必然的に伴う騒音等に
ついて周辺住民の受忍を義務づけるものといわなければならない。そうすると、右権限
の行使は、右騒音等により影響を受ける周辺住民との関係において、公権力の行使に当
たる行為というべきである。

(2)無名抗告訴
告訴訟は、取消訴訟、無効等確認訴訟、不作為の違法確認訴訟、義務付け訴訟、差止
訴訟に限定されず、それ以外の抗告訴訟(無名抗告訴訟)も認められる。

■ 抗告訴訟(2)
第三条2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力
の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分
」という。)の取消しを求める訴訟をいう。

3 この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求異議申立てその他の不
服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為
(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。

審査請求、裁決:行政不服審査法上の審査請求、裁決とは定義が異なるので、要注
 意。
・処分により形成された法律関係を処分前の状態に復旧させる形成訴訟(通説)

(1)処分性(行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為)がなければ、取消訴訟
   の対象にはならない。

行政手続法
「処分」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう(2条2号)。

●● 最高裁判例「ごみ焼場設置条例無効確認等請求」(民集第18巻8号1809
   頁)
【理由】
行政庁の処分とは、所論のごとく行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するもので
はなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直
接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの
をいう。

●● 平成17年10月25日 第三小法廷判決「勧告取消請求事件」(民集)
【理由】
(病院開設に際して、医療法に基づく都道府県知事の勧告(行政指導)に従わない場
合、健康保険法に基づき、保険医療機関の指定を拒否することができるという取扱いが
されていた。)上記の医療法及び健康保険法の規定の内容やその運用の実情に照らす
と、・・いわゆる国民皆保険制度が採用されている我が国においては、健康保険、国民
健康保険等を利用しないで病院を受診する者はほとんどなく、保険医療機関の指定を受
けずに診療行為を行う病院がほとんど存在しないことは公知の事実であるから、削減を
勧告された病床を除いてしか保険医療機関の指定を受けることができない場合には、実
際上当該病床を設けることができない不利益を受けることになる。このような医療法に
基づく勧告の保険医療機関の指定に及ぼす効果及び病院経営における保険医療機関の指
定の持つ意義を併せ考えると、この勧告は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の
処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。
★ 行政手続法では、行政指導に処分性はないが、行政事件訴訟法では、行政指導その
  他行政行為としての性質を持たないものであっても、その内容や実情から「処分
  性」があると判断される場合がある(新しい傾向)。

(2)公権力の行使
(ア)認められたケース
●● 最高裁判例「供託金取戻請求の却下処分取消請求」(民集第24巻7号771
   頁)
【理由】
実定法(供託法)が存するかぎりにおいては、供託官が供託物取戻請求を理由がない
と認めて却下した行為は行政処分である。

(イ)認められなかったケース
●● 最高裁判例「ごみ焼場設置条例無効確認等請求」(民集第18巻8号1809
   頁)
【理由】
本件ごみ焼却場は、被上告人都がさきに私人から買収した都所有の土地の上に、私人と
の間に対等の立場に立つて締結した私法上の契約により設置されたものであるというの
であり、原判決が被上告人都において本件ごみ焼却場の設置を計画し、その計画案を都
議会に提出した行為は被上告人都自身の内部的手続行為に止まると解するのが相当であ
る。

(3)通知
(ア)認められたケース
●● 最高裁判例「食品衛生法違反処分取消請求事件」(民集第58巻4号989頁)
【要旨】
食品衛生法(平成15年法律第55号による改正前のもの)16条に基づき検疫所長が
同条所定の食品等の輸入の届出をした者に対して行う当該食品等が同法に違反する旨の
通知は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。
★ 通知は準法律行為的行政行為(他に、確認、公証、受理)でしかないが、「本件通
  知は、(食品衛生法上の)法的効力を有するものであって、取消訴訟の対象となる
  と解するのが相当である」と判示された。

(イ)認められなかったケース
●● 最高裁判例「採用内定取消処分取消等」(民集第36巻5号777頁)
【要旨】
地方公務員である職員としての採用内定の通知がされた場合において、職員の採用は内
規によつて辞令を交付することにより行うこととされ、右採用内定の通知は法令上の根
拠に基づくものではないなど、判示の事実関係があるときは、右採用内定の通知は事実
上の行為にすぎず、右内定の取消しは、抗告訴訟の対象となる処分にあたらない。
★ 表示行為に過ぎない場合には、法的関係に変動が生じないので、処分性は否定され
  る。

(4)規範定立行為
●● 最高裁判例「道路判定処分無効確認請求事件」(民集第56巻1号1頁)
【要旨】
告示により一定の条件に合致する道を一括して指定する方法でされた建築基準法42条
2項所定のいわゆるみなし道路の指定は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。
【理由】
特定行政庁による(建築基準法に基づく)2項道路の指定は、それが一括指定の方法で
された場合であっても、個別の土地についてその本来的な効果として具体的な私権制限
を発生させるものであり、個人の権利義務に対して直接影響を与えるものということが
できる。 したがって、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解すべきである。
★ 指定(通知)ではあるが、特定の関係者に一定の法的効果を生じさせるので、処分
  性が認められた。

