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「持ち帰り残業」について時間外手当を払うべきか?

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 経営・労務管理ビジネス用語の
   あれっ! これ、どうだった?!

  第50回 「持ち帰り残業」について
              時間外手当を払うべきか?
 
<第65号>      平成23年6月13日(月)
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発行人のプロフィル⇒ http://www.ho-wiki06.com
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こんにちは! 
メルマガ初訪問の皆さま、ありがとうございます。

1週間のご無沙汰でした。
亥年のアラ還、小野寺です。

この度の東日本大震災で多くの尊い生命を失いました。
特に、未来に限りない希望と可能性を秘めた幼い生命が
失われたことは痛恨の極みです。

すでに震災発生後3か月が経過しました。
一日も早い「復興プラン」と言われてきましたが、

各種の専門会議が創られ、経済特区などの案は出ていますが
具体的な復興プランの内容についての議論がまだ始まっていません。

それよりも財源をどうするかとの議論ばかりが先行しています。
敢えて言えば、本末転倒ではないでしょうか。

復興プランが決まり、その内容と規模により予算が策定され
それに伴い必要な財源が検討されるべきと考えます。

確かに避けることのできない天災ですが、そこに種々の人災が
加わって被害が大きくなったことも巷間、指摘されるとおりです。

前回紹介した関東大震災の時の後藤新平のような方が
出現してほしいと願うばかりです。

さて、本論ですが、社員が業務書類を自宅に持ち帰って仕事をする、
いわゆる「持ち帰り残業」について、

その労働時間に相当する時間外手当を支払う必要が
あるか否かについて問い合わせがありました。

なお、その持ち帰り残業が、使用者の命令によるものか、
自発的な意思に基づくものかによっても異なってくると言えます。

今回は、この点について考えてみます。

★☆[今日のちょっといい話]★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
●作家、黒井 千次さんが語っています。

「節電のために駅やスーパーは照明を絞っても、困ったことは
起きていない。この暗さで十分やっていけるんじゃないでしょうか。
『電力需要があるから』と火力と原子力を同列に受入れてきたが、
そんな戦後のおごったあり方は反省すべきでしょう。」

確かに、歓楽街の赤を基調としたけばけばしいネオン群。
「赤」は人間の本能を刺激し欲望を生み出すといいます。
そこに、酒と女性と快楽が渦巻くようです。
戦後の高度経済成長の証しのシンボルなのでしょうか。
震災を契機に電気の使用方法を再検討する機会かも知れません。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

◆◆ 労基法上の労働時間とは ◆◆

○ この問題について考える場合、まず労基法上の労働時間とは
どのようなものか確認しておく必要があります。

労働時間とは、一般に「使用者の指揮監督(あるいは指揮命令)の
もとにある時間であり、必ずしも現実に精神又は肉体を
活動させていることを要件とはせず、

使用者の明示又は黙示の指揮命令下に行われている限り、
労働時間である。」と解されています。
(厚労省労働基準局編「労働基準法」上)

