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事業譲渡における労働契約の取り扱いについての考察

平成22年6月15日 第81号
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人事のブレーン社会保険労務士レポート
───────────────────────────────────
目次

1.事業譲渡における労働契約の取り扱いについての考察

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1.事業譲渡における労働契約の取り扱いについての考察

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<1> 事業譲渡とは

(1)合併と企業分割
 事業譲渡とはどの様に定義されるのか。
合併や企業分割は、会社法上の行為であり、合併は一方の会社の消滅を伴う権利
義務の包括承継であり、会社分割は、部分的、恣意的な権利義務の一部包括承継
とされており、どちらの場合でも、その権利義務については包括的に引き継がれ
ることとなる。
 会社分割には、どの部門を分割するのかという恣意性が当事者間には存在する
が、労働契約承継法により、一定のルールが規定されている。
 
(2)事業譲渡

 事業譲渡とは、「事業、すなわち企業における一定の目的のために組織化され、
有機的一体として機能する財産の譲渡」と定義される。

 合併や企業分割が会社法に基づく組織法上の行為であるが、事業譲渡は、個々
の事業財産あるいはこれに付随する権利義務の承継という取引法上の行為にすぎ
ないとされている。
 よってどの権利義務を承継するかについては、事業譲渡する企業(譲渡会社)
と事業を譲り受ける会社(譲受会社)の合意が必要であり、かつ債務を伴う契約
上の地位移転について債権者の承諾が必要となる。
 これは労働契約についても同様であり、第一に労働契約の承継について譲渡企
業と譲受会社の合意が必要であり、第二に、その労働契約の承継について労働者
の承諾が必要となってくる。

<2> 一部の事業を譲渡する場合

 労働契約の承継については、一部の事業を譲渡する場合と全ての事業を譲渡す
る場合に分けて考える。

 まず会社には採用の自由がある。採用については会社に裁量権があるのである。
この点については、中労委青山会事件(東京高判 平14.2.27労判824
号17頁 最決平16.2.10労判868号98頁)「営業譲渡の場合、譲受
人と被用者との間の雇用関係を譲受人が承継するかどうかは、原則として、当事
者の合意により自由に定めうるものと解される。」と東京日進学園事件(東京高
判 平17.7.13労判899号19頁 最決平18.12.22労判928
号98頁)「営業譲渡契約は、債権行為であって、契約の定めるところに従い、
当事者間に営業に属する各種の財産を移転すべき債権債務を生ずるにとどまるも
のである上、営業の譲渡人と従業員との間の雇用契約関係を譲受人が承継するか
どうかは、譲渡契約当事者の合意により自由に定められるべきものであり、営業
譲渡の性質として雇用契約関係が当然に譲受人に承継されることになるものと解
することはできない。」とした。
よって、譲受人が選別を行い、特定の労働者について承継しないということも可
能である。

しかしこれらの裁判例は、あくまで被用者を譲受人が採用するかどうかの問題で
あり、譲受人が採用しないことをもって、当該被用者が失職するということでは
ない。
当該被用者の雇用契約関係が譲渡人から譲受人に承継されないというにすぎず、
承継されない以上は、譲渡人との雇用契約関係が継続するということとなる。

(2)恣意的に特定の労働者を排除する雇用契約関係の承継

 前述においても、まず「その事業に関わる労働者のほぼ全ての雇用契約関係が
譲受人に承継された場合」は、例外が生じる場合がある。
 例えば、労働組合員等、恣意的に排除することが明らかな場合には、譲受人が
雇用契約関係を承継しないことにつき、公序良俗に反し、無効とされたケースが
ある。(前掲東京日進学園事件)
 この件については、労働法の基本的な考えにたてば当然であり、大多数の労働
者の雇用契約関係が譲受人に承継されたにもかかわらず、特定の労働者のみが明
確な理由も存在しないのに承継されないということは、使用者に恣意的な「意図」
の存在が疑われる場合である。
 承継されないことにより、その労働者に不利益(例えば、講師という職業に従
事したいが為に、入社したにもかかわらず、その部門が事業譲渡され、教材の販
売に従事する様な場合)が発生するようなケースであれば、公序良俗に反すると
され、無効となる可能性もある。

(3)転籍について

 転籍を拒否する労働者についてはどの様に考えるべきなのか。
事業譲渡は原則として、どの労働契約を継承するのかは、譲渡人と譲受人の合意
が前提である。
そして、その継承について労働者が合意をしてはじめて成立するものである。
 事業譲渡を行い、譲受人に雇用契約関係が承継されるが、労働条件が引き下げ
られたものとなっており、その引き下げられた労働条件労働者が同意しない場
合にはどの様に考えるのであろうか。

譲渡人と譲受人でどの様な権利義務を承継するのか合意がなされた。
その内容が、譲受人の労働条件について譲渡人の労働条件より引き下げられたも
ので合意がなされた場合には、その引き下げられた新たな労働契約に対して、債
務者である労働者が合意をしなければ、そもそもその事業譲渡は成立しないとい
うこととなる。

 では、大多数の労働者が同意をしたが、少数の労働者が合意をしなかった。
就業規則には、転籍を拒否する場合には解雇できる旨の記載があったとしても、
解雇することは出来ないとされている。(ミロク製作所事件 高知地判 昭53.
4.20労判306号48頁)。「転籍は、移転先との新たな労働契約の成立を
前提とするものであるところ、この新たな労働契約は元の会社の労働条件ではな
いから、元の会社がその労働協約就業規則において業務上の都合で自由に転籍
を命じうるような事項を定めることはできず、したがってこれを根拠に転籍を命
じることはできないのであって、そのためには、個別的に従業員との合意が必要
であるというべきである。」とされた。
 よって、事業譲渡により転籍をさせることとなる労働者とは十分に、その意義
や譲渡後の将来の展望について話し合って、納得をしてもらうほかない。

<3>全部の労働契約を承継する場合
 
 譲渡人の全部の事業を譲受人に譲渡する場合には、全ての労働者転籍させる
必要が生じる。
 この場合には、労働条件の引き下げに反対している労働者等の雇用契約関係を
承継しないことは公序良俗違反となる。(前掲東京日進学園事件)
 
<4>まとめ
今回は事業譲渡に関する雇用契約についてまとめた。
事業再編は中小企業においても行われており、「後継者がいない」「事業の再構
築」等様々な理由があるが、法的な背景をしっかりとおさえて実務に携わって頂
きたく今回のテーマとした。

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編集責任者 特定社会保険労務士 山本 法史
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