(5)内部行為
●● 最高裁判例「法律解釈指定通達取消請求」(民集第22巻13号3147頁)
【要旨】
昭和三五年三月八日付都道府県等衛生主管部局長あて厚生省公衆衛生局環境衛生部長通
知は、宗教団体の経営する墓地の管理者は埋葬等を請求する者が他の宗教団体の信者で
あることのみを理由としてその請求を拒むことはできないからこの趣旨にそつて事務処
理をすべき旨を求めた行政組織内部における命令にすぎず、従来の法律の解釈、事務の
取扱を変更するものではあるが、墓地の管理者らにあらたに埋葬の受忍義務を課する等
これらの者の権利義務に直接具体的な法律上の影響を及ぼすものではなく、墓地の経営
者からその取消を求める訴を提起することは許されない。
★ 行政機関内部の行為は、国民との関係では法的効果が発生しないので、処分性は一
  般に否定される。

(6)中間段階の行為
中間段階の行政行為の処分性は、国民に対する直接・具体的な法的効果を生じさせるか
どうかで判断される。

(ア)土地区画整理事業
●● 最高裁判例「区画整理事業設計等無効確認請求」(民集第20巻2号271頁)
【理由】
事業計画そのものとしては、特定個人に向けられた具体的な処分ではなく、いわば当該
土地区画整理事業の青写真たるにすぎない一般的・抽象的な単なる計画にとどまるもの
であつて、土地区画整理事業の進展に伴い、やがては利害関係者の権利に直接変動を与
える具体的な処分が行なわれることがあるとか、また、計画の決定ないし公告がなされ
たままで、相当の期間放置されることがあるとしても、右事業計画の決定ないし公告の
段階で、その取消又は無効確認を求める訴えの提起を許さなければ、利害関係者の権利
保護に欠けるところがあるとはいい難く、そのような訴えは、抗告訴訟を中心とするわ
が国の行政訴訟制度のもとにおいては、争訟の成熟性ないし具体的事件性を欠くものと
いわなければならない。

●● 最高裁判例「仮換地指定処分無効確認」(民集第39巻8号1821頁)
【理由】
土地区画整理法による土地区画整理組合の設立の認可は、単に設立認可申請に係る組合
の事業計画を確定させる(法二〇条、二一条三項)だけのものではなく、その組合の事
業施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者をすべて強制的にその組合員
とする公法上の法人たる土地区画整理組合を成立せしめ(法二一条四項、二二条、二五
条一項)、これに土地区画整理事業を施行する権限を付与する効力を有するものである
(法三条二項、一四条二項)から、抗告訴訟の対象となる行政処分であると解するのが
相当である。

(イ)都市計画・都市再開発
●● 最高裁判例「盛岡広域都市計画用途地域指定無効確認」(民集第36巻4号705頁)
【理由】
都市計画区域内において工業地域を指定する決定は、当該地域内の不特定多数の者に対
する一般的抽象的なそれにすぎず、このような効果を生ずるということだけから直ちに
右地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があつたものとして、これに対す
る抗告訴訟を肯定することはできない。

●● 最高裁判例「大阪都市計画事業等事業計画決定取消」(民集第46巻8号2658頁)
【理由】
公告された再開発事業計画の決定は、施行地区内の土地の所有者等の法的地位に直接的
な影響を及ぼすものであって、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相
当である。

(7)申請への応答
行政庁に対する申請が認められている場合には、処分性は認められるが、行政庁の事実
上の応答に過ぎない場合には、処分性は認められない。

●● 最高裁判例「判定取消請求」(民集第15巻3号595頁)
【要旨】
地方公務員法第四六条に基づく措置要求の申立に対する人事委員会の判定は、取消訴訟
の対象となる行政処分にあたる。

●● 最高裁判例「不作為の違法確認等請求」(民集第26巻9号1573頁)
【理由】
独占禁止法二五条にいう被害者に該当するからといつて、審決を求める特段の権利・利
益を保障されたものと解することはできない。これを要するに、被上告人(公正取引委
員会)は、独占禁止法四五条一項に基づく報告、措置要求に対して応答義務を負うもの
ではなく、また、これを不問に付したからといつて、被害者の具体的権利・利益を侵害
するものとはいえないのである。したがつて、上告人がした報告、措置要求についての
不問に付する決定は取消訴訟の対象となる行政処分に該当せず、その不存在確認を求め
る訴えを不適法とした原審の判断は、正当である。
★ 行政庁に対して諾否の応答を求める権利がない場合、職権を発動しないという決定
  に処分性はない。

■ 抗告訴訟(3)
第三条4 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又は
その効力の有無の確認を求める訴訟をいう。

(1)無効等確認訴訟:法定された訴訟類型
→ 取消訴訟を経由しないで、行政処分の効力を否定するためのもの
→ 取消訴訟と異なり、出訴期間の制限や不服申立前置主義が適用されない。

・公定力:行政処分は、違法であっても、当然には無効にはならず、権限ある行政庁に
 より取消されるまでは、原則として有効なものとして扱われる。

(2)取消訴訟の排他的管轄:行政処分の効力を裁判で争うには、民事訴訟では認めら
   れず、取消訴訟で争わなければならない。また、出訴期間の制約もある。
→ 取消訴訟の対象になる行為は、権限のある行政庁が職権で取消したり、不服申立て
  により取消される場合を除き、取消訴訟で取消されるまでは、当事者訴訟や民事訴
  訟では有効なものとして取扱われる。

