• HOME
  • コラムの泉

コラムの泉

このエントリーをはてなブックマークに追加

専門家が発信する最新トピックスをご紹介(投稿ガイドはこちら

個人事業主と労組法上の「労働者」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ビジネスに直結する実践的判例・法律・知的財産情報

石下雅樹法律・特許事務所 第47号 2010-05-19
http://www.ishioroshi.com/
-------------------------------------------------------
事務所概要
http://www.ishioroshi.com/btob/lawyer_officeb.html

顧問弁護士契約顧問料・無料お試し期間)についての詳細は
http://www.ishioroshi.com/btob/komon_feeb.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1 今回の判例  個人事業主と労組法上の「労働者
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

東京高裁 平成21年9月16日判決

 A氏(個人)は、B社と業務委託契約を締結して、カスタマーエ
ンジニアとして住宅設備機器の修理を行っていました。A氏は、労
働組合に加入し、B社に対して労働条件の変更などを目的に団体交
渉を申し入れましたが、B社が、A氏は雇用契約を締結した労働者
ではないとして申入れを拒絶しました。

 そこで、A氏はB社の団交拒絶は不当労働行為にあたるとして、
大阪府労働委員会(府労委)に救済を申し立てたところ、府労委は
、A氏は労働組合法(労組法)上の労働者にあたるとして、B社に
対し団体交渉に応じるように命じました。B社は中央労働委員会
中労委)に再審査を申し立てましたが、中労委も府労委の判断を維
持する命令を出しました。

そこで、B社は、東京地裁に対して中労委の命令の取消を求めて訴
えを提起しましたが、ここでも棄却されたため、控訴しました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2 裁判所の判断
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 東京高裁は、B社の請求を認めて、中労委の命令を取り消しまし
た。この前提にあったのが、A氏は労組法上の労働者ではないとい
う判断です。この際、以下のような事情が考慮されました。

● A氏は、業務委託契約に基づくB社からの個別の申込を、任意
に拒否することができた。

● A氏は、B社から、時間的・場所的な拘束や、具体的な指揮監
督を受けることはなかった。

● A氏の報酬は、行った業務に応じた出来高払いであった。

● A氏は、B社から、制服の着用や名刺の携行、マニュアルに基
づく業務の遂行、業務終了後の報告、研修や会議の出席が求められ
たが、これらはあくまでも業務委託の内容による制限にすぎず、使
用従属関係を示すものではなかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
3 解説
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

個人事業主労働者か】 

 近年、就業形態の多様化に伴い、企業と請負契約や業務委託契約
を結んで仕事を行う個人事業主が増加しています。企業側としても
コスト削減などのメリットがありますので、このような方法を採用
している会社は少なくないと思われます。

 しかし、同時に、「偽装雇用」の存在が指摘されています。つま
り、名目上は個人事業主なのですが、実態としては、雇われ労働者
として働いている場合があるようです。

 もし、企業と請負・業務委託契約を結ぶ個人が、実際には「労働
者」であれば、企業は、割増賃金社会保険料を支払う義務、解雇
・雇止めの制限、団体交渉に応じる義務など、多くのリスクを抱え
ることになりますので、このような個人が、個人事業主なのか労働
者なのかというのは、企業にとって重大な問題です。そして、この
点をめぐって、企業と個人の間のトラブルが発生しており、企業は
時間的にも経済的にも想定外のコストを負担することになりかねま
せん。

【判例の考え方】

 従来の判例は、「労働者」といえるかどうかは、契約の名称にか
かわらず実態に即して判断されるとし、請負業務委託といった名
称の契約に基づいて働く者であっても、その実態から労働者である
と判断されれば労働法の保護を受けることができるとしています。

 今回の判例も、B社と業務委託契約を結んでいたA氏が、労組法
上の労働者として救済を受けられるかが争われました。裁判所は、
労組法上の「労働者」にあたるかを判断するに際し考慮すべき要素
として、具体的に次の点を挙げ、詳細な事実を検討しています。

  1) 労務提供者に業務の依頼に対する諾否の自由があったか
  2) 労務提供者が時間的・場所的拘束を受けていたか
  3) 労務提供者が業務遂行について具体的な指揮藍督を受け
ていたか
  4) 報酬が業務の対価として支払われていたか
 
【今後に備えて】
 
 今回の判例では、上の要素を踏まえて、A氏は労組法上の労働者
ではないとされ、企業側が勝訴しましたが、府労委、中労委、東京
地裁とは判断が分かれました。このことからも、本件がどちらに転
んでもおかしくない「グレーゾーン」に属する事例であったと思わ
れます。

 このように、企業と請負・業務委託契約を結んで仕事を行う個人
事業主の保護については、未だ明確なルールがないのが実情ですの
で、今後、かかる契約形態を活用を考える企業としては、紛争防止
や想定外のコスト発生回避のための方策を取ることは望ましいと思
われます。

 例えば、求人段階において、雇用といえるような業務を請負や業
務委託で募集しないことや、募集するのは請負業務委託であるこ
とを明示することができるかもしれません。また、契約段階におい
ても、雇用との働き方の違いや、報酬の決め方・契約期間違約金
などの条件を、十分に説明することが大切であると思われます。さ
らに、会社の規模によっては、ガイドラインや苦情処理手続の策定
も検討できるでしょう。

 活用中の企業としても、上の要素に照らし、このような個人事
主について、個人の裁量で仕事を進めることを認めているか、契約
外の業務を行わせることがないか、毎日決まった時間に出社させて
いないか、働く場所は会社が指定していないか、報酬を決める際に
労働時間を重視していないかなど吟味して、雇用と認定されないよ
う、見直すべきところは見直すことができるでしょう。

 また、実態は雇用なのか請負なのかといった契約の性質の判断や
契約書の作成などの局面においては、弁護士のアドバイスを受ける
などの活用を考えることも有益ではないかと思います。

 いずれにしても、企業側としては、事後に紛争や思わぬコストを
抱えるよりも、なるべく事前に問題の芽を摘んでおくことが賢明な
判断といえるでしょう。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本マガジンの無断複製、転載はご遠慮ください。

ただし、本マガジンの内容を社内研修用資料等に使用したいといっ
たお申出については、弊所を出典として明示するなどの条件で、原
則として無償でお受けしています。この場合、遠慮なく下記のアド
レス宛、メールでお申出ください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【編集発行】石下雅樹法律・特許事務所
〒220-0011 神奈川県横浜市西区高島2-10-13
 横浜東口ビル4階
mailto:info@ishioroshi.com

弁護士紹介
http://www.ishioroshi.com/btob/lawyer_ishioroshib.html

法律相談のご案内(初めての法人の方は初回30分無料です)
http://www.ishioroshi.com/btob/soudan_firstb.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本マガジンに対するご意見,ご感想は
mailto:info@ishioroshi.com まで
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

絞り込み検索!

現在22,382コラム

カテゴリ

労務管理

税務経理

企業法務

その他

≪表示順≫

※ハイライトされているキーワードをクリックすると、絞込みが解除されます。
※リセットを押すと、すべての絞り込みが解除されます。

スポンサーリンク

経営ノウハウの泉より最新記事

スポンサーリンク

労働実務事例集

労働新聞社 監修提供

法解釈から実務処理までのQ&Aを分類収録

注目のコラム

注目の相談スレッド

スポンサーリンク

PAGE TOP