○ 従って、労働者が本来の業務のやり残した部分を、
自宅で仕事を続けることについて、

それが果たして使用者の指揮監督下にあるといえるかどうかが
ポイントとなります。

ところで、労働の態様として、例えば営業担当者のように
所属する事業場の外での労務の提供がほとんどという例も
少なくありません。

こうした職種の労働者について、事業場外の業務であっても
使用者の包括的な指揮監督のもとにあると考えられています。

ただし、労働者のこのような業務の性格上、
労働時間の長さについて使用者が把握困難な場合には、

労働時間の特例として、労基法第38条の2により、
所定労働時間労働したものとみなすこととされています。

しかし、事業場外における労働であっても、
例えば、外出の際に事業場において使用者にその業務の
内容を伝え、

あるいは業務終了の場合には、事業場に戻って報告することが
義務付けられているような場合は、

労働時間の把握ができるため、
同条の適用はないものとされています。

○ このような明示の命令による事業場外における労働からの
類推で、同じく明示の命令による「持ち帰り残業」を
考えた場合、

上記の事業場外での労働も使用者の包括的な指揮監督下に
あることを踏まえると、「持ち帰り残業」も労働時間
考えられそうにも思います。

しかし、この場合でも先の営業担当者と基本的に異なるのは
「持ち帰り残業」の場合は、

その作業が当該労働者の私的な生活の場である
「家庭」で行われることです。

つまり、家庭での作業は私的生活と混在しているため、
その仕事に要した時間をそのまま賃金支払の対象時間と
することが出来るかとの問題があります。

例えば、仮に使用者が家庭における労働時間数を
あらかじめ指定したとしても、

労働者の能力によっては、それより短い時間で仕上げて
あとはテレビを見ていたかも知れませんし、
逆に、もっと時間を要したかも知れません。

その意味では、顧客という相手のある仕事をする
営業担当者に比べて、使用者の指揮監督の影響力は
極めて弱いものと言えます。

○ それよりも、こうした「持ち帰り残業」を広く認めると
さまざまな弊害が生ずることが考えられます。

例えば、所定労働時間内の労働能率が低下する、いわゆる
労働生産性が低下すること、

逆な見方をすると、全体的に労働が強化されるとか、
違法な時間外労働が行われやすくなる等々です。

また、明示による「持ち帰り残業」はともかく、
そうでない自発的な「持ち帰り残業」が

本当に本人の能力不足なのか、又は仕事量が多いからなのか
その仕事を持ち帰ってまで行う必要があるのか、
その場合、どのくらいの時間を要したのか等、

労務管理の面からも、非常に問題の多い制度であると
言わざるを得ません。

さらに、極めて稀なことと思いますが、
自宅での残業中に災害に遭ったときの災害補償を
どう考えるのか、

36協定は必要なのかどうか、必要とすれば
どういう内容の協定とするのか等々、
面倒な問題も生じることになります。

以上から考えると、「持ち帰り残業」に要する労働時間は、
たとえ使用者の明示の命令に基づく場合も含めて、
労基法上の労働時間と解するのは、適当でないと言えます。

従って、「持ち帰り残業」自体を禁止する旨を、
就業規則等に明確に定めることが有益な措置と考えるものです。

◆◆ 「持ち帰り残業」禁止に従わない場合の対応 ◆◆

○ 近年のインターネットの急速な進展と個人別パソコンの
普及により、顧客情報が社外へ流失する事件が
社会問題ともなっております。

その内容・程度によっては、損害賠償問題にも発展する
可能性も秘めております。

そのため、こうした「持ち帰り残業」に伴い、
私物のパソコンから顧客情報がインターネットに

流失しないようにと注意をしても改まらない場合、
どう対応すればよいのでしょうか。

つまり、このような場合に、どのような懲戒処分
行うことができるか、ということになります。

○ 懲戒処分を行うためには、その処分に係る事由が
就業規則等に規定されている必要があります。

この点に関して労働契約法(以下「労契法」)には、
労働者及び使用者労働契約を締結する場合において、
使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則

労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、
その就業規則で定める労働条件によるものとする。」(第7条)
とあります。

つまり、就業規則に合理的な労働条件が定められており、
その中に「持ち帰り残業」等の会社として禁止していることが

明文の規定としてあることと、その内容をあらかじめ
周知していることが必要とされています。

○ 一般に、各企業の就業規則には、機密事項の保持のために
次のような規定を「服務心得」として定めている場合が
多いようです。

「会社の業務上の機密事項を記録する媒体物につき、
所属長の許可なくしてコピー、複製、撮影等をし、社外に
持ち出さないこと。」、あるいは、

「パソコン等からアクセスすることができる会社の業務上の
機密事項を記録する情報については、閲覧する権限の

有無を問わず、所属長の許可なくしてコピー、プリントアウト、
その他複製及び他のパソコンやネットワークに
データ送信等をしないこと。」等と。

そして、これらの規定に違反して、業務上の機密事項又は
会社の不利益となる事項を他に漏らし、会社に相当の

損害を与えた場合に、懲戒解雇を含め懲戒処分をする旨、
定めていることが多いようです。

従って、「持ち帰り残業」に関しても、同じく明文で規定し
労働者に周知することにより有効となると言えます。

この点については裁判例においても、
労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範と
しての性質を有するだけでなく、