(3)無効等確認訴訟の補充性:処分や裁決が無効であることを前提とする当事者訴訟
   や民事訴訟を提起すれば、足りる。

■ 抗告訴訟(4)
第三条5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく
申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これ
をしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。

・原告が勝訴しても、判決は、行政庁の不作為が違法であることが判示されるのみであ
 り、不作為の違法確定判決は、敗訴した行政庁に対して、どのような応答をすべきか
 までは拘束しない。
→ 行政庁が、満足の得られる応答をしない可能性があり、その場合には、改めて取消
  訴訟を提起しなければならない。

・「法令に基づく申請」:法律、法律に基づく命令(告示を含む。)、条例及び地方公
 共団体の執行機関の規則(規程を含む。)(行政手続法2条1号と同じ)
・「相当の期間」:その処分をするに通常必要とする期間。特段の事情があれば、これ
 を経過することも容認される。なお、「標準処理期間」(行政手続法6条)とは、必
 ずしも一致しない。

■ 抗告訴訟(5)
第三条6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政
庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。 
一 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げ
る場合を除く。)
二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がさ
れた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれが
されないとき
☆ この義務付け訴訟は、平成16年改正で導入された。

(1)非申請型義務付け訴訟(1号の場合)
原告に申請権があることを前提としない場合(例:周辺住民が、原子力発電所の安全性
確保のため、必要な命令を出すように行政庁に求める場合)
→ 裁決の場合は対象外(裁判所は、行政庁に対して、一定の裁決をすべきことを命じ
  ることはできないため)

(2)申請型義務付け訴訟(2号の場合)
行政庁に申請した者が原告となる場合

■ 抗告訴訟(6)
第三条7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をす
べきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又
は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。
☆ この差止訴訟は、平成16年改正で導入された。

●● 最高裁判例「勤務評定実施要領等の義務不存在確認請求(民集第26巻9号1746頁)
【要旨】
長野県教育委員会教育長の通達により同通達の定める勤務評定書(いわゆる長野方式)
に自己観察の結果を表示することを命ぜられた教職員が、その表示義務の不履行に対し
懲戒その他の不利益処分を受けるのを防止するために、あらかじめ右義務を負わない
ことの確認を求める訴は、不利益処分を受けたのちこれに関する訴訟において義務の存
否を争うことによつては回復しがたい重大な損害を被るおそれがあるなど、事前の救済
を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がないかぎり、訴の利益を欠き不適法
である。
★ 差止め訴訟の対象は、行政庁の公権力の行使にあたる処分・裁決である。

■ 当事者訴訟
第四条 この法律において「当事者訴訟」とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成
する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告
とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関す
る訴訟をいう。

(1)当事者訴訟:実体法上の権利義務関係のうち、公法上の法律関係について、小寺
   社が直接に争うもの。
(2)形式的当事者訴訟
・「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定
 によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの」をいう。
→ 法令に特別の定めがある場合に限り認められる。
・例:土地収用委員会の権利取得裁決について、土地所有者と起業者(土地の収用・使
 用をする者)が争う場合(補償額を決定した収用委員会に対してではなく、直接当事
 者が争う場合。土地所有者は起業者に対して増額を、また、起業者は土地所有者に対
 して減額について争うことになる。)
(3)実質的当事者訴訟
・「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」を
 いう。
・例:公務員等の地位確認、国籍の確認、法令・行政処分の無効を前提とする公法上の
 法律関係の確認訴訟
→ 国家賠償請求訴訟は、民事訴訟として扱われる。

●● 最高裁判例「国籍確認」(民集第51巻9号3925頁)
【理由】
戸籍の記載上嫡出の推定がされない場合には、胎児認知という手続を執ることにより、
子が生来的に日本国籍を取得するみちが開かれているのに、右推定がされる場合には、
胎児認知という手続を適法に執ることができないため、子が生来的に日本国籍を取得す
るみちがないとすると、同じく外国人の母の嫡出でない子でありながら、戸籍の記載い
かんにより、子が生来的に日本国籍を取得するみちに著しい差があることになるが、こ
のような著しい差異を生ずるような解釈をすることに合理性があるとはいい難い。した
がって、できる限り右両者に同等のみちが開かれるように、同法二条一号の規定を合理
的に解釈適用するのが相当である。
★ 国に対する日本国籍の確認の訴えは適法とされた。

●● 最高裁判例「在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件」(民集第59巻7号2087
   頁)
【要旨】
国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民が、次回の衆
議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における
選挙区選出議員の選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票
をすることができる地位にあることの確認を求める訴えは、公法上の法律関係に関する
確認の訴えとして適法である。
【理由】
選挙権は、これを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず、侵害
を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のもの
であるから、その権利の重要性にかんがみると、具体的な選挙につき選挙権を行使する
権利の有無につき争いがある場合にこれを有することの確認を求める訴えについては、
それが有効適切な手段であると認められる限り、確認の利益を肯定すべきものである。
そして、本件の予備的確認請求に係る訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴えと
して、上記の内容に照らし、確認の利益を肯定することができるものに当たるというべ
きである。なお、この訴えが法律上の争訟に当たることは論をまたない。

■ 民衆訴訟
第五条 この法律において「民衆訴訟」とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しな
い行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらな
い資格で提起するものをいう。

