こんにちは。社会保険労務士の田中です。
スタートアップ企業の支援をしています。
☆☆ はじめに ☆☆
このコラムでは、成長ステージにあるスタートアップ企業に
人事・労務面のアドバイスをご提供しております。
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☆☆☆ 第12回 地味だが大切。労使協定を忘れた時のリスク ☆☆☆
第11回のコラムでは、労使協定を「地味だが大切」と説明しました。
なぜならば、忘れるとリスクが大きく、そして忘れがちだからです。
今回は起こり得るリスクについて、事例を使ってお伝えします。
♯♯♯ リスク事例 その1 締結をしていなかった! ♯♯♯
X社は、毎月1回の土曜日出勤があるため、3年前の創業時から
「1年単位の変形労働時間制」を導入しています。
なお、創業時は社会保険加入・就業規則作成などを社会保険労務士に
スポットで委託したので、「1年単位の変形労働時間制」についても
労使協定を締結して、労働基準監督署に届け出してもらいました。
その後、総務関連は外部委託せず、経理のAさんが担当しています。
Aさんは経理には詳しいのですが、労務関連は得意ではありません。
そのため、「1年単位の変形労働時間制」の労使協定は、
創業時に提出したものが今でも有効、という認識であり、
毎年、労働基準監督署に届け出る必要性を知りませんでした。
X社はその後も月1回の土曜日出勤を続けていますが、
ある日、創業メンバーの甲さんが社長と衝突して退社しました。
そして、退社後しばらくしてから、次の旨の内容証明郵便が届きました。
「 『1年単位の変形労働時間制』の労使協定が締結されていないので、
土曜日に出勤した分は、2年前に遡り時間外手当として全額支払え 」
これを読んだ経理のAさんは対応に困り、創業時に手続きを頼んだ
社会保険労務士に相談したところ、次の様な回答が返ってきました。
『 労使協定を締結、届け出をした最初の1年間に限って、
「1年単位の変形労働時間制」は適用されていました。
その後の2年間は労使協定が締結・届け出されていないので、
退社したAさんの主張通り、土曜日の出勤については、
時間外手当を支払わなければなりません。 』
金額にして50万円を超える支払になってしまいました・・・
♯♯♯ リスク事例その2 労働者代表の選出が無効だった! ♯♯♯
Y社は「専門業務型の裁量労働制」の労使協定を締結しています。
毎年、従業員代表に署名捺印してもらい、労基署に届け出ています。
事例1のX社は、労使協定の届け出がされていない事が問題でしたが、
Y社は、4月スタートの労使協定を3月中にきちんと届け出をしています。
なお、「専門業務型の裁量労働制」とは対象となる社員が、
1日何時間会社にいたとしても、予め定めた時間(8時間とか10時間)
だけ働いた、として給与を支払うルールです。
(なお、専門業務型の裁量労働制を適用できるのは、特定の19業務だけです。)
つまり、「1日に8時間働いたことにする。」と定めれば、
1日に10時間会社にいても、「8時間働いた」ということになります。
逆に6時間だけしか会社にいなくても、「8時間働いた」ことになります。
Y社の場合、「1日に8時間働いた」と協定で定めていました。
仮に会社に11時間いたとしても、8時間働いたことになるので、
3時間分の時間外手当は支払わなくても問題ありません。
これが「専門業務型の裁量労働制」の労使協定を正しく締結、
労働基準監督署に届け出した場合の効果です。
ところが、ここで問題発生です。
会社で長時間労働をしがちな乙さんが退職しました。
そして、次の様なメールを社長あてに送ってきました。
「裁量労働制の労使協定において、労働者代表となっているBさんは、
会社が一方的に労働者代表と決めた人で、従業員の多くは、
Bさんが労働者代表であるとは認識していない。
従って、労使協定は無効になり、通常に勤務をしていたことになるので、
遡って、1日8時間を超えた労働分の割増手当を支払って欲しい。」
この場合も、Bさんの労働者代表としての選出が無効ならば、
「専門業務型の裁量労働制の労使協定」も無効になってしまいます。
つまり会社が、従業員の働き方について「裁量労働」と思っていても
実際には通常の勤務形態であったと判断された場合、
時間外手当の未払い額が多額になるおそれがあるという事です。
労働者代表は、投票・協議・互選など民主的な方法で選出される事が必要です。
また、会社が従業員にきちんと知らせず、総務担当者を代表者にすることも
散見されますが、好ましくない方法です。
問題の無い労働者代表の選出方法は別の機会に説明しますが、
「労使協定が無効!」と主張される事を防ぐために、
労働者代表はきちんと選出することがとても必須です。
以上、見てきたように労使協定はどこからも届け出を促す連絡はこないので、
自社で忘れずに確実に労働基準監督署に届け出なければなりません。
たかが紙1枚、されど紙1枚。労使協定1枚は相当に重いです。
1枚で現金、数十万円以上になりかねません。どうぞご注意ください。
今回も最後までお読み頂き、ありがとうございました。
☆☆☆☆ スタートアップの人事・労務 ☆☆☆☆
他にも、次のようなコラムがあります。よろしければ、お読みください。
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