それが合理的な労働条件を定めているものである限り・・・
その法的規範性が認められる。」と判示している通りです。
(「秋北バス事件」昭43.12.25最高裁大法廷判決)

○ もし、就業規則に規定がなくその変更手続の終了前に
現実に生じている事態を直ちに禁止したい場合、かつ、

会社が黙示の残業命令を出していたり、あるいは
会社情報の無断持出を黙認していると誤解されない為にも

口頭ではなく書面により、明確に「持ち帰り残業」禁止と
会社情報の無断持出禁止の命令を発出することが肝要です。

さらに、その書類を渡す際に、その写しに当該社員の
署名か記名押印をもらうようにし、かつ、写しには
渡した年月日と時刻をメモしておくことを推奨します。

○ それでもなお、命令違反が続くような場合には、
懲戒処分を検討して差し支えないものと思います。

その場合、労契法第15条に懲戒処分を行う際に、
その処分内容が(1)客観的に合理的な理由と、(2)社会
通念上相当であること、等が必要とされており、

その主張立証責任使用者側にあることから、
日常的に、持ち帰り残業や会社情報の無断持出の事実を
把握しておく必要があります。

そして、懲戒処分の程度については、一般的にけん責処分が
相当と言えますが、その会社の業種や会社情報の重要性、

当該社員の反省状況や実害の有無の程度によっては、
さらに重い懲戒処分も考えて良いと思います。

ただし、その場合でも、懲戒解雇諭旨解雇のような
労働契約の終了を伴う懲戒処分については、

少なくとも重要情報の大量流失といった、
会社の社会的信用失墜をもたらすような場合は別として
無効とされる可能性が高いと考えられます。(了)

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■■ 編集後記 ■■
きょうも最後までお読みいただきありがとうございます。

前号分から「今日のちょっといい話」と題して、各界の方の
言葉を紹介しております。日々の生活、人生に何らかの有益な
示唆ともなれば、望外の喜びです。

さて、5月上旬に、アッという記事が新聞に載りました。

ソニー・コンピュータエンタテインメント・アメリカ(SCEA)
が運営するインターネット配信サービスからの
個人情報流失問題について記憶に新しいことと思います。

5月4日、SCEAは米下院公聴会に提出した回答書で、
約7700万件の個人情報が盗まれたことを明確に認めました。

しかし、現実には流出した個人情報は最大で1億件、加えて
悪用の可能性が懸念されるクレジットカード情報は
1230万件にも上るとみられており、

流出を防げなかったソニーに対して利用者からの批判は
かなり強まっています。

日本のソニー本社の会見で、利用者が被害を受けた場合、
1人当たり最大で100万ドル(約8000万円)の
保険金が支払われるよう準備したと表明しています。

しかし、すでにカナダ人女性が10億カナダ・ドル(約
830億円)の賠償を求めるなど、損害賠償の訴えが
各地で出ているとのことです。

しかも、米連邦取引委員会(FTC)は、ソニーの個人情報
保護体制が適切だったかどうか調査を進めるとしており、

もし、ソニーの情報管理に不備が認められれば、
行政処分や制裁金などの責任が問われるおそれもあると
指摘しています。

国際ハッカー団の関与も取り沙汰されており、ソニーが
FBI(米連邦捜査局)に捜査を依頼しており、
今後、どう展開するのか目を離せない状況と言えます。

では、また次号でお会いしましょう。
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★発行責任者   小野寺 弘
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