・原告の個人的な権利利益の救済ではなく、行政事件訴訟法活動の客観的な適正性を確
 保するための訴訟(客観訴訟)
・例:選挙の効力に関する訴訟(公職選挙法)、住民訴訟(地方自治法)

■ 機関訴訟
第六条  この法律において「機関訴訟」とは、国又は公共団体の機関相互間における
権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟をいう。

・行政機関相互間の争いは、当事者の権利義務に係る争いではないため、法律上の争訟
 ではない。
・例:地方公共団体の長と議会の紛争(地方自治法)

●● 最高裁判例「建築工事続行禁止請求事件」(民第56巻6号1134頁集)
【理由】
国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利
利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たるというべきであるが、
国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求め
る訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の
権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから、法律上の争訟として
当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、
提起することが許されるものと解される。
★ 国・地方公共団体間の訴訟は、自己の権利利益の保護救済を目的とする場合には主
  観訴訟になり、そうではない場合には、法律に特別の規定がある場合に限り、機関
  訴訟になる。

■ この法律に定めがない事項
第七条 行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例に
よる。

・行政事件訴訟法は、行政事件に関する一般法である。
・「民事訴訟の例による」:民事訴訟法、民事訴訟の費用に関する法律、民事訴訟規則
 等を直接的に適用するのではなく、行政事件訴訟としての性質等を踏まえて、民事訴
 訟に関するこれらの規定が準用される。


■■■ 取消訴訟(その1)
■■ 訴訟要件・審理
■ 処分の取消しの訴えと審査請求との関係
第八条 処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすること
ができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。ただし、法律に当該処分に
ついての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起すること
ができない旨の定めがあるときは、この限りでない。
2 前項ただし書の場合においても、次の各号の一に該当するときは、裁決を経ない
で、処分の取消しの訴えを提起することができる。
一 審査請求があつた日から三箇月を経過しても裁決がないとき。
二 処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要
があるとき。
三 その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき。
3 第一項本文の場合において、当該処分につき審査請求がされているときは、裁判所
は、その審査請求に対する裁決があるまで(審査請求があつた日から三箇月を経過して
も裁決がないときは、その期間を経過するまで)、訴訟手続を中止することができる。

(1) 原則:自由選択主義(1項本文)
・行政処分に不服がある者は、審査請求等の行政上の不服申立てをすることもできる
 し、不服申立てをすることなく直ちに裁判所に訴訟を提起することもできる(自由選
 択主義)。
・行政事件訴訟法上の「審査請求」には、審査請求、異議申立その他の不服申立てを含
 み(3条3項)、不服申立て全般を意味している。
★ 「裁決の取消しの訴え」は対象外である。
(2) 例外:不服申立(審査請求)前置主義
・自由選択主義が原則であるが、法律に処分について審査請求に対する裁決を経た後で
 なければ取消訴訟を提起できない旨の規定がある場合には、例外的に審査請求を先に
 経なければならない(不服申立(審査請求)前置主義)。
★ 不服申立(審査請求)前置主義は「法律」で定める必要がある(「法令」や条例に
  よることは不可)。なお、不服申立(審査請求)では主張しなかった違法事由を、
  取消訴訟で主張することも可能(前置のみが求められている。)。
(ア)大量に行われる処分であって、裁決により行政の統一を図る必要があるもの
   (国税通則法115条等)
(イ)専門技術的性質を有する処分
(ウ)裁決が第三者的機関によってなされるもの
審査請求の「前置」とは、適法な審査請求を経ることであり、審査請求が却下された
 場合にはこの要件が充足されたとは言えない。
審査請求前置主義が採られる場合には、行政庁はその旨を処分の相手方に教示する義
 務がある(46条1項3号)。
(エ)裁決が却下である場合には、不服申立(審査請求)前置主義の要件を充たしたこ
   とにはならない。

●● 最高裁判例「労働者災害補償認定および裁決取消請求」(民集第9巻1号60
   頁)
【要旨】
保険給付に関する決定および保険審査官のした審査決定についての、労働者災害補償保
険審査会に対する審査請求が不適法として却下された場合は、右却下決定が正当である
以上、右保険給付に関する決定および保険審査官の決定の取消を求める訴は不適法であ
る。

●● 最高裁判例「懲戒処分取消請求」(民集第28巻5号897頁)
【要旨】
国家公務員法八九条一項所定の処分を受けた現業国家公務員は、直ちに右処分に対する
取消訴訟を提起することができるが、右訴訟において不当労働行為該当の瑕疵以外の瑕
疵を争うについては、審査請求に対する人事院の裁決を経由することを要する。

●● 最高裁判例「所得税更正処分取消請求」(民集15巻7号1966頁)
【要旨】
所得金額更正に関する審査請求の却下決定があつた場合でも、右却下が違法である場合
には、右更正処分の取消を求める訴は審査の決定を経たものとして適法である。
【理由】
本訴の上告人の請求は更正処分の取消であるから同法五一条により原則として再調査決
定、審査決定を経なければ提起できないのであるが、国税庁長官又は国税局長が誤つて
これを不適法として却下した場合には本来行政庁は処分について再審理の機会が与えら
れていたのであるから、却下の決定であつてもこれを前記規定にいう審査の決定にあた
ると解すべきことは原判示のとおりである。

(3) 審査請求前置主義の例外(2項)
(ア) 審査請求があつた日から3ヶ月を経過しても裁決がないとき。

●● 最高裁判例「休業補償給付等不支給処分取消」(民集第49巻7号1833頁)
【要旨】
労働者災害補償保険法による保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償
保険審査官に対して審査請求をした日から三箇月を経過しても決定がないときは、審査
請求に対する決定及び労働保険審査会に対する再審査請求の手続を経ないで、処分の取
消しの訴えを提起することができる。
★ 再審査請求を経ることが取消訴訟を提起する要件になっている場合でも、この「審
  査請求」には再審査請求も含まれる。

(イ)処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必
   要があるとき。

・執行停止の申し立てをするには、処分に対する取消訴訟が裁判所に係属していること
 が必要(25条)。
→ 処分について審査請求前置主義が採られている場合であっても、裁決を経ることな
  く執行停止の申し立てをすることを可能とするため設けられた規定。
→ 「著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」という要件は、執行停止の要件
  としての「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」(25条2項)よりも
  緩やかに設定されなければならない。

(ウ) その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき

●● 最高裁判例「法人税更正処分取消」(民集第38巻8号1029頁)
【理由】
右の更正処分と通知処分とは、その基礎となつた事実関係が共通であるとしても、後者
は前者の処分に付随する処分であると解することのできないものであり、右両者に対す
る納税者の不服の事由が同一であつて前者の処分について適法に不服申立手続が採られ
ているからといつて、後者の処分に対する不服申立の前置を不要と解することはでき
ず、また、同処分に対する不服申立を経ないことにつき国税通則法一一五条一項三号に
いう正当な理由があると解することも相当でない。

(4) 訴訟手続の中断(3項)
・「第一項本文の場合において」:自由選択主義が取られている場合。
・取消訴訟と審査請求が同時並行的に進行する事態において、争訟経済の観点から一
 定の調整を図る趣旨。
・ 訴訟が中断している間に棄却裁決があった場合には、あらためて訴訟が再開される
  ことになる。認容裁決がなされた場合には、訴えの利益がなくなって訴訟は却下さ
  れるのが通常である。

(5) 課題
・行政事件訴訟法上では、自由選択主義が原則であるが、個別法レベルでは審査請求
 置主義が採用されていることが多く、実態としては原則と例外が逆転している。

■ 原告適格
第九条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)
は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決
の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取
消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することがで
きる。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の
有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみに
よることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の
内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考
慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び
目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処
分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内
容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

(1)2項新設の意味
・2項は平成16年改正により、原告適格の実質的拡大を企図して新設された。
・原告適格:ある者が法律上の利益を有すると認められた場合、出訴の資格を有する者
 として原告適格があるという。
・「処分又は裁決の相手方以外の者」:「処分又は裁決の相手方」は、直接に権利を侵
 害されたり、義務を課されるので、原告適格を有することは明らかであるため、規定
 されていない。

●● 最高裁判例「新潟-小松-ソウル間の定期航空運送事業免許処分取消(新潟空港
   事件)」(第43巻2号56頁)
【理由】
新たに付与された定期航空運送事業免許に係る路線の使用飛行場の周辺に居住してい
て、当該免許に係る事業が行われる結果、当該飛行場を使用する各種航空機の騒音の程
度、当該飛行場の一日の離着陸回数、離着陸の時間帯等からして、当該免許に係る路線
を航行する航空機の騒音によつて社会通念上著しい障害を受けることとなる者は、当該
免許の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原
告適格を有すると解するのが相当である。
★ 航空法のほか、公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する
  法律、特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法の趣旨及び目的も考慮しなければな
  らない。

●● 最高裁判例「原子炉設置許可処分無効確認等(もんじゅ訴訟)」(第46巻6号
   571頁)
【理由】
行政事件訴訟法九条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条にいう当該処分
の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利
若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をい
うのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公
益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれ
を保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上
保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそ
れのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである
(略)。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人
の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣
旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等
を考慮して判断すべきである。

・9条2項は、義務付け訴訟、差止訴訟の原告適格にも準用される(37条の2第4項
 、37条の4第4項)。

(2)原告適格の意義
・原告適格の判断にあたっては対立があるが、判例は一貫して、法律の文言を基準とし
 て、あくまでも法律の解釈として原告適格の有無を判断する立場を採っている。
・処分の名宛人自身が自己に対する不利益処分の取消訴訟を提起する場合には、通常、
 原告適格は肯定され、その上で裁判によって救済される利益があるかどうかという
 「訴えの利益」の存否が主要な問題として意識される。

●● 最高裁判例「所得税更正決定処分取消」(民集第35巻3号672頁)
【理由】
減額再更正がされた場合、右再更正処分は、それにより減少した税額に係る部分につい
てのみ法的効果を及ぼすものであり(国税通則法二九条二項)、それによつて、税額の
一部取消という納税者に有利な効果をもたらす処分と解するのを相当とする。そうする
と、納税者は、右の再更正処分に対してその救済を求める訴の利益はない。
★ 自己に有利な処分の取消しを求める訴えの利益は否定される。

(3)競業者訴訟
・AとBとが営業上競争関係にあり、Aに対する利益がBに対する不利益となるというよう
 に、両者に極めて密接な関係が認められる場合、Aに対する利益処分をBが訴訟で争う
 こと。
・競願関係:ある利益処分をめぐって、A、BおよびCなど複数の申請が競合し、そのう
 ち一人(A)に対して利益処分がなされると、それ以外の他者(BないしC)にとって
 は自己の申請が拒否されることが必然的となる場合の関係。→BおよびCは、自己に対
 する拒否処分を待ってその取消訴訟を提起することができるだけでなく、Aに対する
 利益処分がなされた時点で、当該利益処分について取消訴訟を提起することができ
 る。

●● 最高裁判例「テレビジョン放送局の開設に関する予備免許処分・同免許申請棄却
   処分並びに異議申立棄却決定取消請求(東京12チャンネル事件)」(民集第
   22巻13号3254頁)
【要旨】
甲および乙が競願関係にある場合において、甲の免許申請が拒否され、乙に免許が付与
されたときは、甲は、乙に対する免許処分の取消訴訟を提起することができるほか、自
己に対する拒否処分のみの取消訴訟を提起することができる。

●● 最高裁判例「権利変換処分取消」(民集第47巻10号5530頁)
【要旨】
第一種市街地再開発事業の施行地区内の宅地の所有者は、その宅地上の借地権者に対す
る権利変換に関する処分につき、右借地権の不存在を主張して取消訴訟を提起すること
ができる。
【理由】
施行地区内の宅地の所有者が当該宅地上の借地権の存在を争っている場合に、右借地権
が存在することを前提として当該宅地の所有者及び借地権者に対してされる権利変換に
関する処分については、借地権者に対してされた処分が当該借地権が存在しないものと
して取り消された場合には、施行者は、宅地の所有者に対する処分についても、これを
取り消した上、改めてその上に借地権が存在しないことを前提とする処分をすべき関係
にある(行政事件訴訟法三三条一項)。その意味で、この場合の借地権者に対する権利
変換に関する処分は、宅地の所有者の権利に対しても影響を及ぼすものといわなければ
ならない。そうすると、宅地の所有者は、自己に対する処分の取消しを訴求するほか、
借地権者に対する処分の取消しをも訴求する原告適格を有するものと解するのが相当で
ある。

(4)反射的利益論
・住民、消費者、一般利用者等が原告となって提起される紛争群:現代型の新しい紛争
 形態

●● 最高裁判例「審決取消(主婦連ジュース事件)」(民集第32巻2号211頁)
【要旨】
一 不当景品類及び不当表示防止法一〇条六項にいう「第一項の規定による公正取引委
員会の処分について不服があるもの」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上
保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。
二 不当景品類及び不当表示防止法の規定にいう一般消費者であるというだけでは、公
正取引委員会による公正競争規約の認定に対し同法一〇条六項の規定に基づく不服申立
をする法律上の利益を有するとはいえない。
【理由】
景表法の規定により一般消費者が受ける利益は、公正取引委員会による同法の適正な運
用によつて実現されるべき公益の保護を通じ国民一般が共通してもつにいたる抽象的、
平均的、一般的な利益、換言すれば、同法の規定の目的である公益の保護の結果として
生ずる反射的な利益ないし事実上の利益であつて、本来私人等権利主体の個人的な利益
を保護することを目的とする法規により保障される法律上保護された利益とはいえない
ものである。もとより、一般消費者といつても、個々の消費者を離れて存在するもので
はないが、景表法上かかる個々の消費者の利益は、同法の規定が目的とする公益の保護
を通じその結果として保護されるべきもの、換言すれば、公益に完全に包摂されるよう
な性質のものにすぎないと解すべきである。

(5) 9条2項の読み方
・原告適格の有無を判断するには、(ア)処分を根拠付ける法令の規定の文言を見る
 が、それだけではなく、(イ)法令の趣旨・目的、考慮されるべき利益の内容・性質
 を考慮して行わなければならない。
・この法令の趣旨・目的を考慮する場合には、「目的を共通にする関係法令」があると
 きはその趣旨・目的を参酌するものとし、利益の内容を考慮するにあたっては、法令
 違反があった場合に害されることとなる利益の内容・性質、害される態様・程度を勘
 案するものとしている。

●● 最高裁判例「開発許可処分取消」(民集第51巻1号250頁)
【要旨】
開発区域内の土地が都市計画法(平成四年法律第八二号による改正前のもの)三三条一
項七号にいうがけ崩れのおそれが多い土地等に当たる場合には、がけ崩れ等により生
命、身体等に直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発
許可の取消訴訟の原告適格を有する。

●● 最高裁判例「風俗営業許可処分取消」(民集第52巻9号1821頁)
【要旨】
風俗営業等の規則及び業務の適正化等に関する法律施行令六条一号イの定める基準に従
って規定された都道府県の条例所定の風俗営業制限地域に居住する者は、同地域内にお
ける風俗営業許可処分の取消しを求める原告適格を有しない。

●● 最高裁判例「林地開発行為許可処分取消請求事件」(民集第55巻2号283
   頁)
【要旨】
土砂の流出又は崩壊、水害等の災害により生命、身体等に直接的な被害を受けることが
予想される範囲の地域に居住する者は、森林法(平成11年法律第87号による改正前
のもの)10条の2による開発許可の取消訴訟の原告適格を有する。

●● 最高裁判例「建築基準法に基づく許可処分取消、建築確認処分取消請求事件」
   (民集第56巻1号46頁)
【要旨】
建築基準法(平成4年法律第82号による改正前のもの)59条の2第1項に基づくい
わゆる総合設計許可に係る建築物の倒壊、炎上等により直接的な被害を受けることが予
想される範囲の地域に存する建築物に居住し又はこれを所有する者は、同許可の取消訴
訟の原告適格を有する。

●● 最高裁判例「建築基準法第59条の2第1項による許可処分等取消請求事件」
   (民集第56巻3号613頁)
【要旨】
建築基準法(平成4年法律第82号による改正前のもの)59条の2第1項に基づくい
わゆる総合設計許可に係る建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する
者は、同許可の取消訴訟の原告適格を有する。
【理由】
以上のような同項(建築基準法59条の2第1項)の趣旨・目的、同項が総合設計許可
を通して保護しようとしている利益の内容・性質等にかんがみれば、同項は、上記許可
に係る建築物の建築が市街地の環境の整備改善に資するようにするとともに、当該建築
物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する者の健康を個々人の個別的利益
としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。

(6) 9条2項の限界
・原告適格の認定が柔軟化していても、基本的な枠組みが変わったわけではなく、処分
 により影響を受ける者の範囲が不特定であったり、被侵害利益が生命・身体の安全に
 関わらない場合は、原告適格は否定されている。

●● 最高裁判例「住居表示議決無効確認等請求」(民集第27巻1号1頁)
【要旨】
町名変更にかかる区域内の住民は、単に住民であるというだけでは、当該町名変更の決
定および右変更に関する告示の取消を求める訴の利益を有せず、町名変更によりその通
費用の支出等の失費を余儀なくされる場合においても、同様である。

(7) 訴えの利益
・ 訴えの利益:実際にその人が裁判で勝訴することで救済される利益
・処分・裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処
 分・裁決の取消によって回復すべき法律上の利益を有する場合には、訴えの利益があ
 るものとされる。

●● 最高裁判例「皇居外苑使用不許可処分取消等請求」(民集第7巻13号1561
   頁)
【要旨】
昭和二七年五月一日のメーデーのための皇居外苑使用不許可処分の取消を求める訴は、
右期日の経過により判決を求める法律上の利益を喪失する。

●● 最高裁判例「免職取消請求」(民集第19巻3号721頁)
【要旨】
免職された公務員が、免職処分の取消訴訟係属中に公職の候補者として届出をしたた
め、法律上その職を辞したしたものとみなされるにいたつた場合においても、行政事件
訴訟法第九条のもとでは、当該訴の利益を認めるのが相当である。

●● 最高裁判例「自動車運転免許取消処分の取消請求」(民集第19巻6号1393
   頁)
【要旨】
動車等運転免許の取消処分の取消を求める訴訟の継続中、当該運転免許証の有効期間が
経過した場合でも、その訴は利益を失われない。

●● 最高裁判例「生活保護法による保護に関する不服の申立に対する裁決取消請求
   (朝日訴訟)」(民集第21巻5号1043頁)
【要旨】
生活保護法の規定に基づき要保護者または被保護者が国から生活保護を受けるのは、単
なる国の恩恵ないし社会政策の実施に伴う反射的利益ではなく、法的権利であつて、保
護受給権とも称すべきものと解すべきである。しかし、この権利は、被保護者自身の最
低限度の生活を維持するために当該個人に与えられた一身専属の権利であつて、他にこ
れを譲渡し得ないし(五九条参照)、相続の対象ともなり得ないというべきである。

●● 最高裁判例「懲戒免職処分取消請求」(民集第28巻10号1868頁)
【要旨】
免職された公務員が免職処分の取消訴訟の係属中に死亡した場合には、その取消判決に
よつて回復される当該公務員の給料請求権等を相続する者が右訴訟を承継する。
【理由】
原告である当該公務員が訴訟係属中に死亡したとしても、免職処分の取消しによつて回
復される右給料請求権等が一身専属的な権利ではなく、相続の対象となりうる性質のも
のである以上、その訴訟は、原告の死亡により訴訟追行の必要が絶対的に消滅したもの
として当然終了するものではなく、相続人において引き続きこれを追行することができ
るものと解すべきである。

●● 最高裁判例「検定処分取消(教科書訴訟第二次上告審)」(民集第36巻4号594
   頁)
【理由】
旧学習指導要領は昭和五一年三月三一日の経過をもつて失効し、それに代つて新学習指
導要領が全面的に実施され、これに伴つて本件各改訂検定申請に適用される審査基準も
変更をみるに至つたのであるから、仮に本件各検定不合格処分が取り消されても、昭和
五一年四月一日以降は原則として本件各改訂検定申請につき新たに審査をすることは許
されないこととなり、その結果被上告人は本件各検定不合格処分の取消しによつて回復
すべき法律上の利益を失うに至つたものということにならざるをえない。
★ 法令の改廃により訴えの利益が存在しなくなることもある。

●● 最高裁判例「建築基準法による確認処分取消」(民集第38巻10号1169
   頁)
【理由】
建築確認は、それを受けなければ右工事をすることができないという法的効果を付与さ
れているにすぎないものというべきであるから、当該工事が完了した場合においては、
建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われるものといわざるを得ない。

●● 最高裁判例「土地改良事業施行認可処分取消」(民集第46巻1号54頁)
【要旨】
町営の土地改良事業の工事等が完了して原状国復が社会通念上不可能となった場合であ
っても、右事業の施行の認可の取消しを求める訴えの利益は消滅しない。
【理由】
本件認可処分は、土地改良事業施行権を付与するものであり、本件事業において、本件
認可処分後に行われる換地処分等の一連の手続及び処分は、本件認可処分が有効に存在
することを前提とするものであるから、本件訴訟において本件認可処分が取り消される
とすれば、これにより右換地処分等の法的効力が影響を受けることは明らかである。
そして、本件訴訟において、本件認可処分が取り消された場合に、本件事業施行地域を
本件事業施行以前の原状に回復することが、本件訴訟係属中に本件事業計画に係る工事
及び換地処分がすべて完了したため、社会的、経済的損失の観点からみて、社会通念
上、不可能であるとしても、右のような事情は、行政事件訴訟法三一条の適用に関して
考慮されるべき事柄であって、本件認可処分の取消しを求める上告人の法律上の利益を
消滅させるものではないと解するのが相当である。
★ 工事完了後であっても、認可処分の取消しを求める訴えの利益は失われない。

●● 最高裁判例「開発許可処分等取消」(民集第47巻7号4955頁)
【要旨】
都市計画法二九条による許可を受けた開発行為に関する工事が完了し、当該工事の検査
済証の交付がされた後においては、右許可の取消しを求める訴えの利益は失われる。
【理由】
開発行為に関する工事が完了し、検査済証の交付もされた後においては、開発許可が有
する前記のようなその本来の効果は既に消滅しており、他にその取消しを求める法律上
の利益を基礎付ける理由も存しないことになるから、開発許可の取消しを求める訴え
は、その利益を欠くに至るものといわざるを得ない。
★ 原処分の取消しを求める訴えの利益が消滅すれば、裁決の取消しを求める訴えの利
  益も消滅する。

●● 最高裁判例「開発許可処分取消」(民集第51巻1号250頁)
【要旨】
開発行為によって起こり得るがけ崩れ等により生命、身体等を侵害されるおそれがある
と主張して開発許可の取消訴訟を提起した開発区域周辺住民が死亡したときは、右訴訟
は当然終了する。
【理由】
記録によれば、上告人Cは、本件訴訟が当審に係属した後に死亡したことが明らかであ
る。同上告人の有していた本件開発許可の取消しを求める法律上の利益は、同上告人の
生命、身体の安全等という一身専属的なものであり、相続の対象となるものではないか
ら、本件訴訟のうち同上告人に関する部分は、その死亡により終了したものというべき
である。

●● 最高裁判例「再入国不許可処分取消等」(民集第52巻3号677頁)
【理由】
本邦に在留する外国人が再入国の許可を受けないまま本邦から出国した場合には、同人
がそれまで有していた在留資格は消滅するところ、出入国管理及び難民認定法二六条一
項に基づく再入国の許可は、本邦に在留する外国人に対し、新たな在留資格を付与する
ものではなく、同人が有していた在留資格を出国にもかかわらず存続させ、右在留資格
のままで本邦に再び入国することを認める処分であると解される。そうすると、再入国
の許可申請に対する不許可処分を受けた者が再入国の許可を受けないまま本邦から出国
した場合には、同人がそれまで有していた在留資格が消滅することにより、右不許可処
分が取り消されても、同人に対して右在留資格のままで再入国することを認める余地は
なくなるから、同人は、右不許可処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を失う
に至るものと解すべきである。

●● 最高裁判例「建築基準法第59条の2第1項による許可処分等取消請求事件」
   (民集第56巻3号613頁)
【要旨】
建築基準法施行令(平成5年政令第170号による改正前のもの)131条の2第2項
に基づく認定処分がされた建築物につき同項によりその前面道路とみなされる都市計画
道路が完成して供用が開始された場合には、上記処分の取消しを求める訴えの利益は失
われる。

●● 最高裁判例「交際費等非公開決定処分取消請求事件」(民集第56巻2号467
   頁)
【要旨】
愛知県公文書公開条例(昭和61年愛知県条例第2号)に基づき公開請求された公文書
の非公開決定の取消訴訟において、当該公文書が書証として提出された場合であって
も、上記決定の取消しを求める訴えの利益は消滅しない。
【理由】
本件条例5条所定の公開請求権者は、本件条例に基づき公文書の公開を請求して、所定
の手続により請求に係る公文書を閲覧し、又は写しの交付を受けることを求める法律上
の利益を有するというべきであるから、請求に係る公文書の非公開決定の取消訴訟にお
いて当該公文書が書証として提出されたとしても、当該公文書の非公開決定の取消しを
求める訴えの利益は消滅するものではないと解するのが相当である。
したがって、本件処分1のうち原審係属中に書証として提出された番号325、32
7、577、707、723及び746の情報が記録されている本件現金出納簿中の部
分を非公開とした部分並びに本件処分2のうち原審係属中に書証として提出された交際
の相手方以外の者が発行した本件領収書を非公開とした部分を取り消すべきものとした
原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。


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